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葛の葉奇譚  作者: 椿
第8章:京都戦乱―後編―
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 輪入道の騒ぎの後、忠親と道華は妖の陰謀を阻止する為に岬へと向かった。

 「晴支達がこっちで動く事なんて余り無いから、久し振りに会って本当に吃驚したよな。まあ、皆全然変わってないっていうか・・・相変わらず賑やかだった。」

 くすりと笑いながら語る俺に、道華が「そうね。」と答える。

 「でも私は、晴支にガールフレンドが出来ていた事に1番衝撃を受けましたわ。」

 腕を組みうんうんと1人頷きながら力強く語る道華。確かに、晴支が女の子の友人を連れていたのは少し意外だと思った。あの娘(神崎さんだっけ?)も妖が見える様だから、妖関係の事件を切っ掛けに仲良くなったのかもしれないな。

 そんな風に会話をしながら岬を歩いて調査していると、ふと邪悪な気配が近付くのに俺達は気付いた。前方に目を向けると、其処には2つの人影が立っていた。

 「やっとお出ましか。待ちくたびれたぜ、陰陽師。」

 ツンツンと尖がった髪の毛に鋭い目付きの男がにやりと笑いながら此方を見据えてくる。全身から邪悪で荒々しい妖気を放っている。

 「うふふ・・・。私の遊び相手になってくれるのは、どっち?」

 もう1人の女は、首をだらりと傾げながらゆっくりと問い掛ける。

 「あの2人・・・恐らく“犬神”と“磯女”でしょう。家の傘下の陰陽師達が先日大怪我を負った事件があったのですけど・・・犯人の特徴と一致しますわ。」

 こそりと敵の情報を耳打ちする道華。蘆屋家と関わりの深い陰陽師ならば、きっと優秀な陰陽師達の筈だ。そんな人達が敵わない様な妖となると、俺達も気を引き締めなければならないな。

 俺達が敵を前に身構えていると、磯女がすぅっと息を吸い込んだ。そして次の瞬間―  

 「キィィアアアアアアアアアアアア!!!」

 頭に響く様な鋭い咆哮が俺達に放たれる。余りの大きさと鋭さに、俺達は耐えられず耳を塞いでしまう。身動きが取れなくなった一瞬の隙を突いて、磯女はその長い髪の毛を更に伸ばし道華の細い足首に巻き付ける。

 「きゃああ!?」

 道華の足首に絡み付いた髪は彼女を逆さ吊りに高く持ち上げた。髪の毛は道華の体を徐々に締め付けていく。 

 「ぐっ・・・」

 道華に纏わり付いた髪の毛は彼女の血液を吸い取り始め、少しずつ鮮やかな紅に染まっていく。

 「道華っ!?」

 俺は白く光り輝く短剣を数本出現させると、磯女の髪の毛をスパッと切り裂いた。

 「よそ見とか・・・そんな余裕あんのかよ?」

 道華の方に一瞬気を取られていた隙を突いて、犬神が俺の傍に急接近する。彼は俺の心臓目掛けて鋭い鉤爪を突き立てようと振りかぶるが、俺は体を少し反らしギリギリで躱した。ぴょんと後方に飛び退き距離を取っていると―

 「!?」

 俺と道華目掛けて光の矢が襲い掛かって来る。

 敵の仲間による援護射撃・・・。ここまで正確に狙われるなんてな・・・。向こうには索敵能力にかなり優れた奴が居るみたいだ・・・。

 「ちっ。余計な真似すんなよ、覚。」

 犬神は不機嫌そうにぼそりと呟く。俺は犬神を囲む様に光の短剣を作り出し突き刺そうと操作した。しかし、犬神は深い黒色の闇の覇気を放出し短剣を弾き飛ばしてしまう。もう一度光の短剣で攻撃しようと身構えたその時、地中から髪の毛が土を押し退け現れる。磯女が地面に潜らせた髪の毛を、俺に向けて伸ばしていった様だ。

