第三十一話 将官としての第一次世界大戦
一 欧州から届いた戦争の知らせ
大正三年(1914)七月。わしは五十歳になっていた。
江戸時代に生まれ、明治という激動の時代を生き抜き、今や陸軍少将として軍務に励んでいた。
前年には初孫の義蔵が一歳を迎え、修蔵も父親として少しずつ頼もしくなっていた。節子は二十一歳、光蔵は十七歳、末娘の春子も十二歳となり、我が家は以前にも増して賑やかになっていた。
そんな折、欧州から衝撃的な知らせが届いた。
オーストリア=ハンガリー帝国がセルビアに宣戦布告したのである。
発端は、六月二十八日にサラエボで起こったオーストリア皇位継承者夫妻の暗殺事件であった。
「欧州で戦争か…」
わしは軍の執務室で報告書を読みながら呟いた。
当初、わしはバルカン半島の争いがここまで大きくなるとは考えていなかった。
しかし、事態は急速に悪化した。
ロシアが動員を進め、ドイツがロシアとフランスに宣戦布告し、ベルギーへの侵攻をきっかけにイギリスも参戦した。
欧州の列強が次々と戦争に巻き込まれていったのである。
「まさか、これほどの大戦争になるとは…」
日清戦争、日露戦争。わしはこれまで二度の大きな戦争を経験してきた。
しかし、今回は違った。
一つの地域の争いが、同盟関係を通じて次々と他国を巻き込み、欧州全体を戦場に変えようとしていた。
やがて日本でも、この戦争を欧州大戦、あるいは世界戦争と呼ぶようになった。
わしは世界地図を広げ、各国の位置を確認した。
「これほど多くの国が戦うとは…。いったい、どこまで広がるのじゃ」
二 日本の参戦と家族との別れ
八月、日本は日英同盟を背景として、ドイツに宣戦布告した。
主な作戦目標は、中国山東半島にあるドイツの租借地、青島とその周辺の軍事施設であった。
わしも陸軍少将として、青島攻略に関係する軍務に従事することになった。
日露戦争から十年。
五十歳となったわしは、再び戦争に向き合うことになったのである。
出発前夜、わしは家族を集めた。
「皆、少し話がある」
愛海、修蔵、節子、光蔵、春子が居間に集まった。
「わしは明日、軍務のため家を離れる」
愛海は静かに頷いた。
「…やはり、行くのですね」
「うむ。今回は将官として、兵たちを指揮する立場じゃ」
修蔵が口を開いた。
「父上、今度の戦争は日露戦争よりも大きいのか?」
「戦っている国の数は、比較にならん。もっとも、日本軍が直接向かうのは主として青島じゃ」
「父上も危険な場所に行くのか?」
「戦場に近づく以上、危険がないとは言えん。しかし、わしには兵たちを無事に帰す責任がある」
節子が心配そうに尋ねた。
「父上、無理はしないでね」
「分かっておる」
「父上は責任感が強いから、何でも自分で背負い込もうとするでしょう?」
「節子には敵わんのう」
光蔵は真剣な表情で言った。
「父上、今度はどんな兵器が使われるんだ?」
「大砲や機関銃はもちろん、飛行機も軍事利用され始めておる」
「飛行機が戦争に?」
「ああ。空から敵の陣地を調べるのじゃ」
機械好きの光蔵は興味深そうに目を輝かせたが、すぐに表情を曇らせた。
「人を空へ運ぶ機械まで、戦争に使われるんだな…」
「そうじゃ。技術というものは、使い方によって人を助けることも、傷つけることもある」
そのとき、春子がわしの袖を引いた。
「お父様…」
「どうした、春子」
「わたくし、お父様が戦争に行かれるのは嫌ですわ」
春子は艶やかな長い黒髪を揺らしながら、わしを見上げた。
「また、帰ってきてくださいますわよね?」
わしは膝を折り、春子と目線を合わせた。
「もちろんじゃ。必ず帰ってくる」
「本当ですの?」
「ああ。約束じゃ」
