第4話 遺伝子が違う
〇 応接室で畏まっている若い二人の前にお茶が置かれる。
お盆を持ったOL「社長は間もなく参ります(と、一礼して出て行く)」
承子「大丈夫よ、透さん! 父は人を見る目があるから」
透「僕の事、認めてくれるかな?……」
承子「私が保証する!」
ドアが開き、社長が入って来ると透は慌てて立ち上がり、深く一礼する。
社長「掛けたまえ」
透「失礼します」
社長「(承子を睨み)男漁りをさせる為に! お前を狭間さんの所へ預けた訳じゃないぞ!」
透「社長! 僕は浮付いた気持ちで承子さんとお付き合いしている訳ではありません!」
社長「娘をキズモノにしておいてよく言う!!」
透「承子さんには指1本触れてはいません!!」
社長「(承子に)そうなのか?」
承子「はい!」
社長「他の男ともか?」
承子「もちろんです! 私は透さんと結婚したいのです!」
社長「(透に)キミは……我が社の担当である大倉君とは同僚と聞いたが」
透「はい」
社長「彼にキミの事を尋ねたら『誠実な人柄』だと言っていたよ。その通りの様だな」
透「ありがとうございます!」
社長「ならば、娘に対するキミの熱意と誠実さを示してくれ」
透「はい! 喜んで!」
社長「(頷いて)では、娘を預けるに足る力がある事を見せたまえ」
透「何をすれば宜しいでしょうか?」
社長「大倉君を凌ぐ営業成績を上げて見せろ。期間は半年」
承子、思わず椅子から身を起こす。
承子「ちょっと! お父さん!」
社長「(制止しようとする承子には取り合わず)以上だ!」と部屋を出て行く。
部屋に残された二人。透は椅子の上で固まり、震えている。
透「……どうしよう……」
承子「大丈夫よ! 私も全力で協力するから!」
透「(頭を抱えて)アイツの“無双”ぶりは承子も知っているだろう?!」
〇 喫茶店、承子と若き日の大倉が向かい合っている。
大倉「社長……キミのお父さんから、アイツとの事を聞いたよ。キミから今の話が無ければ……婚約おめでとうと言いたいところだがね」
承子「お願い! そこを枉げて教えて欲しいの!」
大倉「仮にオレのノウハウを教えたとしても半年じゃアイツはどうにもできないよ。そんな事はキミにも分かるだろう?」
承子、言葉を失う。
大倉「まあ、手が無いわけじゃない」
承子「(顔を上げて)どうすればいいの? 私も手伝うから! その方法を教えて!」
大倉「いたって簡単だよ! オレの実績をアイツに付けてやればいい。それで効果は倍だ」
承子「本当にいいの?!」
大倉「そりゃ、良く無いよ! オレは社長の信頼を損なうからな」
承子「じゃあ! 何でそんな事を言うの?!」
大倉「キミがアイツと結婚したがっているから」
承子「嫌がらせ?!」
大倉「(頭を振って)応援するよ! 条件によってはね」
大倉、承子の手の上に自分の手をのせ爪を立てる。
大倉「オレ達は半年間、楽しもうよ」
〇 ラブホテルの一室。
枕に顔を埋めている承子。
大倉「指だけでいい声が出るようになったのもオレのトンネル工事のお陰だな。アイツから感謝してもらわなきゃ」
承子「やめて!!」
大倉「ああ、そろそろ指の方は止めてやるよ」
承子「(潤んた目で大倉を睨み)今日は絶対着けてね!」
大倉「どうして?」
承子「あなたが困る事になるから」
大倉「ああ、そういう事か」
と承子に“パッケージ”を破って見せる。
大倉「今日は後ろからがいいな」
〇 突かれるたびに顔を歪ませる承子。
パシュン! とゴムが弾ける音がして薄ピンクの物体が投げ出されるのが見える。
承子「えっ?!」
