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「へぇ~。珠を持った女の子っスかぁ~。」
「何かまた厄介な事件に巻き込まれてるみたいだな。」
「その女の子、まだ目を覚まさないんですか?」
フルーツ大福やブラウニー等、うちのスイーツをはむはむと頬張りながら語るのは、休暇を貰って現世に遊びに来ている茨木童子達だ。彼らは冥府の妖で、亡者捜索の一件を手伝ったのをきっかけに仲良くなった。あの事件の犯人については、彼らもまだ色々と調べている最中らしい。
「うん、まだ眠ってる。貴人に傷を治療してもらったから、直に目を覚ますと思うけど・・・。」
空き地を去った後、僕達は女の子を手当てする為に葛の葉庵に連れ帰った。今は空き部屋で休ませている。この葛の葉庵の中に居れば、土蜘蛛達は近付けないから安全だろう。
「勝手に触るのは少し気が引けたが、あの少女の持っていた珠を少し調べさせてもらった。」
腕を組みテーブルに軽く凭れ掛かりながら、貴人は僕の方をちらりと一瞥する。
「あの珠は恐らく、“如意宝珠”と呼ばれる不思議な力を持つとても貴重な宝珠だ。」
「!?“如意宝珠”って、確か・・・」
貴人の口から出た言葉に、僕は驚きの表情を見せる。葛の葉庵の皆や茨木童子達も、目を見開いて貴人の方に注目している。
「あの・・・“如意宝珠”って、一体どんな珠なんですか?」
聞き慣れない言葉に首を傾げながら、神崎さんがおずおずと問い掛ける。
「“如意宝珠”とは、海底に棲む妖である竜王が管理している珠だ。その珠を手にした者は、あらゆる願いを叶えることが出来ると言われている。宝珠の力を使えば、強大な力を手に入れることも、自分に迫る厄災や害悪を退けることも、簡単に出来るとされている。」
神崎さんは、貴人の説明を緊張の面持ちで聞いている。
「でも、竜王と言えば、海底に居る数多の妖達を従える大妖怪ですヨ?」
ティースプーンを顔の横でくるくると回しながら、白虎は飄々とした調子で語り掛ける。
「そんな大妖怪が持っている“如意宝珠”を狙うなんて、何処の誰かは分かりませんが、中々大胆なことをしますネェ。」
スプーンを見つめ、にやりと笑みを浮かべる白虎。今回の事件の犯人が何者なのか、興味津々の様子だ。
「でも、竜王が保管している筈の“如意宝珠”を何故あの少女が持っていたのでしょうか?竜の一族に、何か問題が起こったのかも・・・?」
顔を顰め、首を傾げる六合の問いに、この場に居る皆がう~んと唸る。
「ちょっと良いかい?」
声の方に振り返ると、少女に付き添ってくれていた太陰が、扉の前で立っていた。
「例の女の子、目が覚めたよ。何があったのか話してくれると言うから、此処に連れて来たよ。さぁ、おいで。もう大丈夫だからね。」
太陰が優しく話し掛けると、後ろからひょこっと少女が姿を現した。少女は此方の様子を窺う様に、太陰の陰からおずおずと見つめてきた。
「良かった、目が覚めたんだね。もう起き上がって大丈夫?」
僕が振り返りそう問いかけると、少女は小さくこくりと頷く。そして太陰に促され近くにある椅子に座ると、少女はすぅっと一呼吸し、静かに語り始めた。
「助けてくれて有難う。私の名前は滝。竜王の娘。私を襲っていたあの土蜘蛛達は、この“如意宝珠”を盗もうとした妖の仲間なの。」
皆に見える様に如意宝珠を前に掲げ、悲し気に視線を落とす滝。
「顔色が良くない様ですが、もう少し休んだ方が良いのでは?無理は駄目ですよ。」
心配して声を掛ける神崎さんに、滝は「有難う。」と少し弱弱しく笑いながら礼を言う。
「仲間・・・って言うことは、やっぱり首謀者は別に居るんだね。」
あの土蜘蛛達のレベルの妖なら、束になっても竜王に敵う筈がない。彼らを指揮し、竜王に闘いを仕掛ける妖とは、一体どんな大妖怪だろうか?
「私達竜の一族を襲ったのは・・・2人組の妖よ。私達の居た宮殿に突然やって来て・・・私の両親や一族の皆を斬り付けて・・・甚振って・・・」
静かに語る滝の声と指先が、微かに震えている。
「そんな・・・ひでぇ・・・。」
表情を曇らせ、ぽつりと呟く壮吾。
「2人組の妖・・・。どんな特徴の妖だ?侵入経路や、手引きした者が居ないか、心当たりは?」
少し身を乗り出して問い掛ける貴人に対し、滝はふるふると首を横に振る。
「奴らがどうやって入り込んだのかも、他に仲間が居たかどうかも、私には分からない。でも・・・あの2人の妖の姿は目に焼き付いてる。」
滝の言葉に皆が注目する。僕もカップを片手に、彼女の言葉に耳を傾ける。
「緋色の長い髪の少女と、色っぽい感じの着物の女性だった。」
カシャンッ!
「晴支!?」
僕の名を呼ぶ六合の声に、はっと我に返る。皆が心配そうな表情で駆け寄る。視線をちらっと下に向けると、右の手の平からつぅっと流れる紅い血と、足下で割れているカップの破片が目に入った。思わず手に力が入り取っ手を壊してしまったことで、カップを床に落としてしまった様だ。
「御免。皆怪我しなかった?」
僕は急いで屈み、割れたカップの破片を集める。
「晴支、手を見せてみろ。」
貴人は僕の傍に座ると、手をぱっと掴んで光で包み、瞬く間に傷を治癒してしまう。
「大丈夫か、晴支?」
僕の顔を覗き込みながら貴人が静かに問い掛ける。皆も僕の方をじっと見つめ、心配そうに様子を見守っている。
「うん、僕は大丈夫。割れたカップ・・・処分してくるね。」
僕はカップの破片を纏めた袋を持ってゆっくりと立ち上がると、静かに部屋を出た。
「緋色の長い髪の・・・少女・・・」
「ぴぃ?」
僕がぽつりと呟いた言葉に、肩の上で少しうとうとしていた家鳴が片目を軽く擦りながら首を傾げる。僕は家鳴の頭をそっと撫でると、ふぅっと1つ溜め息を吐き、廊下を進んで行った。