春子は小さな手を差し出した。
「では、指切りですわ」
「ははは。もう十二歳なのに、まだ指切りか」
「年齢は関係ありませんわ!」
わしは笑いながら、その小さな指に自分の指を絡めた。
最後に愛海が口を開いた。
「あなた」
「何じゃ」
「あなたは私たちに、生きると約束してくださいましたね」
わしは静かに頷いた。
「覚えておる」
「だったら、今度も必ず帰ってきてください。将官として立派に働くことも大切でしょう。でも、私たちにとっては、あなたが生きて帰ることの方が大切なんです」
「…分かった」
愛海は少しだけ微笑んだ。
「それに、義蔵も待っていますよ。おじいちゃんの顔を忘れられたら困るでしょう?」
「それはいかん!」
わしが慌てて答えると、家族全員が笑った。
その笑い声を胸に刻み、わしは翌朝、家を後にした。
三 少将として見た青島攻略
青島攻略に向けた作戦は、日露戦争の経験を持つわしにとっても、学ぶことの多いものであった。
今回、攻略軍全体の指揮を執るのは神尾光臣中将であった。
わしはその指揮下で、部隊の運用や補給、兵の安全に関わる任務を担うことになった。
青島にはドイツ軍が築いた堅固な防御施設が存在していた。
塹壕、砲台、鉄条網。
それらを攻略するため、日本軍は周到な準備を進めた。
「正面から無理に突撃させてはならん」
わしは部下たちに繰り返し伝えた。
「敵の陣地をよく調べ、砲兵と歩兵の連携を徹底するのじゃ」
一人の若い将校が尋ねた。
「少将閣下、日露戦争の頃と比べて、戦い方は変わったのでしょうか」
「基本は同じじゃ。だが、兵器の威力も、情報を得る手段も進歩しておる」
わしは遠くの陣地を見つめた。
「日露戦争では、機関銃と砲兵火力の恐ろしさを嫌というほど思い知らされた。あの教訓を忘れてはならん」
かつて旅順では、多くの兵士が命を落とした。
その記憶は、十年経った今も消えていなかった。
わしは兵たちに命令した。
「勇敢であることと、無謀であることは違う。生きて任務を果たすことを考えよ」
そして、今回の戦争では新しい光景を目にすることになった。
飛行機である。
日本軍は青島攻略に際して航空機を投入し、偵察や爆撃を行った。
わしは空を飛ぶ機体を見上げた。
「…人間が、空から戦場を見下ろす時代になったのか」
子どもの頃、わしは蒸気機関車を初めて見て驚いた。
明治の文明開化では、鉄道も電信も、まるで魔法のように思えた。
それが今や、人間は空を飛び、戦争まで行っている。
「光蔵が見たら、さぞ驚くじゃろうな」
そう呟いたものの、わしの胸には複雑な思いがあった。
空を飛ぶという人類の夢が、敵を攻撃する手段にもなっている。
文明の進歩とは、必ずしも幸福だけをもたらすものではないのだ。
十一月七日。青島のドイツ軍は降伏した。
攻略作戦は日本軍の勝利に終わったのである。
「終わったか…」
わしは報告を受け、深く息を吐いた。
しかし、欧州では戦争が続いていた。
青島での勝利は、日本にとって一つの区切りであっても、世界戦争そのものの終わりではなかった。
四 新兵器が変えた戦争
大正四年(1915)。
青島攻略を終えた後も、わしは将官として軍務に従事し、欧州から届く戦況報告に目を通していた。
そこには、わしの想像を超える戦争の姿が記されていた。
西部戦線では、フランス軍、イギリス軍、ドイツ軍などが長大な塹壕を築き、互いに対峙していた。
機関銃と大砲の威力が増したことで、兵士が開けた土地を前進することは極めて危険になっていた。
「敵陣を少し奪うだけで、これほど多くの死傷者が出るのか…」
わしは報告書を握りしめた。
日露戦争でも塹壕戦は経験した。
