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晴支が京都の伏見稲荷を訪ねている頃。おいらは楓、一つ目小僧、唐傘小僧と一緒に公園でキャッチボールをしていた。
「晴支兄ちゃん達、京都に行ってるんだ。怪我とかしないと良いけど・・・。」
おいらの方にボールをポーンと投げながら、楓が心配そうに呟いた。
「晴支達は強いから大丈夫!どんな妖が相手でも絶対負けないもんね!!・・・っほい!!」
晴支達は今まで数多くの妖達を祓って来たのだ。今回だって、きっと悪い奴等を蹴散らしてくれる筈だ。
「・・・っとと!でも、確か京都には強力な陰陽師の一族がいるよね。」
「その人達と一緒に、妖退治するのかな?」
一つ目小僧と唐傘小僧は、ほんの少し怯える様な表情を見せながら語り掛ける。
京都の陰陽師・・・一体どんな人達だろう?晴支みたいに色々な術とか技を使って妖をやっつけたりするのかな?
「あら?楓・・・それにハク君達も。皆でキャッチボールですか?」
4人でお喋りしていると、傍を通りかかった紫苑に声を掛けられる。買い物帰りの様で、食材等が沢山入った買い物袋を持っている。
「ん?あれ・・・狸・・・かな?」
紫苑の方に駆け寄ろうとした時、楓がふと足を止め呟く。楓がまじまじと見つめる先においらも目を向けてみると、数匹の狸が紫苑が立つ場所より少し後方を横切って行った。
「あっ!今走って行った狸・・・確かおじさんの部下の狸だ。追い駆けてみよう!」
おいらは狸達が走って行った方向に向かって勢い良く駆け抜けていく。そんなおいらの後を皆が追い駆ける。狸は植え込みの奥に辿り着くと、自身の前に陣を出現させる。
「ねぇっ!何してるの?」
「!?」
突然おいらに飛びつかれた狸は驚いて大きな目を見開き此方に振り返る。その拍子にふらりとよろめいた狸はおいらと一緒に陣の方に倒れ込む。
「!?ハク君!!」
「ハク!!」
紫苑たちも急いでおいらの方に駆け寄って来る。すると、陣はその場に居た全員を飲み込んでしまった。
「こっ、此処は・・・一体何処でしょうか?」
陣に飲み込まれた直後、私達は先程まで居た公園ではなく、木々が生い茂る山の中に立っていた。
「神崎!ハク!どうしてお前達が此処に居るんだ!?」
聞き覚えのある声に振り返ると、其処には沢山の狸の妖怪達に囲まれている信楽先生の姿があった。
「狸のおじさん!!山の中で何してるの?」
ハク君は元気一杯に叫ぶと信楽先生に向かって勢い良く飛び付く。突然飛び掛かられた信楽先生は、少し体勢を崩しながらもハク君をしっかりと受け止め、抱きかかえた。
「あのっ、其処に居る狸さんと一緒に陣に入っちゃって此処に辿り着いたんです。それより・・・信楽先生こそ、どうして山の中で狸さん達と一緒に居るんですか?」
私が問い掛けると、信楽先生は困った様に視線を逸らし、「あっ・・・いやぁ~・・・その・・・」と呟く。
「おじさんは“隠神刑部”っていう狸の大妖怪なんだよ!変化の術とか幻術とかすっごく上手なんだよっ!!」
「せっ、先生が・・・狸の妖怪!?」
「!?なっ、ハッ、ハクッ!?何を言ってるんだ!!」
私と楓が驚いて唖然としていると、先生が慌てた様にハク君の話に割って入る。
「大丈夫だよ、おじさん。紫苑や楓は妖の存在について知ってるし。晴支が陰陽師だって事も、十二天将達の正体についても知ってるんだよ。」
えっへんと胸を反らしながら語るハク君の言葉に、先生は視線をゆっくりと此方に向けると、ふぅっと1つ溜め息を吐く。
「ハクの言った通り、俺は狸の妖で此処に居る狸達の頭領でもある。この京都でも最近妖の事件が増えていると聞いて様子を見に来ていたんだ。」
妖の行動の活発化・・・一体、この日本で何が起こっているというのでしょう。大きな災いが、迫っているのでしょうか・・・?
