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部屋を出ると、すぐ近くに見張り役の狒々達が数人立っていた。僕は見つからない様に気配を消し、そっと静かに歩を進める。僕はより多く狒々達の気配を感じる西の方に向かって進んで行くことにした。狒々達が沢山集まっている場所に、誘拐被害者達が居るかもしれない。
進んで行く先には、あちこちで狒々がうろうろしている。連れて来た女性達が逃げ出さない為に目を光らせている様だ。僕は細心の注意を払い、忍び足で歩いていく。そして真っ直ぐ進み続け、1番多く気配を感じる大きな部屋に辿り着く。ほんの少しだけ扉を開け、中の様子を調べてみる。ちらっと見た様子では人の姿は確認できない。狒々達の気配に紛れて人の気配も感じられるので、此処に被害者達が捕まっていると思うのだが・・・。
忍び込んでみるか・・・。
音があまり出ない様にゆっくりと扉を開き、そろりと部屋に潜入する。中に入ると、狒々達が女性達を囲む様に集まり、話し合っている様子が見えた。
「今回は収穫が沢山あったな。」
「ああ。霊力の高い娘が3人も手に入った。」
「此処に居る娘達の比ではない程貴重だ。」
「あの娘達を喰えば、きっと我らも大きな力を得られるだろう。」
狒々達は「ヒヒヒヒ・・・」と不気味に笑いながら語り合う。どうやら連れ出された女性達が今まさに食べられようとしているみたいだ。
急いで助け出さないと・・・。彼女達が危ない。
それに“霊力の高い3人の娘”とは、恐らく僕達のことだろう。この人達を食べた後、次に狙われるのは僕達の中の誰かになる筈だ。神崎さんや天后に危険が迫っている。早急に対処する必要がある。暫く観察していると、狒々達の口が、何かもそもそと咀嚼していることに気が付く。よく見てみると、狒々達の足下に隠れる様に空のバスケットが転がっている。まさかと思い、狒々達の集団を1人ずつ順々に見ていくと、数人の狒々の手に食べかけのサンドイッチが握られているのが目に入った。
「サンドイッチィーーーーーッ!!」
僕はサンドイッチを奪われたショックと怒りで、つい叫んでしまった。まるで去り行く仲間の名を呼ぶ様な悲痛な叫び声に、その場に居た者達全員が声の主の方へと視線を向ける。僕は青い焔を狒々達目掛けて思いきり放つと、“隠”の術を解き姿を現す。
「お前!?先程捕らえた娘ではないか!!」
「どうやって此処まで入って来たのだ!?」
監禁していた筈の娘が突如現れ、驚きを隠せない狒々達。そんな彼らを、僕はギロリと睨み付ける。
「被害者達と、サンドイッチの仇・・・。」
僕の怒気の籠った威圧的なオーラに気圧され、狒々達は一瞬たじろぐ。僕はその一瞬の隙を見逃さず、1番手前に居た数人の狒々達に焔を纏った容赦の無い蹴りをお見舞いする。捕まっていた女性達は、何が起こっているのか理解できず、ただ呆然と事態を眺めていた。僕が怒りに身を任せ青い焔の拳を振るっていると、左右から迫って来た浄化の光と雷が、付近の狒々達を一掃した。
「君がこれ程荒れているのは珍しいな、晴支。」
「楽しそうですネ。私も混ぜて下さいヨ。」
現れたのは貴人と白虎。紙人形の式神を通じて此処の位置を特定し、逸早く駆けつけてくれた様だ。僕はむすっとした不機嫌な顔で彼らに不満を述べる。
「神崎さんが折角作ってくれたサンドイッチ・・・狒々達に全部食べられた・・・。許せない・・・。」
「・・・そうか。それは残念だったな。」
近付いて来る狒々達に鋭い眼差しを向け収まらない怒りをぶつける様に「急急如律令!」と唱える僕を冷めた目で見つめ、淡々と答える貴人。彼は浄化の光を放ち、狒々達を次々と退治していく。
「クッ・・・アッハハハハハハ!晴支は本っ当に食いしん坊ですネェ!!食べ物の恨みは怖いデス!!」
口許を着物の袖で隠してケタケタと笑いながら、電撃を狒々達にぶつける白虎。僕の拗ねている姿がツボに入ったらしい。
・・・笑い事ではないのに。
3人で暴れ回っていると、外から人影が飛び上がり、柵ごと窓をスパッと切断する。
「・・・ごめん。少し遅くなった。」
天空は部屋の中に勢い良く飛び込んでくると、手にしている2振りの刀で付近に居た狒々達を切り裂いていく。その流麗な太刀捌きに、狒々達は為す術なく倒れていく。
「おのれ・・・。好き勝手暴れおって・・・。」
壁際に居た狒々達がギリッと歯軋りをしながらこちらを睨み付けてくる。彼らが僕に反撃を加えようとその場を離れかけたその時―傍にあった壁がドォンッという鈍く大きな音と共に吹き飛んだ。その衝撃で彼らも遠くに弾き飛ばされて行く。
「お前、付いて来んなよっ!ヘボ勾陳は引っ込んでろ!!」
「お前が勝手にくっ付いて来たんだろうが!足手纏いは下がってろ!!」
おでこをぶつけて威嚇し合う騰蛇と勾陳。そんな2人を狙って狒々達が一斉に襲い掛かる。
『お前にだけは絶対に負けねぇっ!!』
2人は同時にそう言うと、飛び掛かって来た狒々達を力強く殴り飛ばす。台詞が被ったことに不快そうに「ちぃっ。」と舌打ちすると、2人はそれぞれ逆の方向に駆け出す。
「おぉりゃあああ!」
騰蛇は大きな雄叫びを上げると、紅蓮の焔を纏い狒々達を一気に薙ぎ払う。彼の怒涛の突進で、狒々達は色々な方向に次々と飛ばされていく。
「覚悟しやがれっ!」
勾陳は己の拳に覇気を込め、その拳を狒々達の体に叩き付ける。叩き付けられた拳から相当な威力の覇気が爆ぜ、狒々達を打ちのめしていく。
「どうした!何があった!?」
騒ぎを聞きつけた狒々の仲間達が一斉にやって来る。彼らは、まるで獲物を見つけた獣の様な鋭い目で睨み付ける僕達を見て、びくっとする。危険を感じて震え出した彼らは、本能的に後ろにたじろぐ。そんな狒々達を逃がすまいと、僕達は彼らの居る方に猛スピードで駆け抜けて行く。
「ひぃっ!?」
一瞬で距離を詰め襲い掛かろうとする敵に恐れをなした狒々達は命の危機を感じ、その場を離れようと走り出す。
「逃がさない・・・“縛”!」
僕はすかさず術を唱え、狒々達の動きを封じる。光の鎖に縛られ動けなくなってしまったことに動揺する狒々達。“縛”の術で捕らえた敵を一気に片付けようと、僕達6人は呼吸を合わせ一斉に攻撃する。己の力を込めた強烈な一撃が狒々達に襲い掛かる。集まって来た狒々達も皆の攻撃の威力に敵わずバタバタと倒れていった。