だが、欧州ではそれがさらに大規模になっていた。
そして、同年春。
ドイツ軍が西部戦線で大規模な毒ガス攻撃を行ったとの報告が届いた。
「毒ガス…?」
わしは思わず聞き返した。
「はい。塩素ガスを使用し、敵兵に被害を与えたとのことです」
「毒を風に乗せて、兵を殺すというのか」
わしは言葉を失った。
砲弾であれば、着弾する場所をある程度予測できる。
しかし、目に見えにくい毒ガスが風に乗って広がれば、塹壕に隠れた兵士たちまで苦しめる。
「これが近代戦争の行き着く先なのか…」
わしは机に置かれた軍帽を見つめた。
かつて祖父・金右衛門から聞いた江戸時代の武士の戦い。
父上が経験した幕末の動乱。
そして、わし自身が経験した日清・日露戦争。
戦争の姿は、世代を追うごとに変わっていた。
しかし、人が傷つき、家族が悲しむということだけは変わらなかった。
五 陸軍中将への昇進
大正五年(1916)。わしは五十二歳になっていた。
その年、わしは陸軍中将への昇進を命じられた。
「陸軍中将…」
辞令を受け取ったとき、わしはしばらくその文字を見つめていた。
明治の初め、父上の刀を眺めながら軍人になることを夢見ていた少年が、ついに中将となったのである。
家へ帰ると、愛海が出迎えてくれた。
「あなた、お帰りなさい」
「愛海、少し話がある」
「何ですか?」
「わしは、陸軍中将になった」
愛海は目を丸くした。
「まあ…!」
そして、嬉しそうに微笑んだ。
「おめでとうございます、あなた!」
「ありがとう」
「でも、偉くなったからといって、家で威張らないでくださいね」
「わしがいつ威張ったというのじゃ!」
「さあ、どうでしょうね」
愛海は楽しそうに笑った。
やがて子どもたちも集まってきた。
「父上、中将になったのか!」
修蔵が驚いた。
「すごいじゃないか!」
「父上、おめでとう!」
光蔵も嬉しそうに声を上げた。
節子は穏やかに微笑んだ。
「父上が長い間、軍務に励んできた結果ね」
「ありがとう、節子」
春子は両手を合わせた。
「まあ! お父様、陸軍中将になられたのですの!」
「そうじゃ」
「では、お父様はとても偉い方なのですわね!」
「まあ、そういうことになるのう」
すると春子は、少し考えてから言った。
「でも、わたくしにとっては、いつもの優しいお父様ですわ」
その言葉に、わしは思わず笑った。
「もちろんじゃ。階級が上がったからといって、お前たちの父親であることは変わらん」
その後、父上と母上にも昇進を報告した。
父上は八十三歳になっていた。
「蔵之助、お前が中将か…」
父上は感慨深そうに呟いた。
「父上のおかげです」
「いや、お前自身が努力した結果じゃ」
父上はしばらく黙った後、静かに続けた。
「ただし、忘れるな。軍人の務めは、階級を高めることではない。国と人々を守ることじゃ」
「はい」
母上も微笑んだ。
「蔵之助、本当に立派になったわねえ」
「母上…」
「でも、私から見れば、いつまでもあの小さな蔵之助よ」
わしは苦笑した。
「中将になっても、母上には敵いませんな」
「当たり前でしょう」
母上は、昔と変わらぬ優しい声で笑った。
六 戦車という新たな兵器
同じ大正五年(1916)。欧州から、さらに驚くべき報告が届いた。
イギリス軍が新しい装甲車両を戦場に投入したというのである。
戦車であった。
「鉄の車が、塹壕を越えて進む…?」
わしは報告書を読み返した。
履帯を備え、装甲で守られた車体が、不整地や塹壕を越えながら前進する。
それは、これまでの戦場にはなかった兵器であった。
「機関銃に対抗するため、鉄の車を造ったということか」
若い将校が頷いた。