大倉、承子の肩へ顎を引っ掛け、耳元に囁く。
大倉「お父さんは“オレとの”孫を欲しがっているよ」
次の瞬間、部屋に承子の悲鳴が響き渡った。
〇 激しいノックの音がしてアパートのドアを開けると、髪を振り乱した承子が立っている。
透「どうしたの?」
と、次の瞬間、承子は透に抱き付き押し倒してキスの雨を降らせる。
承子「もう、時間が無いの!!」
透「時間って?……」
承子「分かるでしょ?! このままじゃ私達結婚できない!」
透「僕はまだまだ頑張れるよ! 成果だって出つつある……」
承子「それじゃ間に合わないの!! 今、頑張って!!」
透「今って?!」
承子「揺るぎない既成事実を作るの! だから私を奪って!!」
叫びながら承子は片手で自身のブラウスのボタンを外していった。
〇 オフィス
パソコンに向かっている透の肩を大倉はポン! と叩く。
大倉「また、ネタ振ってやるから付き合えよ」
〇 自販機のある休憩スペース。
缶コーヒーを2本買った透は席に戻り、1本を大倉の前に置く。
大倉「オレは無糖だっつーの!」
透「スマン」
大倉「お前、これも持って帰って飲め!」と席を立ち自販機へ向かう。
大倉「(小銭をチャリンチャリン入れながら)お前、まだガラケーだっけ?」
透「うん」
大倉「ガラケーじゃあ見れねえから、ちょっと待ってな!」
透「攻略法の?(と腰を浮かせる)」
大倉「ガッツくと得意先も逃げるぞ」
透「そうだな(と腰を落とす)」
大倉、缶コーヒーを飲みながら片手でスマホを操作する。
大倉「見せてやるよ。オレが女を“彼女にする”時の攻略法」
透の前にスマホが置かれる。
。。。
<スマホの画面に映された動画>
四つん這いで裸の背中を見せている承子。
その裸の腰やお尻を左手で掴み、自らをぶつけている撮影者。
ぶつけられるたびに叫び、嬌声を上げる承子。
。。。
空の缶コーヒーをカラン! とゴミ箱へ捨て、固まったまま動けないでいる透の前からスマホを取り除いた大倉は透の耳元で囁く。
大倉「お前も頑張れよ」
〇 ホームの際まで人で溢れかえっている駅。
『先ほど起きた人身事故の影響により上下線とも運転を見合わせおります』とのアナウンスと電光掲示板のテロップ
〇 社長室。承子の父(社長)は電話を架けている。
社長「大倉君から話がありましたか。ええ、娘と彼との媒酌はぜひ、狭間さんにお願いしたいと私どもも考えております。なんと言いますか……恥ずかしい話ではありますが『できちゃった婚』です、はい……」
〇 『結婚式』 『出産』 『娘の一連の成長過程』を経た後の……父と娘の会話。
承子「芳人さんったら! 何の相談も無く、ウチに年頃の男の子を住まわせるつもりなんです! 結愛が居るのに!」
社長「芳人くんが考えた事だ! そう目くじらを立てる事もあるまい」
承子「その男の子だって! どこの子か分かりゃしない!」
社長「隠し子とでも言うのかね」
承子「火の無い所に煙は立ちませんわ!」
社長「そういう事も含めて、男の甲斐性と言うんだ」
承子「分かりました! お父さんは芳人さんへ強くは言えませんものね!」
〇 高級住宅街のとある邸宅前で停まるタクシー。
中から独り下りて来た陽星はインターホンを押す。
〇 帰り支度を済ませていた家政婦が対応しようとすると承子が声掛けする。
承子「志乃さんはもういいわ。私が出ます」
〇 出迎えに行った承子は目の前の儚くも美しい少年に息を呑む。
承子「違うわ! この子、誰の遺伝子でも無い……」
向けられた陽星のキラースマイルに何かの疼きを感じ、承子は思わず胸を押さえていた。




