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「レフトォ―ッ!!」
とある日の帰り道。壮吾と神崎さんと一緒に3人で街を歩いていると、小学生の野球チームの練習風景がふと目に入った。少年達が大きな声で元気一杯練習に励んでいる。
「野球か。小さい頃よく皆でキャッチボールしてたよね。懐かしいな。」
「あぁ、店の手伝いや修行の合間によくやったよな。白虎や玄武は容赦無さ過ぎて、いつもボール取ろうとしてふっ飛ばされてたな。」
白虎の消える魔球や玄武の超豪速球を思い出し、僕達は顔を見合わせ笑い合う。
「御二人は小さい頃どんな子供だったんですか?」
興味津々な様子の神崎さんの質問に、僕達は子供時代を思い返そうと上を見上げる。
「俺は体を動かすのが好きな子供だったな。休み時間とかは外で走り回って遊ぶタイプだった。晴支は今と変わらないマイペースで食いしん坊な子供だった。」
「そうだっけ?」と首を傾げる僕に、壮吾はこくりと力強く頷く。
「昔、晴支と一緒に隠れん坊して遊んだ時のことだけどさ。鬼の俺がいくら捜しても、呼んでみても、晴支を全然見つけられなくて・・・葛の葉庵の皆で街中を捜したことがあったんだ。」
「そんなこともあったね。」と思い出していると、「あの時は本当に大変だったんだからな。」と壮吾が眉尻を下げながら揶揄う調子で話す。
「六合なんか、心配し過ぎてかなり痛ましいことになってたんだぞ。最終的には落ち葉の山に埋もれて気持ち良さそうに寝ている晴支を貴人が見つけたんだ。晴支の寝顔を見てもう皆一気に力抜けちゃってさぁ。」
「あの時は、皆に迷惑掛けて本当に申し訳なかったと思ってるよ。」
「でも、六合の説教がいつもの何倍も長かったのは正直少し辛かったなぁ。」としみじみ語っていると、壮吾と神崎さんが楽しそうにくすりと笑った。
「神崎さんはどんな子供だったの?」
「私は読書をしたり、友達とお喋りしたり・・・休み時間は教室で過ごすことは多かったですね。」
ふむむ・・・と考え込む様に答える神崎さんだったが、ふと視線を公園の方に移す。
「あら?楓・・・誰と話しているんでしょう?」
公園の横を通り過ぎようとした時、神崎さんが公園のベンチに座っている少年を見つめ、歩を止める。
「楓君って・・・確か神崎さんの弟さんだよね。」
僕は神崎さんの視線の先の少年に目を向けながら、聞き覚えのあった名前について確認する。
「へぇ!神崎さんって弟さんが居たんだな!!」
壮吾は初耳だった様で、神崎さんの弟さんの話題に目を丸くして驚く。神崎さんが「楓!」と呼び掛けると、少年はゆっくりと振り返る。顔立ちや雰囲気が神崎さんとよく似ている。と
「姉ちゃん!?今帰り?一緒に居る人達はお友達?」
楓君は僕達の方にパッと駆け寄って来た。彼の抱いている仔狐と周りの小鬼達に見覚えがあり、声を掛けようとしたその時―
「晴支っ!壮吾っ!!お帰りっ!!紫苑もこんちは!!」
狐の姿からパッと少年の姿へと変化したハクが僕達の前でぴょんぴょんと飛び跳ねながら声を掛ける。
「ハク君、家鳴ちゃん。楓と知り合いだったんですね。」
「この公園で偶然知り合って友達になったんだ!な、楓!!」
「うん!」
楽しそうに笑い合いながら語るハクと楓君の姿を見ていると、こっちも嬉しくなってくる。神崎さんも、弟さんに新しい友達が出来たことをとても喜び、ハクや家鳴達に「楓と仲良くしてくれて有難う御座います。」とにっこり微笑みながら語り掛ける。
「僕は土御門晴支。ハクや家鳴達と遊んでくれて有難う。」
「俺は赤星壮吾。宜しくな。」
僕達が改めて名を名乗ると、楓君は少し緊張した様子で「神崎楓です。いつも姉がお世話になっています。」と礼儀正しく挨拶をしてくれた。「そんなに畏まらずに、もっと気楽な感じで接して欲しい。」と僕と壮吾が言うと、楓君は少し照れ臭そうにこくりと頷いた。