「はい。ただし、初期の戦車は故障も多く、運用には課題があるようです」
「そうじゃろうな。新しい兵器が、最初から完全なものとは限らん」
わしは考え込んだ。
鉄道、自動車、飛行機。
そして戦車。
機械技術は、戦争のあり方まで変えようとしていた。
その夜、家に帰ると光蔵が機械の図面を広げていた。
「父上、お帰り!」
「また機械の研究か?」
「うん。最近は自動車の構造にも興味があるんだ」
わしは椅子に腰を下ろした。
「光蔵、欧州では戦車という新しい兵器が現れたそうじゃ」
「戦車?」
「鉄の車体に装甲を施し、塹壕を越えて進むのじゃ」
光蔵は目を輝かせた。
「そんな機械ができたのか!」
しかし、すぐに真剣な顔になった。
「でも、それも人を殺すための機械なんだな」
「そうじゃ」
「父上、僕は機械が好きだけど…できれば、人の暮らしを便利にするものを造りたい」
わしは静かに頷いた。
「それでよい。機械の価値は、何のために使うかで決まるのじゃ」
光蔵は図面を見つめた。
「いつか、もっと便利な機械を造ってみせるよ」
その言葉を聞いて、わしは少しだけ安心した。
戦争のためだけではない技術の未来を、この子は見つめているのだ。
七 兄上が見た海の世界戦争
大正六年(1917)。
わしは兄・寛之助と久しぶりにゆっくり語り合う機会を得た。
兄上は海軍中将として、海軍の軍務に携わっていた。
「蔵之助、陸の戦争も随分と変わったようじゃな」
「ああ、飛行機に毒ガス、戦車まで現れた」
「海も同じじゃ」
兄上は茶を一口飲んだ。
「今度の戦争では、潜水艦が恐ろしい存在になっておる。海中に潜り、敵に姿を見せぬまま魚雷を放つ」
わしは眉をひそめた。
「見えぬ場所から攻撃されるとは、厄介ですな」
「うむ。ドイツの潜水艦は、イギリスなどの商船を次々と沈めておる」
兄上は表情を曇らせた。
「軍艦だけではない。物資を運ぶ商船まで危険にさらされておるのじゃ」
わしは日露戦争を思い出した。
あの頃、兄上は海軍軍人として戦い、わしは陸軍軍人として戦っていた。
しかし、十年余りで海戦の姿も大きく変わっていた。
「兄上、海の戦争はこれからどうなるのでしょうな」
「分からん。ただ、潜水艦への対策を考えねば、海上輸送そのものが脅かされるじゃろう」
その年、日本海軍は地中海に艦隊を派遣し、連合国側の輸送船などを護衛する任務に従事していた。
兄上はその活動にも触れた。
「日本から遠く離れた地中海で、我が海軍の将兵が船を守っておる」
「地中海とは…。随分と遠くまで戦争が広がりましたな」
「そうじゃ。日本近海だけを見ておればよい時代ではなくなった」
兄上は少し黙った後、言った。
「蔵之助。わしらが子どもの頃、黒船の話を聞いて驚いたのを覚えておるか?」
「もちろん」
「それが今や、海の下を進む船が戦争をしておる」
わしは苦笑した。
「祖父上が生きておられたら、何とおっしゃるでしょうな」
「きっと、腰を抜かすじゃろうな!」
兄上は大笑いした。わしもつられて笑った。
しかし、その笑いの奥には、戦争が人類の技術を恐ろしい速さで変えていることへの不安があった。
八 世界戦争の終結
大正七年(1918)。世界戦争は、ついに五年目を迎えていた。
欧州では長年の戦闘によって膨大な死傷者が生まれ、多くの都市や村が破壊されていた。
ロシアでは革命が起こり、帝政が崩壊した。
アメリカも前年に参戦し、戦争の行方に大きな影響を与えていた。
わしは日々、戦況報告を読み続けていた。
「これほど長く続くとは…」
当初、欧州の戦争がここまで長期化するとは考えていなかった。
しかし、近代兵器による大量の火力と、各国の大規模な動員は、戦争を容易には終わらせなかったのである。
