聖夜の計画 イブは学校一の美少女と共に
「おはよう」
「おはようございます」
先にリヴが起き、朝食を用意してくれている。
いつもの朝だ。でも今日は、少し違っていた。
「見てください。雪が降りましたよ」
窓の外を見ると、地面がまだらに白くなっている。
カレンダーは十二月の半ば。
最低気温は氷点下を下回ることが増えた。
寒いと朝起きるのが大変なので、最近は五時半頃からストーブが点火するよう設定してある。
「これから本格的に積もりそうだな」
「クリュスタを思い出します」
リヴの国も、雪国だと言う。
聞いた話では、一年の大半は雪が積もっているらしい。
「おはよう。あら、もしかしてあれは雪?」
「おはようアイリス。お前雪を見るのは初めてか?」
「そうね。ロゼリアは雪が降らないから」
アイリスは物珍しそうに雪を眺めている。
さらにしばらくして、フィアが起きてきた。
「おはようですぅ。あっ、雪が降ってるですぅ!」
三人の中で、一番はしゃいでいる。
いつもは生意気でどうしようもないのに、今日ばかりは微笑ましいと思った。
「もうすぐクリスマスだな」
十二月になり、雪が降るといつも思う。
「クリスマスって何ですか?」
「クリスマスっていうのは昔の偉い人の誕生日なんだけど、日本ではケーキを食べたり、プレゼントをもらったりするお祭りみたいなもんだ」
「ケーキが食べられて、プレゼントが貰えるですか」
フィアが関心を持ったようだ。こういうイベントには目ざとい。
「サンタクロースって言ってな、子供にプレゼントを配ってくれる人がいるんだ」
「素敵な人がいるんですね」
正体は親だけどな。でもリヴたちには教えなくても良いか。
「サンタクロースって、何人もいるの?」
「いや、一人だと思う。トナカイにソリを引かせて、空を飛んで、世界中を回るんだ」
「この世界にも魔法を使える人がいるのね」
アイリスも疑っていない。やばい、少し楽しい。
「じゃあフィアのところにもプレゼントを届けに来るですね」
「サンタがプレゼントを配るのは子供だけだぞ」
「フィアは立派な子供です。プレゼントを受け取る権利があるのです」
こいつ、いつもは子供扱いしたら嫌がるくせに。調子の良いやつだ。
「あたしとリヴがご馳走を作ってあげるわ。ケーキも任せなさい」
「じゃあ、俺はシャンメリーでも買ってくるか」
「フィアがそれを美味しく頂くのですぅ」
クリスマスなんて特に気にしていなかったけど、今年は楽しくなりそうだ。
───
「お前らクリスマスは予定ある?」
「ねーよ。お前は?」
「俺は彼女と過ごすけど」
学校でもクリスマスの話題が始まった。
異性との交流の有無によって格差を争う。
見栄や沽券がぶつかり合うのは見ていてあまり穏やかではない。
「お前らは何プレゼントを貰うんだ?」
そんな会話に、隅田が呑気な声で割って入った。
「お前、まだ親からプレゼント貰ってるのかよ」
「いや、隅田のことだからまだサンタの事信じてるんだろ」
「バカにすんなよ。サンタが親だってことくらい、中三の時には知ってたわ!」
「十分おせーよ!」
隅田がイジられているのを、俺は漆間と少し離れて眺める。
「漆間は彼女と過ごすんだろ」
「いや、俺彼女とは別れたんだよ」
「え、そうなの?」
漆間から振ったのか?
「どちらかと言えば振られたというか……まあ価値観の違いってやつかな」
漆間ほどの男でも振られるとは……。
女と言うものはわからんな。
「漆間で満足できないなんて、贅沢な女だな」
「いや、俺が悪いんだ」
漆間が女を悪く言っているところは見た事が無い。
そんなところも大人っぽく見えてしまう。
「俺があいつの要望に応えられなかったんだ」
「何かあったのか?」
「あいつは女王様になりたかったんだ。でも俺はそれについていけなかったんだ」
「………はい?」
漆間が何を言っているのか俺にはよくわからない。
「この前急に鞭と蝋燭を取り出してな……ずっと我慢してたんだと」
「………」
「俺は痛いのは嫌だって言ったんだが、この鞭はそれほど痛く無いって言うから試しに受けてみると、確かにそれほど痛くなかったんだ」
「………」
「蝋燭もそれほど熱くはなかった。そこまではなんとか受け入れたんだが、豚みたいに鳴けと言われるのは流石に違うなと思ったんだ」
「………」
「その日から気まずくなっちまってな……向こうは今後理想の豚を探すと言い出して、別れることになったんだ」
「………」
俺には高度すぎてよくわからない話だと思った。
確かなのは、やはり漆間は俺よりも大人だと言うことだ。
「ところで、鷹見はどうするんだ?」
「何が?」
「だから、クリスマスの予定だよ」
ああ、そういえばそういう話だったな。
「俺は……家で過ごすよ」
リヴたちのことは言う必要は無いだろう。
「南條の事を誘ってみたらどうだ?」
「えっ!?」
何を言い出すんだ。
南條なら、クリスマスの予定くらいとっくに埋まってるだろう。
「鷹見が誘ったら喜ぶと思うけどな」
修学旅行で仲良くなったとは言え、流石にそこまでの関係では無い。
彼氏はいないと言っていたが、きっと仲の良い友達と一緒に過ごすだろう。
「クリスマス予定ある?」
「えっ?」
なのに、そう声をかけてきたのは南條だった。
男なら誰でも意識させられる、綺麗な顔で。
これは……どう言う意味だ?
「家で、ちょっとな……」
「そうなんだ。あたしも、夜は家族と過ごすんだ」
何だこれ。ただの世間話か?
「でもそれまでは時間あるから……その時、鷹見に付き合って欲しいんだ」
えっ!?
……嘘だろ。これはデートのお誘い!?
あの南條から?
「結衣がさ、漆間のこと好きなんだよね」
(ん?)
「漆間、最近彼女と別れたらしいから。だからクリスマスを一緒に過ごさせてやりたいんだけど、いきなり二人きりだとアレだから、あたしと鷹見も一緒で、まず四人でカラオケでも行こうと思うんだ」
伊藤結衣。南條が仲良くしている女子の一人だ。
そう言うことか。びっくりした。南條からデートに誘われたのかと思った。
まあ、そんなわけないか……。
「そう言うことなら、構わないよ」
「ありがと。当日は結衣のことフォローしてあげたいから、鷹見も協力よろしくね」
「わかった」
手を振って、南條は俺から離れていった。
漆間、本当にモテるんだな……。
……そう言えば、俺の事を好きな子もいるって話だったけど。
でも、告白は受けないって言っちゃったからな。
もう見限って気にしちゃいないかも知れない。
ちょっと勿体無かったかな、なんて。
そんなこと気にしてもしょうがないな。
それより、クリスマスは南條と一緒か……。
そこに特別な意味なんて無い。
それでも、意識してしまうんだ。
俺の役目は、伊藤に協力することだ。変な気を起こすなよ。
蓮が自分を戒めている中、美咲もまた、クリスマスに思いを馳せていた。
「……約束したからね、鷹見」