背筋の凍る様な冷たい不安が過る。
「姉ちゃんの先生・・・今京都って言ったよね?俺達が居るこの場所って、本当に京都なのかな?」
「京都ってことは、もしかしたら近くにいるかな?」
楓とハク君がキョロキョロと辺りを見廻す。それを真似する様に、ハク君にピタッとくっ付いていた家鳴ちゃん達も片手を額に当てて周囲をぐるりと観察している。すると、左後方の木の茂みからカサカサと足音が聞こえてきた。サッと振り返ったその時―私達の視界の先に、よく見知った人物達が現れたのだった。
「あれっ?どうして皆がこんな所に集まってるの?」
伏見稲荷大社を出て京都の各地を調査していた僕達は、山の中で信楽先生や神崎さん達が集まって話している所に出くわしたのだった。
「晴支ーっ!やっぱり会えたな!!」
ハクが僕の方へパタパタと駆け寄って来る。その後ろを楓君達が追い駆ける。
「晴支、お前達も京都の不穏な動きを察知して調べに来たのか?」
「はい。信楽先生も妖の動きを探っていたんですか?」
僕の問い掛けに、信楽先生は深刻な面持ちで「ああ。」と頷く。
「・・・取り敢えず移動しよう。此処じゃあゆっくり話し合いが出来ない。」
天空の言葉に皆がこくりと頷き賛成の意を示す。そして街の方に向かって歩き始めようとした僕達だったが―
「!?」
突然僕達を取り囲む様に妖達の気配が迫って来た。警戒を強め構える僕達の前に現れたのは、悪霊の集団。僕達を鋭い眼光で睨み付け威嚇してくる悪霊達が、僕達に向かって勢い良く飛び掛かる。凶悪な殺意を向け襲い掛かって来る悪霊達を迎え撃とう己の身に力を込めた僕達。しかし、そんな僕達の目の前で光り輝く刃と風の渦が悪霊達を瞬く間に一掃した。
「よう。久し振りだな、晴支、壮吾!それに十二天将の皆も!!」
「京都に来ていたのなら、私達に一言知らせて下されば良かったのに。」
2人の乱入者達は僕達に向かって明るく微笑むと、ゆっくり此方の方に歩み寄る。
「忠親。道華。久し振り。元気そうで良かった。」
先程の光の刃と風の渦による攻撃・・・以前会った時よりもかなり腕を上げている。僕も負けていられないな。
「土御門君。お知り合いですか?」
「うん。賀茂忠親と蘆屋道華。2人は僕と同じ陰陽師の一族で、京都を中心に活動しているんだ。妖退治の腕はかなりのものだよ。」
僕以外の陰陽師の存在に衝撃を受けたのか、神崎さんは不思議そうに忠親達を見つめる。そうやって2人で親し気に話していると、道華が少しそわそわした様子で僕達の方を食い入る様にじぃ~っと見つめてくる。そして見つめたままズンズンと僕の方に近付いて来た。
「・・・晴支、其方の方は何方ですの?一体どういう御関係?」
探る様な目つきで僕達の様子を窺う道華。そんな彼女の問いに答えようと僕が口を開きかけていたら―
「彼女は紫苑ちゃんデス。晴支の(未来の)奥さん(になるかもしれない人)ですヨ。この子達は、実は2人の子供なんデス。」
白虎がハクと楓君を僕達の方に押し出しながらにっこりと満面の笑みで冗談を言う。
「!?ちょっ、白虎さんっ!いきなり何を・・・」
「パパ~。」
「ママ~。」
白虎の言葉を否定しようとした神崎さんの言葉を遮り、ハクと楓君が白虎の冗談を面白がってノリノリの様子で僕と神崎さんに抱き付いてきた。そんな僕達の様子を一同は唯沈黙しながら見守っていた。僕は隣で困った様におろおろしている神崎さんの方にちらりと視線を向け、この冗談をスルーすべきか、否定すべきか、少し考えていた。
「幼気な乙女に何ということを!破廉恥ですわ!晴支、最低!!」
白虎の冗談を信じた道華から放たれた容赦の無い平手打ちがパァンッという大きな音を立てながら僕の左頬にヒットする。・・・理不尽だ。
「いや、あの・・・僕何もしてない・・・。」
僕は小さな声で抗議するが、道華はキッと鋭く睨んでくる。
「あっ、あの、私は土御門君の友人の神崎紫苑と言います。この子達は、私の弟の楓と、友人のハク君です。」
「・・・へ?友人?弟?」
誤解を解こうと神崎さんが助け船を出す。そんな彼女の言葉に道華が呆然としていると、プルプルと笑いを堪えていた白虎が堪らず大きな声でケタケタ笑い始めた。
「アッハハハハハハ!こんなにあっさりと私の嘘を信じてしまうなんテ。相変わらず道華ちゃんは騙されやすいですネェ。」
白虎の言葉に初めて自分が騙された事に気が付いた道華は顔を真っ赤にしてわなわなと震え出した。
「もうっ!酷いですわ、白虎さん!!揶揄わないで下さい!!」
道華は揶揄われた悔しさをぶつける様に白虎を引っ叩こうとしたが、白虎は六合の後ろにサッと隠れガードする。突然盾にされてしまった六合は、訳の分からぬまま白虎の身代わりにビンタを喰らってしまう。
「・・・白虎。ふざけてばかりいないで少しは真面目にしろ!」
「アハハ。そういう六合は真面目過ぎなんですヨ。」
怒った六合が白虎を捕まえようとするが、白虎は其れをひらりと躱し逃げて行く。そしてそのまま2人は追い駆けっこを始めてしまった。
「・・・おい。あの2人、止めなくて良いのか?」
走り回る2人を眺めながら、信楽先生が僕と貴人にぼそりと囁く。
「あの2人のじゃれ合い(?)はいつもの事だから、余り気にしなくても良いと思うけど。」
「それにどうせ直ぐ決着がつくだろうしな。」
のんびりと2人の闘いを見守る僕達の様子に、信楽先生は「そうか・・・。」と一言呟く。すると貴人の言った通り、白虎を追い駆けていた六合が勢い余って木にぶつかり、勝負はついたのだった。(白虎は直前に木をヒュッと避けて無傷であった。)
「大丈夫?」
「・・・はい。うぅ・・・まだガンガン頭に響きます。」
六合は頭を押さえ、眉を顰める。相当強くぶつかったから、かなり痛そうだ。
「2人は本当に仲良しだねぇ。」
「・・・仲良しなのか、あれ?」
玄武が六合の背中をバシバシと叩きながら語る言葉に、勾陳が静かにツッコミを入れる。六合の傷も大したことない様で良かった。
ぐぅ~~~~~~~~~~~~~~~~。
安心したら、急にお腹が空いてきた。あぁ、頭の中に食べたい料理が次々と浮かんでくる・・・。
「・・・晴支、お腹空いた?街に戻って、何か食べる?」
「・・・うん。食べる。」
そっと囁かれた天空の問い掛けに、僕はゆっくり頷く。いつも通りマイペースな僕の様子を見て皆が優しく笑う。
「皆、早く行こう。」
目を輝かせ急ぐ様に歩き出す僕の言葉を合図に、一同は街の方へと向かって行った。




