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暗い闇に包まれた湖。その浅瀬に足を浸からせて佇む1人の少女。少女は少し足を動かして水を弾きながら、不敵な笑みを浮かべる。その後ろで、覚は無言のまま、じっと静かに立って控えている。
「天逆毎様・・・」
背後から掛けられた声に、少女はゆっくりと振り返る。彼女の視線の先には、体中に斬り傷を負った絡新婦の姿があった。
「随分と激しく闘り合った様じゃな、絡新婦。」
カラカラと楽し気に笑う天逆毎。そんな彼女に、絡新婦は深刻な面持ちで報告を始める。
「申し訳ありません。“如意宝珠”の入手に失敗しました。竜王の娘を追い詰めたのですが、土御門の陰陽師やその式神、それに冥府の妖までもが絡んで来て・・・あと少しという所で奴らの手に渡ってしまいました。」
絡新婦は「お許しください。」と深く頭を下げる。
「もう良い。顔を上げよ、絡新婦。」
天逆毎は振り返り、絡新婦の前までゆっくりと近付く。
「あの石が無くても計画に支障は無い。あの石を手に入れれば少しは面白くなると思うたが・・・興味も失せた。」
髪を靡かせながら再び水際を歩き始める天逆毎の微笑みは、とても無邪気で、とても冷たい笑顔だった。
「葛の葉庵に、冥府の妖か・・・。これから、楽しくなりそうじゃ。」
フフフ、と陽気に笑いながら水際をご機嫌な様子で跳ねる天逆毎。
「どうする?天逆毎様?」
口を噤んでいた覚が、ぽつりと呟く様に語り掛ける。
「そうじゃな・・・。葛の葉庵の連中に贈り物も届けてもらったことじゃし・・・また奴らに少しちょっかいを出してみようかの。」
天逆毎は、「どんな嫌がらせをしてやろうかのう?」と弾んだ声で覚や絡新婦に語り掛ける。
「土御門晴支・・・あの者も、中々揶揄いがいのありそうな陰陽師じゃったな・・・。」
覚を通して見た晴支の一連の行動を思い返し、天逆毎はぽつりと呟く。
「次は、どんな風に楽しませてくれるかのう?」
天逆毎はそっと湖の前でしゃがむと、片手で湖の水を掬い上げる。そしてその水が手から零れ落ちるのを眺めながら、彼女は静かに笑みを浮かべる。少年を試す為の、次の悪事を企てながら―




