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「すみません。この特大フルーツパフェを追加でお願いします。」
「晴支・・・お前食い過ぎじゃないか?少しは遠慮しろ。」
沢山の人で賑わうファミリーレストランの店内。僕が生き生きと追加注文をしていると、僕の前に山の様に積み重ねられた空の皿をまじまじと見つめながら、少し引き気味に信楽先生が呟く。
「これでも八分目ですよ?」
京都の調査や妖との戦闘に備えてしっかり食べて、力を蓄えなければ。動き回ると、それだけエネルギーを使うのだ。
「お前の体燃費悪過ぎだろ。・・・というか、何故俺がお前達全員に食事を奢らなければならないんだ。晴支の知り合いの京都の陰陽師達もちゃっかり食っているし。」
はぁ、と深い溜め息を吐き頬杖をついた信楽先生は、カツカレーと海老グラタンをそれぞれ頬張る忠親と道華にちらりと視線を向ける。
「御馳走様です。」
会釈をして一言お礼を述べながらも、忠親はスプーンを動かす手を止めず美味しそうにカツカレーを食べ進めていく。
「あら、1人や2人増えても別に構わないでしょう?ケチな殿方はモテませんわよ。」
「・・・五月蠅い。」
スプーンでピッと指しながら指摘する道華の言葉に、信楽先生は眉を顰め小声で反論する。むすっと顰め面をする信楽先生の姿に、一同はにこりと微笑む。
「お待たせしました。」
皆でワイワイ賑やかに話していると、巨大な器にアイスクリームやフルーツ、チョコ等が贅沢に盛られた特大パフェが運ばれて来た。美味しそうなスイーツを前に気持ちの高揚を抑え切れない僕。「さぁ、食べよう。」と気合を入れてスプーンを手に持ったその時―
「相変わらず、ダッサいバンダナ巻いてんだな、壮吾。」
背後から突然掛けられた声に一同が振り向くと、其処に1人の小柄な少年が立っていた。少年は壮吾に向けて冷たい笑みを浮かべる。
「・・・ムカつく憎まれ口が聞こえると思ったらお前かよ。小さ過ぎてお前が居るのに気付かなかったぜ、剣治。」
声を掛けられた壮吾は鋭い目付きで剣治を睨み付ける。“小さい”と言われた事に怒りを顕にした剣治は、ズンズンと壮吾の目の前まで近付き、睨み返す。
「はぁ?誰がチビだって?」
「お前以外居ないだろ?」
火花を散らし一触即発な様子の2人。
「おい、剣治。壮吾。」
「2人共、ちょっと落ち着いて。」
2人を見かねて僕と忠親が仲裁に入ろうと近付く。しかし2人が僕達の言葉に耳を貸す気配は無く、睨み合いを続けている。
「裏切り者の分際で口答えするな。あんたが此の世に存在してるってだけで吐き気がする。目障りなんだよ。」
嫌悪感を込めて挑発的な言葉を言い放つ剣治。大切な家族である壮吾を侮辱された事がどうしても許せなかった僕は、剣治の肩をガッと思い切り掴んだ。
「言って良い事と悪い事がある。壮吾に謝って。」
鋭い視線を向け少し声を荒げる僕を、剣治はふんっと冷たく鼻で笑う。
「偉そうに。弱小一族の生き残りの指図なんか受ける訳無いだろ。」
僕が怒った事が気に入らなかった剣治は、僕をじとりと睨み付ける。すると、白虎が僕と剣治の間に突然サッと割り込み、剣治の首元に鋭く尖らせた爪を突き付けた。
「威勢が良いのは結構ですガ、こんな所で騒ぐと他のお客さんの迷惑になりまス。ちょっと静かにしましょうカ?」
にっこり笑いながら威圧を込める白虎の気迫に少し気圧された剣治は、ぐっと口を噤み沈黙する。彼の額をつぅっと一筋冷や汗が伝う。
「その辺で許してやってもらえないかな?」
険悪なムードが漂うファミレスに響く声。其処には柔らかな微笑みを浮かべる眼鏡を掛けた青年と、その横で静かに佇む女性が居た。彼の名前は賀茂孝行。忠親の兄で賀茂家の次期当主であり、凄腕の陰陽師だ。彼は人望も厚く、一族の皆から信頼されている。一緒に居る女性は源紗矢。剣治の姉で、妖刀使いの一族である源家の次期当主だ。彼女はいつも傍らで右腕として孝行を補佐している。
「内の者が済まないね。剣治には後で言い聞かせておくよ。」
白虎の方に近付き爪を突き付けている手をそっと押さえる。2人は暫しの間微動だにせず互いの様子を窺っていたが、やがて白虎は肩を竦めてゆっくりとその手を下げた。
「・・・こっちもつい感情的になってしまって御免。」
僕が謝ると、孝行は「先に挑発したのはこっちだから。」と笑顔で語った。
「久し振り。君達が京都に来るなんて珍しいね?」
孝行は少し小首を傾げながら、探る様な目付きで問い掛ける。
「うん、ちょっと知り合いに呼ばれて。孝行達は見廻りの途中だったの?」
「ああ。最近妖の活動が活発化していてね。見廻りを強化しているんだ。」
眉尻を下げふぅと1つ溜め息を吐きながら語る孝行。京都で起こっている異変は、僕達が想像する以上に深刻なのだろうか。
「晴支。良ければ皆を連れて家に来ないかい?最近の妖の動きについて意見を聞きたい。」
「!?僕達が賀茂家に?」
突然の招待に僕が驚いていると、孝行は満面の笑みでこくりと頷く。
「うげっ!?孝行様、こんな奴等の力なんか借りる必要無いですよ!」
露骨に嫌な顔をして抗議する剣治。そんな彼の頬を、紗矢は容赦無く引っ張る。孝行は2人のやり取りを完全に無視して僕を真っ直ぐ見つめている。
「君達も京都で悪巧みしている妖について調べているんだろう?お互い協力しようじゃないか。」
スッと片手を差し出しながら語り掛ける孝行。皆は僕がどの様な返答をするのか、真剣な面持ちで見守っている。
確かに・・・孝行達の力を借りる事が出来れば、今起こっている異変を直ぐに解決出来るだろう。・・・しかし。
僕は壮吾の事が心配でちらりと視線を向けた。それに気付いた壮吾は僕を後押しする様に僕の背中を軽くバシッと叩いた。「俺の事は気にするな!」と、その行為を通して壮吾が語っているのが伝わって来た。
「うん。一緒に闘おう。」
こくりと力強く頷き手を握り返すと、孝行は静かに笑いかけてくれた。
「じゃあ、そうと決まれば早速屋敷に向かおう。」
そう一言述べると、孝行はすたすたと足早に出口へと歩いて行く。心配そうな表情、不服そうな表情、戦意満ちた表情、戸惑いの表情・・・各々複雑な感情を隠し切れずにいるが、一同は孝行の後に続き進み始める。
騒動とか起きないと良いけど・・・。
バチバチと睨み合う壮吾と剣治の様子に、不安がより一層強まってしまう。そんな不安を掻き消す様にふぅっと1つ深呼吸をすると、僕は「大丈夫。全て上手くいく。」と自分に言い聞かせながら一歩踏み出したのだった。




