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葛の葉奇譚  作者: 椿
第7章:京都戦乱―前編―
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 賀茂家にやって来た僕達が通されたのは、美しい日本庭園が見渡せる広々とした客間だった。客間には賀茂家当主の賀茂伸行、蘆屋毛当主の蘆屋道節を始め、2家の重役達が緊張でピリピリした空気の中静かに座って待機していた。

 「2人共、大きくなったな。」

 「皆元気そうで何よりだ。」

 笑顔で語り掛ける2家の当主達に、僕達は「お久し振りです。」と深々と頭を下げ挨拶をする。そんな僕達に重臣の一部が冷ややかな視線を投げかける。

 「源家を捨てた身でありながら・・・よくこの賀茂家に顔を出せましたね、壮吾さん。」

 「何て図々しい。此処には裏切り者の居場所なんて無いというのに・・・。」

 じとりと睨み付けながら呟かれた言葉に、壮吾は気まずそうにふいっと視線を逸らす。

 「壮吾も、壮吾の両親も貴方達を裏切った訳じゃない!妖刀使いとして、その力を人々の為に振るっていました。」

 「壮吾は俺達と一緒に賀茂家の次期当主さんに招待されたんだよ。文句あるか?」

 「わざわざ悪口を聞かせる為に集まるなんテ・・・京都の陰陽師さん達は暇を持て余している様ですネ。」

 「主が招いた客人に対して敵意を向けるのは、主への批判と捉えられてもおかしくないのではないか?」

 壮吾を庇おうとした僕達は、少し威圧を込めて反論する。葛の葉庵の面々と賀茂家・蘆屋家の一部の陰陽師の間にバチバチと火花が散る。

 「皆、落ち着け!」

 伸行さんの一喝が部屋に響き渡り、険悪な空気を一瞬で吹き飛ばす。全員の意識が自分に向いたのを確認すると、伸行さんはコホンッと軽く咳払いをして、話を切り出す。

 「京都の各地で妖の事件が多発している・・・。捕まえた妖を尋問して吐かせた情報から、首謀者が天逆毎という妖である事が分かった。」

 “天逆毎”という名に緊張を高める葛の葉庵の面々達。そんな僕達の方に孝行がちらりと視線を向ける。

 「晴支達は以前天逆毎と相対した事があるんだろう?どんな妖だった?感じた事を話してくれないかな?」

 孝行は僕の方にスッと近付き、真っ直ぐ僕の目を見て問い掛ける。

 「天逆毎は・・・緋色の長い髪の少女の姿をした妖です。彼女は途轍もなく強大な妖力を持っていて、その破壊力は凄まじいものでした。どんな攻撃や術もねじ伏せ、彼女の覇気は辺り一面を一瞬で消滅させられる程強力で凶悪なものです。東京でも今妖による事件が増えていて・・・僕達も天逆毎が関わっていると考えています。」

 天逆毎の脅威を感じ取った京都の陰陽師達は息を呑んで黙り込む。

 「妖の出現が多発している警戒地点を地図に纏めておいた。我々で手分けして調査しよう。晴支達も協力してくれるか?」

 大きな地図を広げ問い掛ける道節さんに、僕は「はい。」と力強く頷く。

 「よし。ではそれぞれ担当の場所へ動いてくれ。」

 その一言を合図に部屋に居た全員が立ち上がり、動き出す。僕も担当の場所に行こうと部屋を出ようとしたその時―

 「晴支。」

 孝行が突然声を掛けてきた。その表情はとても真剣で、僕は唯静かに次の言葉を待った。

 「君の周りには色々な妖が集まっている様だね。でも・・・余り妖達と親しくするのは良くないんじゃないかな・・・。」

 “妖と人間は真に分かり合う事など出来ない。”そう諭す様にゆっくり語り掛ける孝行。でも僕は・・・そうは思わない。

 「妖にも、人に友好的な者は沢山居る。妖を理解しようと歩み寄る事も大切だと、僕は思う。」

 妖と心を通わせ、仲良くなる事は出来る。僕はそう信じている。

 「歩み寄る事も大切・・・か。実に君らしいね。」

 眉尻を下げくすりと笑みを浮かべる孝行に、僕もにこりと笑い返す。そうして2人で話をしていると、六合と紗矢が僕達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 「じゃあ、宜しく頼むよ。」

 僕がこくりと頷くと、孝行はひらひらと片手を軽く振り紗矢の許へと去って行った。

 「賀茂家や蘆屋家まで動くなんて・・・随分大事になってきましたね・・・。」

 部屋の一番奥に広げられたままの地図を一瞥しながら、六合が深刻な面持ちで呟く。相手の戦力や能力、目的等、不明な事ばかりの今の状況だが、陰陽師同士力を合わせ対抗していくしかない。

 「晴支。六合。もたもたしていると置いて行っちゃいますヨ?」

 突然掛けられた白虎の声に2人は少し驚き廊下の方へと意識を向ける。

 兎に角、今は作戦に集中しなければ・・・。僕達に出来る事を全力でやっていくしかないんだ・・・。

 一呼吸置いて気を引き締め直すと、僕は六合と共に急いで皆の許へと駆けて行った。



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