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葛の葉奇譚  作者: 椿
第5章:如意宝珠
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 妖達の妖力が強まる刻限である逢魔が時。僕と青龍は、数匹の家鳴を連れ、妖絡みの事件が起きない様に街の各地を歩いて見廻りをしている最中だった。

 「そうか。八束先生、もう退院したのか。大事に至らなくて良かったな。」

 「うん。早く怪我が治って、本当に良かった。」

 旧校舎の一件で怪我を負った八束先生だったが、少女の霊に刺された傷は思った程深くなかった為数日の療養で直ぐに良くなった様だ。

 「ねぇ、晴支。あそこ見て。大食いチャレンジだって!」

 頭の上に乗っていた家鳴がファミレスの入り口に貼ってあるチラシを指差す。

 「メガジャンボ唐揚げ丼・・・。」

 チラシには特大の器に盛られた御飯の上にこれでもかというくらいに唐揚げが積み上げられた丼の写真が載っていた。制限時間以内に食べきることが出来れば、無料になる上に景品まで貰えるらしい。

 「美味しそう。」

 ぐぅ~っとお腹から大きな音を出しながら、僕は食い入る様にそのチラシを見つめた。

 「晴支ならきっと食べきれると思う!」

 「晴支は食いしん坊で、凄く沢山食べるもんね!」

 「ぴぃ!挑戦してみたら?」

 僕や青龍に掴まりながら、ぴぃぴぃと賑やかに騒いで大食いチャレンジを勧めてくる家鳴達。

 「晴支の場合、あの特大唐揚げ丼を完食した後、更に追加の料理やデザートを注文しそうだな。」

 余裕で唐揚げ丼を完食し、嬉しそうに店員に追加注文のメニューを伝える僕の姿を想像し、青龍は苦笑を浮かべる。

 「唐揚げ丼、美味しそうだけど・・・。」

 今は見廻り中。寄り道は駄目だ・・・。

 自分にそう言い聞かせ、ファミレスに向かいそうになる体を何とか抑え、見廻りルートを進んで行く。それでも諦め切れず、僕はへの字口の何とも言えない表情をしながら、ちらちらと何度も大食いチャレンジのチラシの方に視線を向ける。そんな風に葛藤に苦しむ僕を、青龍と家鳴達は憐憫の眼差しで見つめてくる。

 気を取り直して見廻りに集中しようと前に進み始めたその時―

 「!?」

 今居る場所から西に少し外れた所に妖の気配を感じ、歩を止める。

 「晴支・・・」

 「ぴぃ・・・」

 青龍や家鳴達も気配を敏感に感じ取り、警戒を強める。

 「行こう。」

 僕達は妖の気配のする方に向かって全速力で駆け抜けて行く。西に向かって進んで行く途中、1匹の小さな子蜘蛛がちょろちょろと動いているのが目に付いた。更に進んで行くと、目的の場所に近付くにつれ子蜘蛛の数がどんどん増えていることに気が付く。

 この子蜘蛛の妖達・・・何故こんな所に沢山集まっているんだろう?

 「きゃあっ!」

 次々と増えていく子蜘蛛達を不審に思いながら走り続けていると、女性の悲鳴が響いてきた。人気の無い空き地に辿り着いた僕達が目にしたのは、1人の少女が数匹の大きな土蜘蛛と大量の子蜘蛛達に取り囲まれている光景だった。少女は体中に傷を負いながら、淡く光り輝く珠を大事そうに胸にギュッと抱えていた。

 「あんた達なんかに、大事な宝珠は絶対渡さないっ!!」

 目にうっすら涙を浮かべ、蜘蛛達をキッと睨み付ける少女。土蜘蛛達はそんな少女にじりじりと迫り、追い詰めていく。少女は迫って来た蜘蛛達を蹴散らそうと水の渦を作り上げる。水の渦は蜘蛛達を追い払うが、次から次へと湧いて出て切りが無い。土蜘蛛達が少女に向かって鋭く尖った脚を突き立てようと振り下ろす。

 「浄き光よ、闇を滅し給え。急急如律令!」

 破魔の光が土蜘蛛達を包み込み、邪を滅していく。残っている子蜘蛛達は、突然の襲撃も気にせず、少女に向かって更なる攻撃を仕掛ける。彼女から珠を奪おうと迫る蜘蛛達を青い焔と蛇の様にうねる水が呑み込んでいく。大部分の仲間を失った蜘蛛の妖達は、珠の奪取は難しいと判断したのか、その場からそろそろと離脱していった。少女は蜘蛛達が去った後も、暫く震えながら立ち尽くしていた。


 挿絵(By みてみん)


 「大丈夫?」

 僕達は急いで少女の下に駆け寄る。少女は此方の方にゆっくりと振り返り、緊張の糸が切れてしまったのか、ふらっとその場に倒れてしまう。軽く揺すって声を掛けるが反応が無い。それ程深くはないが、浅い斬り傷や打撲が体中に沢山有る。安全な場所で、きちんと手当てをしなくては・・・。

 ・・・こんなに傷を負って、彼女に何があったんだろう?この娘が握り締めているこの珠が、何か関係あるのだろうか?

 僕は彼女の腕の中の珠にちらりと目をやる。土蜘蛛達が何故この珠を奪い取ろうとしていたのか・・・そのことが頭の中で引っ掛かる。


 挿絵(By みてみん)


 「とりあえずこの娘を連れて此処を離れよう。土蜘蛛達が仲間を連れて、また彼女を狙いに来るかもしれん。」

 「うん、そうだね。」

 僕は彼女を担ぐと、青龍や家鳴達を連れて直ぐに空き地を後にした。



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