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葛の葉奇譚  作者: 椿
第8章:京都戦乱―後編―
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 歴史の風情薫る趣深い京町屋。そんな京町屋に似つかわしくないドスンッドスンッという重い足音が響き渡る。

 「全く、白虎ときたらっ!勝手な行動は慎むべきだっ!!」

 上空から放たれる光の矢の攻撃を植物の蔓を使って腹立たし気にビシッと払い除けながら、私は眉間に皺を寄せ、大股でズンズンと歩いていた。

 「・・・六合。白虎の自由奔放な振る舞いは、今に始まった事じゃない。」

 隣に居た天空が、刀で矢を弾きながら私を宥めようと静かに語り掛ける。

 「まあ、それはそうなんだが・・・」

 ふぅっと1つ大きなため息が零れてしまう。


 私と天空と白虎の3人はこの京町屋の担当になり、賀茂家の屋敷から走って向かっていたのだが、途中で光の矢の攻撃に行く手を阻まれた。 

 「矢の攻撃が鬱陶しいのデ、私は其方を片付けて来まス。指定された場所へは2人で行って下さいネ☆」

 ちらりと北東の方に視線を向けながら、白虎はにやりと笑みを浮かべる。そして光の矢の放たれる方向に向かってすたすたと歩き始めた。

 「ちょっ!?白虎!?」

 急いで引き留めようと私が声を掛けると、白虎はくるりと此方に振り向いて、「ジャ☆」と楽しそうに手を振りサッと走り去ってしまった。ぽつんと残された私達は、驚きの余り一瞬頭が真っ白になってしまったのである。


 はぁ・・・彼奴の独断行動、どうにかならないものか。

 痛くなる頭で考えてみるが、白虎が大人しくなる方法なんて見つかる筈もない。気を取り直し、自分の役目に集中しようと私の腕目掛けて飛んで来た光の矢を弾き落としたその時―

 巨大な手が私と天空を潰そうと前方から襲い掛かって来た。私達はサッと後方に飛んで回避すると、体勢を整え直ぐに身構えた。私達の視線の先に現れたのは坊主姿の老夫と、2つの顔と4本ずつの手足を持つ異形の男だった。

 「私は見越入道。隣に居るのは両面宿儺だ。悪いが、君達には大人しくしていて貰おうか。」

 見越入道はそう語ると、片手を前に翳した。すると、私の体が突然物凄い力で左の家屋の壁に引っ張られた。

 「ぐはぁっ!?」

 家屋の壁を幾つも突き抜け、少し離れた場所まで飛ばされる。強烈な威力の衝撃が全身を貫く。体中の痛みと息苦しさで頭がくらくらする。

 「六合っ!?・・・くぅっ!?」

 私を心配し声を掛けていた天空に、両面宿儺が飛び掛かる。天空は2本の刀で攻撃を受け止めるが、両面宿儺は後ろの2本の腕を振り下ろし天空の両肩に刀を突き立てる。

 「うう”っ。」

 両肩から真っ赤な血飛沫が舞い上がる。天空は激痛に顔を歪ませながらも、刀に力を込めて両面宿儺を押し返した。天空ははぁっはぁっと荒い息遣いをしながら体勢を整える。そして力一杯踏み切ると、くるりと回る様に2本の刀で斬り掛かる。両面宿儺は天空の攻撃を4本の刀で受け止める。2人の剣戟は目で追えない程のスピードで繰り広げられ、キィィンッという重く響く音を奏でている。天空は両面宿儺の刀を思い切り弾くと、後方に飛び退いて距離を取る。両面宿儺は天空の方へと一直線に駆け抜け、大振りな一撃を振るう。天空は砂を圧縮させた盾を構え、両面宿儺の一撃を受け止める。ギリギリ、ミシミシと軋む音が盾から小さく漏れる。

 「こんな盾、砕いてやる。」

 刀を握る両面宿儺の手に更に力が籠っていく。

 「お前に俺の盾は壊せない。」

 天空がそう呟いた直後、彼の盾の中央が鋭く尖り太く巨大な針が出現する。針は目の前の両面宿儺の体を勢い良く刺し貫いていく。盾と針を砂に戻すと、天空は拳をぐっと握って己の中に力を集中させる。すると、砂が渦を巻いて砂嵐となり、両面宿儺を上空に巻き上げた。天空は足下に風を起こして両面宿儺の目の前まで飛び上がる。

