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葛の葉奇譚  作者: 椿
第8章:京都戦乱―後編―
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 宇迦御魂神様に京都で陰謀を企む妖達についての調査を依頼された僕達葛の葉庵の面々だったが、成り行きで京都の陰陽師一族賀茂家・蘆屋家と協力し合う事になった。情報交換や作戦会議の為に訪れた賀茂家の屋敷で、神崎さんは輪入道に魂を奪われてしまう。奪われた魂を取り戻し彼女の命を救う為、僕達は妖の出没地点を手分けして調査する事になったのである。



 僕は貴人と共に京都の街を走り抜けていた。タイムリミットは日没まで。少ない手掛かりから魂の在り処を見つけ出さなければならない。焦る気持ちを抑え切れず、走る速度も速くなっていく。

 「晴支。焦る気持ちは分かるが、少し落ち着け。」

 隣で一緒に走っていた貴人が、焦る僕の気持ちを静めようと肩をポンと叩きながら話し掛ける。

 「葛の葉庵と京都の陰陽師達の力を結集させて捜査しているんだ。神崎さんの魂もきっと直ぐ見つけられる。大丈夫だ。」

 真っ直ぐな眼差しで力強く語る貴人の言葉を受け、僕はほんの少し力が抜けるのを感じた。彼の言葉はいつも説得力があり、安心させてくれる。

 「そうだね。きっと、神崎さんを助けられるよね。」

 自分に言い聞かせる様に、僕はそっと呟いた。

 「だが、賀茂家の屋敷に乗り込んでくるとは・・・我々に対して挑発しているつもりだろうか。命知らずだな。」

 ふむむ・・・と顎に手を当て落ち着いた口調で話す貴人。確かに、彼の言う通り陰陽師の頂点に君臨する賀茂家・蘆屋家に喧嘩を売るなんて、妖にとってかなり危険な行為だ。余程の覚悟がなければ、出来ない事である。

 「おっと。そろそろ目的地に近付いて来たな。」

 貴人の言葉に、僕は前方に見えて来た建物に視線を向けてみる。其処に聳え立っているのは、二条城。本丸と二の丸がどっしりと強い存在感を放っている。伸行さん達によると、此処で妖関連の事件が多数起こっているらしい・・・。

 「行こう。」 

 僕と貴人は1つ深く深呼吸をすると、門を潜り抜け二条城の中へと入って行った。

 「二の丸の方から、気配を感じる。」

 感覚を研ぎ澄ませながら僕達は気配の感じる二の丸御殿を目指し進み始める。すると突然―


 ドォンッ!


 上空から光の矢が襲い掛かって来た。光の矢の射撃はまるで雨の様に次々と僕達を狙い放たれる。

 「各地に向かった私達をピンポイントに狙って射撃している様だな・・・。鬱陶しいな。」

 パシッと矢を払ったり、躱したりしながら貴人はスピードを緩めることなく進み続ける。

 「僕達の動きが向こうにばれている様だね。」

 敵側も、僕達と一戦交えるつもりなのか・・・。

 矢の攻撃を潜り抜けた僕達は勢い良く二の丸御殿の中に飛び込んだ。すると、其処には意外な人物が立っていた。

 「おや。そういえば此処は2人の担当でしたっケ?一足先に私が辿り着いちゃいましたヨ♪」

 口許を手で隠し楽しそうにくるりと回ったのは、京町屋に向かった筈の白虎だった。六合や天空と逸れたのだろうか?

 「まさかお前が先に来ていたとはな。」

 「射撃攻撃をしている妖の所に向かっている途中で此処に辿り着いたんですヨ。」

 外の方を指差しながらにっこり笑って説明する白虎。マイペースな白虎の姿に、僕達はフッと笑みを浮かべる。

 「奥の部屋から妖の気配を感じる。」

 僕は気配の感じる部屋へ向かって一直線に走って行く。貴人と白虎も僕の後を追い進んで行く。そして大広間に入った僕達に立ちはだかったのは―片目を眼帯で隠した男だった。

 「へぇ。俺の相手は葛の葉庵の連中か。」

 男はにやりと冷たい笑みを浮かべながら此方の様子を窺っている。

 「神崎さんの魂は何処だっ!!」

 鋭く睨み付けながら大声で詰問する僕にたじろぐ事無く、男は「ああ。」と心当たりがある様子でポンと手を叩く。

 「あの魂なら俺の仲間が持ってる。直ぐ近くに居るよ。」

 直ぐ近くに!?その妖に接触すれば魂を取り返せる!!

 その妖の居場所を聞き出そうと口を開きかけた僕だったが・・・


 ブゥンッ!!


 「!?」

 突然鋭利な爪が僕を斬り裂こうと振り下ろされる。直前に殺気を感知していた僕は、体を少し後ろに反らして避けようとしたが、躱し切れずに頬を少し切った。

 「残念。晴支の首を掻き切ろうと思っていたのニ。」

 白虎は悪戯っぽい笑みを浮かべながら爪に付着した僕の血をペロッと舐める。

 「白虎・・・じゃないよね。一体何者だ?」

 一気に警戒を強める僕と貴人の表情を見て、白虎の姿をした存在はクックッと冷たい笑い声を漏らす。白虎の姿がゆらりと歪み、その直後黒髪に和服姿の少年が現れた。

 「・・・出てくるの早過ぎじゃないか、牛鬼?」

 「えぇ?別に良いだろ、一目連。」

 僕と貴人を挟む様な形で立つ2人の妖。何気無い言葉を交わしているが、2人からは全く隙が見当たらない。

 「2人共おっかない顔してるねぇ。それより・・・これ、なぁんだ?」

 牛鬼は懐からある物を取り出すと、僕達を揶揄う様に掲げて見せた。牛鬼の手の中にあるそれは、小さい瓶の中に入った白い光の玉だった。

 「神崎さんの魂!?返せっ!!」

 魂の入った瓶を手に入れようと、僕は牛鬼に素早く飛び掛かった。 

 「嫌だね♪」

 あと一歩で瓶に手が届く距離まで僕が接近した所で、牛鬼は片手にぐっと力を込める。そしてその手に集中させた黒い瘴気を僕目掛けて思い切り爆発させた。

 「ぐぁっ!?」

 強烈な威力の爆撃に耐え切れず、僕は後方にふっ飛ばされてしまった。衝撃で肺から喉が焼ける様に熱くなり、息が出来なくなる。

 「欲しけりゃ力尽くで奪い返してみせなよ。」

 冷たく突き刺す様に鋭い殺気が牛鬼の中で大きく膨れ上がっていく。

 「絶対取り戻す!!」

 4人の間に、緊張が一気に高まっていく。二条城での命を懸けた死闘が、今幕を開ける。



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