そして十一月十一日、ドイツが連合国側との休戦協定を結び、戦闘が停止した。
「世界戦争が…終わったか」
わしはその知らせを聞き、静かに目を閉じた。
日本は戦勝国の一つとなった。
青島攻略や海上輸送の護衛など、日本軍もさまざまな形で戦争に参加した。
しかし、わしの胸にあったのは、単純な勝利の喜びだけではなかった。
「これほどの犠牲を払って、ようやく終わったのか…」
わしは報告書を机に置いた。
欧州の戦場では、数えきれぬほどの兵士が命を落とした。
そして、その一人ひとりに家族がいた。
妻がいた者も、子どもがいた者も、帰りを待つ両親がいた者もいたはずである。
わしは、自分の家族を思い浮かべた。
愛海。
修蔵、節子、光蔵、春子。
そして、初孫の義蔵。
彼らの笑顔を再び見られることが、どれほどありがたいことか。
軍人として勝利を喜ぶ気持ちはあった。
しかし、一人の父親として、祖父として、わしは何よりも戦争が終わったことに安堵していた。
九 将官として、父として
世界戦争の終結を迎えた頃、わしは五十四歳になっていた。
ある日の夕方、わしは家族とともに食卓を囲んでいた。
「父上、世界戦争が終わったんだな」
修蔵が言った。
「そうじゃ」
「これで、しばらく平和になるといいな」
「ああ。そう願いたいものじゃ」
節子が尋ねた。
「父上、今回の戦争で一番驚いたことは何?」
わしは少し考えた。
「そうじゃな…。人間の技術が、これほどまでに戦争を変えてしまったことじゃろう」
「飛行機や戦車のこと?」
光蔵が尋ねた。
「それもある。だが、毒ガスや潜水艦もそうじゃ。戦場は陸だけでなく、空にも海中にも広がった」
春子は悲しそうな顔をした。
「そんなに恐ろしいものが増えてしまったのですの…」
「そうじゃな」
「では、これからは戦争をしないようにできませんの?」
わしは春子を見つめた。
「それができれば、どれほどよいことか」
「わたくし、皆様が仲良く暮らせる世の中がよいですわ」
愛海が微笑んだ。
「春子の言う通りね」
わしも頷いた。
「うむ。わしも、そう思う」
すると修蔵が笑った。
「父上も、随分と穏やかになったな」
「何じゃ、昔は違ったというのか?」
「いや、昔から家では優しかったけどさ。最近は義蔵に甘すぎるんだよ」
「孫に甘くて何が悪い!」
「ほら、また始まった!」
家族全員が笑った。
そのとき、幼い義蔵がわしの方へ小さな手を伸ばした。
「おお、義蔵! じいちゃんのところへ来たいのか!」
「父上、食事中だぞ!」
修蔵が呆れたように言った。
「少しくらいよいではないか!」
愛海が笑いながら首を振った。
「あなた、本当に義蔵には敵わないのね」
わしは義蔵を抱きながら、家族の顔を見渡した。
陸軍中将。かつてのわしにとって、それは遠い目標であった。
しかし、今のわしには、それ以上に大切なものがあった。
妻と子どもたち。
孫。
そして、今なお健在の両親と兄上。
世界戦争は終わった。
だが、戦争が人類にもたらした傷は、そう簡単に消えるものではないだろう。
わしは義蔵の小さな手を握った。
「義蔵よ。お前が大きくなる頃には、もっと平和な世の中になっていてほしいのう」
義蔵は無邪気に笑った。
その笑顔を見つめながら、わしは心の中で誓った。
軍人として戦争を知るからこそ、命の尊さを忘れてはならぬ。
そして、子どもたちや孫たちが、安心して未来を歩める世の中を願い続けよう。
江戸に生まれ、明治を生き、大正の世界戦争を陸軍中将として見届けたわし。
その人生は、まだ終わらない。
時代はこれからも、わしの想像を超えて変わり続けるのであった。