 「終わりだ。」

 天空は2本の刀を構えると、両面宿儺を罰点の形に切り裂いた。切り裂かれた両面宿儺はふらふらとよろめきながら倒れたのだった。


 一方、見越入道の攻撃で吹き飛ばされた私は、頭や腕から血を流しながら、ゆっくりと立ち上がった。一歩ずつ近付いて来る見越入道に向けて大きな植物の蔓をブンッと勢い良く振るう。しかし蔓は見えない障壁に阻まれる様に弾かれた。間髪容れずに彼の足下から蔓を伸ばし拘束しようと試みるが、今度は一瞬で切り裂かれてしまう。

 「今度は此方の番だ。」

 「!?」

 見越し入道が一言呟いた直後、私の体がふわっと宙に浮いた。そしてまた壁に吸い込まれるように引っ張られ、激突した。

 「がはぁっ!?」

 体がミシミシという鈍い音を出す。見越入道は追い打ちを掛ける様に、今度は私を地面に思い切り叩き付けた。植物を操ろうと力を込めようとする私を、見越入道は空中に浮かせ、壁や屋根や地面等に衝突させる。大きなダメージを受け片膝をつく私の前に立つと、見越入道はみるみる巨大化していく。彼はその大きな手で私の体をガシッと強く掴むと、目線の高さまで持ち上げた。

 「其方等に動き回られたら困るのでなぁ。此処で散ってもらうぞ。」

 私を握り締める手に力が籠る。体がきつく締め付けられ、圧迫される。

 「さらばじゃ。」

 更に力を込めようとした見越入道だったが、私が突然見せた幽かな笑みに、ふと手を止める。

 「何が可笑しい?」

 訝しむ見越入道を真っ直ぐ見据えると、私は絞り出す様な声でゆっくり呟いた。

 「・・・散るのは・・・お前の方だ。」

 まるで私の言葉が引き鉄となったかの様に、見越入道の体中を突き破って深い漆黒の花が現れた。私を締め付ける手の力が緩み、私は地面へと落下していった。

 「其方・・・一体何をした?」

 「奇襲攻撃を躱した時に仕掛けさせてもらった。」

 私が見越入道に仕込んだのは、寄生した相手の妖気を吸収し成長する特殊な植物の種。見越入道の妖気を取り込んだ植物が大きくなり、体外へ飛び出したのだ。

 「もう妖力も殆ど残っていない筈だ。観念しろ。」

 私は巨大な木の根を操り見越入道の腹を思い切り殴った。木の根は見越入道を吹き飛ばし、地面へと叩き付けた。

 「くっ・・・最早此処までか・・・。」

 見越入道の前に円形の異空間が出現する。彼は残った僅かな力を振り絞り、異空間へと飛び込んだ。

 「!?待てっ!!」

 捕まえようと急いで駆け寄るが、辿り着く前に異空間は見越入道を飲み込んで閉じてしまった。

 「六合っ!」

 突然掛けられた声の方に振り向くと、天空が屋根伝いに駆け寄って来るのが見えた。

 「天空、両肩を怪我しているじゃないか!?大丈夫なのか?」

 私が問い掛けると、天空はこくりと頷きながら「大丈夫。」と答えた。

 「六合こそ重傷じゃないか。貴人に治療してもらった方が良いんじゃないのか?」

 私の横にスタンッと降り立った天空が心配そうに語り掛ける。

 「いや、貴人の手を煩わせる程でも無いさ。これくらいの傷大した事無い。それよりいつの間にか矢の攻撃が止んでいるが・・・白虎の方も決着がついた様だな。」

 「・・・白虎はタフでしぶとい男だから、きっと無事だと思う。」

 白虎が向かって行った方向にちらりと視線を向けていると、天空は小さく微笑み、一言呟く。

 「確かにそうだな。」 

 天空の言葉に、私は苦笑しながら返事をした。

 十二天将の中でも屈指のスピードと戦闘力を誇る彼奴の事だ。余程の事が無い限り、彼奴が深手を負ったりする事は無い筈だ。いつもの飄々とした笑みを浮かべながら戻って来るに違いない。

 私達は白虎を捜す為北東に向かい進み始めた。

 ・・・白虎を見つけたら、一発しばいて説教してやる。

 私は走りながら拳をぐっと握り締め、固く誓った。白虎の独断行動や悪戯が無くなる日がいつか来るだろうか・・・と溜め息を吐きながら考えてみる私だった。



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