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土御門君と葛の葉庵の皆が席を離れた後も、私は土御門君の様子が気に掛かっていた。
「土御門君・・・いつもと少し様子が違っていた様な・・・」
「ん?そうでしたか?」
先程の土御門君の様子を思い返していると、夜汰さんが此方に振り向き声を掛けてきた。
「晴支のことが心配っスか、紫苑ちゃん?」
茨木童子さんの問い掛けに、私はこくんと頷く。滝さんが犯人の特徴を語った直後の土御門君の表情・・・何か思い詰めている様子だった。葛の葉庵の皆も、少しピリピリした雰囲気だった気がする・・・。
「・・・あら?」
ふと足下に目を向けた時に、床にある物が落ちているのに気が付く。
「どうしたの、紫苑?それ、何?」
屈んで拾い上げた物を見つめていると、滝さんが後ろから覗き込んできた。
「・・・ペンダント・・・かな・・・?」
目を細め、私の手の中の物をまじまじと見つめる火車さん。私が拾ったのは、2つのシルバーリングをチェーンで繋げているペンダントだった。4人は見に覚えがない様で、恐らく葛の葉庵の誰かの持ち物だろう。
「私、ちょっとこのペンダント届けてきますね。」
そう言うと、私はバッと部屋を飛び出してしまう。
「・・・つい勢いで廊下に出てしまいましたが」
廊下を少し進んだところで立ち止まり、私はペンダントをもう一度よく見てみる。リングの内側には、それぞれ“seigen”“shigure”とローマ字で名が刻まれていた。
誰の名前でしょうか・・・?
不思議に思いながら再び廊下を進んで行くと、調理場に天后さん達が居るのが目に入った。彼女達にペンダントのことを伝えようと1歩足を踏み出そうとしたが、私は彼女達の会話の内容に、思わず足を止めてしまう。
「あの滝さんの話・・・皆はどう思いますカ?」
白虎さんは何か探る様な笑みを浮かべながら、調理場に居る人達の顔を順に見つめ、問い掛ける。
「私・・・あの妖がまた何か企んでいるのかもって・・・怖くなりました。」
天后さんが、不安そうに小さな声で語る。
「・・・確かに、あの時と似ている。何か、嫌な予感がする。」
作業をしながら眉を顰め、静かに呟く天空さん。
「嫌な予感って・・・まさか、また彼奴が襲って来るかもしれないって言うの、天空!?」
天空さんをキッと睨む朱雀さんは、今にも彼に飛び掛かっていきそうな勢いで叫ぶ。
「上等よ!掛かって来れば良いわ!!晴厳達の仇・・・この手で討ってやるんだからっ!!」
「おい、落ち着け朱雀!大声で語る様なことじゃない。」
ギュッと拳を握り締め声を荒げる朱雀さん。彼女を何とか宥めようと、六合さんが話し掛けている。
晴厳って・・・この指輪の人ですよね?仇って・・・。
聞いてはいけないことを聞いてしまった様な気がして、私はゆっくり後ずさりしてその場を離れようとした。だが、その時―
「あれっ?紫苑、どうしたの?」
「ぴぃっ。」
私に気付いたハク君と家鳴ちゃん達が勢い良く飛び付いて来た。
「きゃっ!?」
私はバランスを崩してしまい、躓いてしまう。
「すみませんっ。怪我はありませんでしたか?」
私は急いでハク君達に話し掛けると、彼らはにっこりと笑って「平気だよ。」と言った。怪我はしていない様で、私はほっと安堵する。
「大丈夫ですか!?」
騒ぎを聞いた六合さん達が駆けつける。「大丈夫です。」と伝え立ち上がっていると、六合さんは私が手に持っていたペンダントに目を留める。
「神崎さん、その指輪・・・」
「えっ。あの・・・さっき落ちていたのを見つけて・・・誰の物かお聞きしようと思っていたんです。」
ペンダントを手渡すと、六合さんはリングに刻まれた名を暫し見つめ、静かに口を開いた。
「拾って頂き、有難う御座います。これは晴支の持ち物なので、後で渡しておきます。」
「あっ、あの・・・」
ペンダントをポケットにしまいその場を後にしようとする六合さんを引き留める。どうしても彼らに聞いてみたいことがあったのだ。
「あの・・・その指輪の“せいげん”さんと“しぐれ”さんって・・・どんな方なんですか?差支えなければ、御二人のことについて教えて下さい。」
滝さんの事件の犯人と何か関係があるかもしれない人物達・・・。それに、朱雀さんは晴厳さんの“仇を討つ”と言っていた・・・。
私の問いに対し、六合さんも、朱雀さん達も、少し動揺した様に視線を逸らす。
「滝さんの話を聞いてから、皆さん少し様子がいつもと違う様な気がして・・・もしかしたら、“せいげん”さん達がそのことと関係があるのかなって思ったんです・・・。突然変な事を聞いて、すみませんでした。」
ぺこりと頭を下げ謝る私に、六合さんは困った様に笑いながら、優しく語り掛ける。
「以前・・・凶悪な妖が、ある一族を襲う事件があったんです・・・。」
一言そう言うと、六合さんは悲しそうに口を噤む。
「その話・・・私も聞いて良いかな?」
不意に掛けられた声に驚き振り返ると、真っ直ぐ此方を見つめる滝さんの姿があった。彼女の背中越しに、茨木童子さん達が此方に向かって来ているのも見えた。
「ペンダントのことが気になって、私達も来ちゃった。」
私の肩をポンッと叩きながら悪戯っぽくニッと笑う滝さんに、私もにこっと笑い返す。
「・・・私で良ければお話しします。場所を変えましょう。」