「兄ちゃん達のことは姉ちゃんからよく話を聞いてたんだ。特に晴支兄ちゃんのことはよく姉ちゃんの話題に出てたから。」
「そうなんだ?」
「かっ、楓っ!?」
突然顔を紅くしてあたふたし始めた神崎さんに僕が「大丈夫?」と問い掛けると、彼女は「なっ、何でもありません!」と首をブンブンと左右に振る。僕が首を傾げていると、何故か壮吾と楓君が僕達の方を見てにんまりと笑っていた。
「とっ、とりあえずあそこのベンチに座りませんか?」
慌てた様子でベンチの方に向かう神崎さんを不思議に思いながら、僕は壮吾達と共に彼女について行こうとする。しかしその瞬間、周囲に怪しい妖気を感じその場に立ち止まる。壮吾も妖気を察知したらしく、警戒を強める。
「土御門君?赤星君?」
辺りを見廻している僕らを心配し、神崎さんが声を掛けたその時―
「うわぁ!?何これ!?」
周りの景色がぐにゃりと歪み、違う場所へと姿を変えていく。突然の異変に、楓君が思わず驚きの声を上げる。僕達が居た公園は瞬く間に広い庭園のある和風の屋敷へと変貌した。
「おいら達の居た公園が、大きな古い家に変わっちゃった!?」
ハクは額に手を当てきょろきょろと周りを見廻してみる。
「これも・・・妖怪の仕業なんですか?」
「うん。恐らくそうだと思う。皆、僕や壮吾の傍を離れないで。」
神崎さんの言葉に頷きながら、僕はいつでも動ける様に身構える。すると、後方からカサカサッと幽かに物音が聞こえてきた。
「ぴぃ!」
「ひぃっ!?」
家鳴が物音のした方に飛び込むと、植え込みの陰から大きな1つ目の少年が現れた。彼は僕達から少し距離を取り、びくびくと怯えながら此方の様子を窺っている。僕がゆっくり近付き優しく話しかけると、少年は「僕は・・・一つ目小僧。」と小さな声で名乗った。
「君達は誰?君達も、この邸に迷い込んだの?」
一つ目小僧は恐る恐る問い掛ける。彼はどうしてこんな所に1人で居たんだろう?
「僕は土御門晴支。此処に居る皆と公園に居たら、急にこの場所に移動しちゃって。」
「つっ・・・土御門って、あの有名な陰陽師の!?ぼっ、僕を祓わないで!?」
僕から距離を取り涙目になる一つ目小僧。僕は慌てて両手を上げ危害を加える気が無いことを示す。
「怖がらないで。君を祓ったりなんてしないから。唯、この場所について君が何か知っているなら、教えて欲しいんだ。」
僕らに敵意が無いことが分かり、一つ目小僧は徐々に落ち着きを取り戻し、ゆっくりと口を開く。
「僕も友達の唐傘小僧と一緒に遊んでたら、此処に迷い込んじゃって・・・。2人で此処から出ようと邸の周りを延々と歩いてみても、この場所から離れることが出来ないし、いつの間にか唐傘小僧ともはぐれちゃうし・・・。僕、どうして良いか分からなくて、1人で此処に居たんだ。」
顔を俯かせ、小さな声で語る一つ目小僧。余程心細く不安だったのだろう。僕は意識を集中し、妖の気配を捜してみる。
「妖の気配が感じられるのは、あの屋敷の中からだけだ。だから、唐傘小僧は恐らくあの屋敷の中に居ると思う。」
僕の言葉に皆が屋敷の方に注目する。あの邸からは、邪悪な妖気がピリピリと感じられる。
「あの邸の中に居るんだとしたら・・・早く連れ戻した方が良いんじゃないか?」
僕は壮吾の言葉にこくりと頷く。壮吾も屋敷の方から放たれる妖気を警戒している様子だ。
「晴支さん、唐傘小僧を捜すのに協力して下さいっ。お願いしますっ。」
友人を助けたい一心で僕に深く頭を下げる一つ目小僧。そんな彼の必死の思いに、僕は「うん、任せて。」と力強く了承する。
「大丈夫。唐傘小僧を見つけて、皆で此処を出よう。」
僕の言葉に、一つ目小僧は「有難う。」と嬉しそうに微笑んだ。
「よ~っし!じゃあ、あの邸に乗り込むぞ!!」
両の拳を元気良く振り上げ叫ぶハクの声を合図に、僕達は邸の方へと歩き始めた。