 「貴女の相手は私ですわ。」

 髪の毛を地中に伸ばしている事で身動きが取れない磯女目掛けて、道華は両手に出現させた2本の扇を大きく振った。道華の持つ2本の扇は大天狗の力が宿った扇である。蘆屋家は代々妖の力をその身に憑依させ闘う術が得意な一族であり、道華の場合は天狗の力をその身に宿し戦う。扇は巨大な旋風を生み出し、磯女を突風の中に閉じ込める。巨大な旋風は鎌鼬となり、中の磯女を上空に吹き飛ばしながら体中を切り裂く。磯女は道華の方にちらりと視線を向けると、髪の毛を刃の様に鋭く尖らせ、道華目掛けて攻撃を仕掛ける。髪の毛の刃が道華の腕や腰や太股を掠るが、道華はたじろぎもせず、磯女の許に素早く飛び込んで行く。道華は扇に天狗の妖力込め、両手の扇を交差する様に構える。

 「“廻葉の舞”」

 道華は風に乗りひらひらと踊る葉っぱの様に舞いながら両手に持つ扇で磯女を切り裂いていく。体中に斬り傷を負い大ダメージを受けた磯女はふらりとよろめき、固い地面に勢い良く落下する。

 「・・・ったく。磯女の奴、何やられてんだよ。」

 俺が放つ光の短剣による攻撃をひょいひょいと躱しながら犬神が呟く。犬神は身体能力が高く走るスピードがかなり速い為、動きを捉える事が中々出来ないでいた。

 「へっ、とろいんだよ。」

 犬神は目の前まで接近して来ると、黒い覇気を纏った拳で俺を殴りつける。

 「ぐはぁっ!?」

 体勢を崩した俺に追い打ちを掛ける様に、闇の覇気を込めた重い蹴りを俺の腹に喰らわせる。

 「止めだ。」

 長く伸びた鋭い鉤爪が俺の脇腹に突き立つ。

 「ぐっ。」

 俊敏な犬神にきつい一撃を喰らわせるには、動きを封じるしかない。

 俺は苦痛に顔を歪ませながら、犬神の腕をガシッと力強く掴んだ。

 「・・・捕まえたぜ。」

 犬神と俺の周囲全方位を囲む光の短剣の切っ先が2人に向けられる。

 「・・・良いのかよ?お前も一緒に串刺しになるぜ?」

 「ああ。構わない。」

 つぅっと冷や汗を浮かべながら問い掛ける犬神に、俺は静かに答えた。そしてその直後、無数の刃が犬神の体を貫いた。 

 「残念だったな。この光の刃は俺の体をすり抜ける事が出来るんだ。」

 犬神がばたりと倒れるのを見下ろしながら、俺は顔に付いた返り血を右腕の袖でゴシゴシと拭った。

 「さあっ、色々と教えて貰おうか。」

 俺が犬神をグイッと持ち上げ問い詰めたその時―

 「・・・断る。」

 犬神は俺の腕を爪で斬り付け振り解くと、僅かな力を振り絞り磯女の倒れている方向に駆け抜ける。そして磯女を掴むと一緒に海に向かって飛び降りた。 

 「待てっ!?」

 俺と道華が急いで2人の落ちた場所に行ったが、2人の姿は確認出来ない。

 「2人の気配も感じられない。もう此処にはきっと居ませんわ。恐らくアジトに逃げ帰ったのでしょう。」

 道華は崖の前でしゃがみ、暫し下の様子をじぃっと見つめる。しかし何も手掛かりが残っていない事が分かると、ふぅっと1つ深い溜め息を吐いて立ち上がる。

 「くそっ!もう少しで何か情報が聞き出せたかもしれないのにっ!!」 

 手掛かりを逃がした悔しさに歯をギリッと噛み締めながら、拳をギュッと強く握り締めた。そんな俺を宥める様に、道華がポンッと軽く肩を叩く。

 「他の場所に向かった人達が何か有益な情報を掴んでいるかもしれません。他のメンバーと合流しましょう。」

 「ああ、そうだな。よしっ、行こう。」

 俺と道華は静かに波打つ海に背を向け、敵の妖に近付く為の手掛かりを求め歩き出した。



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