六合さんはそう述べると、リビングの方へと歩き出した。私達も彼の後について歩いて行く。
「その指輪の元々の持ち主は土御門晴厳と、土御門時雨。2人はとても優秀で、勇敢で、立派な陰陽師でした。」
リビングに集まった一同が注目する中、六合さんは静かな声で話を切り出した。
「彼らには2人の子供が居ました。それが晴支と、彼の兄の晴弥です。晴弥は弟思いの良い子でしたよ。晴支や壮吾と一緒に、いつも3人で仲良く遊んでいました。」
土御門君にはお兄さんが居たんだ・・・。
妖絡みの事件に一緒に関わる中で、土御門君のこと、少しは知ることが出来たと思っていた。でも実際は、彼について知らないことがまだまだ沢山あるのだと理解した。
何故だろう・・・少し寂しい・・・。
「彼らは、私達や壮吾の両親と一緒に、今の晴支の様に妖の事件を解決しながら、幸せな日々を過ごしていました・・・。しかし晴支が5歳の誕生日を迎えた日、悲劇は突然起きたんです・・・。」
しぃん・・・と一瞬の沈黙が室内に流れる。六合さんと葛の葉庵の人達の表情が少し曇り、辛そうに感じた。
「雪の降る寒い日でした。緋色の長い髪の妖が、手下の妖達を引き連れ、私達の前に現れたんです。」
緋色の長い髪の妖・・・。滝さんを襲った妖の1人も、同じ様な容姿だと言っていた・・・。2つの事件は、同一犯によるものだろうか・・・?一体、何者なのだろうか・・・。
「奴は異常な程強い力を持った危険な妖でした。奴との闘いは、とても壮絶なものでした・・・。」
横で一緒に話を聞いていた滝さんが、ギュッと拳を握り締める。その拳は少し震えていた。
「どうして・・・土御門君達が狙われたのでしょうか・・・?」
「奴らにとって、土御門は厄介な邪魔者・・・。特に晴支は晴明の生まれ変わりであり、大きな力を秘めた存在です。まだ幼く力が未熟なうちに危険な目を摘んでしまおうと考えたのかもしれません。」
土御門君が生きている世界は、常に妖の脅威が付き纏う危険と隣り合わせの世界なんだ・・・。
「奴の破壊力は凄まじく、私達全員の力を持ってしても止めきれませんでした。晴厳達は深手を負いながらも粘り強く立ち向かい続けたのですが・・・妖の鋭い斬撃に斬り裂かれ命を落としました。私と太陰は晴支達3人を連れてその場を離れたのですが、大勢の妖の追撃を受け、晴弥もその時に致命傷を受け、亡くなりました。私達は・・・彼らを護り切ることが出来なかったんです・・・。」
土御門君や葛の葉庵の皆に、こんな辛く苦しい過去があったなんて・・・。きっと私には想像もつかない程の苦難や悲しみを、幾度となく乗り越えてきたのだろう・・・。
切なさが胸に込み上げ、私の頬を涙がつたう。
「!?神崎さん、私何か変なことを言ってしまいましたか?嫌な思いをさせてしまったのなら、すみません・・・。」
「あっ、いえ・・・違うんです。自分でも何故だか分からないんですけど・・・急に涙が出てしまって・・・。驚かせてしまって、すみませんでした・・・。」
涙を止めることが出来ない私を、六合さんは焦った様におろおろしながら見守っている。滝さんとハク君、それに家鳴ちゃん達が私の傍に寄って来て励ましてくれた。一緒に話を聞いていた他の皆も、私のことを心配し、声を掛けてくれた。
「神崎さんを泣かせるなんテ・・・六合は悪い人ですネェ!」
くすくす笑いながら六合さんをからかう白虎さん。
「六合が紫苑を泣かせた!お仕置きするぞ!!」
「ぴぃ!!」
ハク君と家鳴ちゃんが六合さんに向かって突撃していく。ハク君達にしがみ付かれて、六合さんは眉尻を下げ困り果てた表情だ。そんな様子を眺めながら、白虎さんと茨木童子さんはケタケタと笑っている。他の皆はこの状況をどうしたものかと静かに見守っている。
「六合達、此処に居たんだ。・・・!?神崎さん、どうしたの?」
ひょこっと現れた土御門君は、私が泣いているのを見て心配し、駆け寄って来てくれた。
「私は大丈夫です。それより、六合さんが大変なことに・・・」
私の言葉に、土御門君は六合さんの方に視線を移す。ハク君達を振り解こうともがく六合さんや、その様子を見て楽しそうに笑う白虎さん達を見て、土御門君は暫し沈黙する。それから彼は、六合さんの方へゆっくりと近付き、ハク君達を抱きかかえ六合さんを助けるのだった。
「晴支。これ、神崎さんが拾ってくれたんですよ。」
その場を誤魔化す様にいそいそとポケットからペンダントを取り出した六合さんは、それを土御門君の手の平の上にそっと置いた。
「!?良かった。凄く大切な物で、探していたんだ。見つけてくれて有難う、神崎さん。」
ペンダントを握り締め、嬉しそうに微笑む土御門君。
「いつも首にかけていたんだけど・・・今朝仕事中にチェーンが切れちゃって・・・。後で直そうと思ってポケットにしまっていたんだ。」
照れた様に頬をポリポリと掻きながら、土御門君は「早くチェーン直さないと・・・」と小さく呟く。ペンダントを見つめる彼の目はとても優しくて、そして切なかった。
今回の事件の犯人が、もし土御門君の事件の犯人と同一人物だったら・・・。
彼はきっと深く傷つき、辛い思いをするだろう。
何か1つ大きな波乱が起こりそうな・・・そんな胸騒ぎを感じながら、私は皆とのんびり楽しくお喋りをしている土御門君をそっと見守っていた。




