夢が現実か プロボクサーに迫る新たな戦いへの誘い
「鹿野さん!」
「おお、鷹見君」
再び姿を見かけたのは、二日後だった。
「見ましたよ。日本チャンピオンだなんて、すごいじゃないですか!」
「チャンピオン? 俺、チャンピオンになったことなんてないよ」
「えっ? でも、日本一位って……」
チャンピオンって意味じゃないのか?
「それは挑戦者のランクなんだ。チャンピオンとは別」
そうなのか。プロボクサーのシステムはよくわからない。
「じゃあ、チャンピオンの次に強かったんですね」
「うーん、どうだろうな。チャンピオンとは戦ったことは無いし……」
「そうなんですか?」
「順位が高いからって、チャンピオンと戦えるかは別なんだ。実際、当時のチャンピオンを破ったのは三位の選手だったからね」
鹿野さんが言うには、ランキングで一位になったからと言ってチャンピオンに挑戦できるとは限らないらしい。
そこには、人気や金、ジムの政治力などが複雑に絡むのだと言う。
だから、鹿野さんは一位まで上り詰めたにも関わらず、チャンピオンに挑む機会は与えられなかったとのことだ。
「何だか、理不尽ですね」
「……仕方ないよ。そういうシステムだからね」
だが鹿野さんの表情は、今でも納得していないように見える。
さて、俺たちの仲間になって欲しいと、何て話すか。
下手な話し方をすれば、頭がおかしいと思われかねない。
「鹿野さんは、勝負事は好きですか?」
「そうだね。勝ったっていうあの感覚がたまんないんだよね」
「戦うのが好きなんですか?」
「そうだね。ボクシングは俺の血を滾らせてくれるんだ」
どうだろう。これ、いけるか?
「……実は、今僕たちは強い人を探しているんです」
リヴが話を切り出した。
「うん?」
「ぜひ、鹿野さんに協力して頂きたくて」
「うーん、俺に協力できることなら」
リヴは俺の顔を見る。そして、話を切り出した。
「実は僕は、王族の人間なんです」
「……?」
鹿野さんはわかってない様子だ。だがリヴは話を続ける。
「僕は今、ある試練に参加しています。それは、他国の王族の人間と競うこと。それが自国の王位を継ぐ条件なんです」
「……リヴちゃんは、アメリカのお姫様ってことかい?」
鹿野さんにも、リヴはアメリカ人ということで通している。
だが、ここからは本当のことを伝えるしかない。
「実はリヴは、アメリカ人じゃありません。ここではない別の世界から来た王女なんです」
鹿野さんは表情を動かさない。固まっているようにも見える。
急に子供が妄想を語りだしたとしか思わないだろう。
俺はリヴと顔を見合わせる。
ここは公園の片隅。周りに人の目はない。
俺たちは、自分の正体を明かした。
淡い光はドレスとなり、そして騎士の装備になる。
鹿野さんの表情がはっきりと変わった。
目を見開き、軽く口を開いて──信じられないものを見た、という顔だ。
「えっ……えっ……?」
「鹿野さん、信じられないのもわかります。でもこれは手品じゃありません。魔法みたいなもんです」
俺たちは、さらに詳しく経緯を話した。
リヴは、試練を戦い抜くためにこちらの世界の人間を騎士として集めていること。
今まで何度も戦いがあったこと。
俺たちには他にも王女の仲間がいること。
そしてこの冬、大きな戦いが待っていることを。
鹿野さんは取り乱すこともなく、静かに話を聞いてくれた。
「……ちょっといいかい」
そして、俺の装備に触れる。
目の前の出来事が現実なのかを確かめるように。
「……オモチャじゃないね、これ」
鹿野さんは深く息を吐く。
そして目を瞑る。目の前の状況を整理しようとしているのだろう。
「リヴ」
俺は呪文を唱えるよう促した。
「フィズラス」
誰もいない茂みに三つの氷柱が突き刺さった。
それを見て鹿野さんは唖然としている。
「正直、理解が追いつかない。夢か? これ……」
そして頭を抱え、悩ましげに言葉を吐き出す。
「混乱させてしまって申し訳ありません。そう感じるのは無理ないと思います」
俺たちは、時間をかけて考えて欲しいと伝えた。
LINEの連絡先を交換してもらい、そしてその日は別れた。
鹿野さん、今夜眠れないなんてことがなければいいが……。
───
次に会えたのは、またも二日後だった。
鹿野さんはあの日見たものをもう一度見たいと言うので、俺たちは姿を変え、呪文も唱えた。
鹿野さんは顎に手を当て、何かを考えるように目を瞑る。
「……本当に、夢じゃ無いんだな」
目の前の魔法が、現実であると飲み込んだようだ。
「それで、俺にも騎士になれってかい?」
「はい。鹿野さんが騎士になってくだされば、こんなに頼もしいことはありません」
「お願いします」
リヴと二人で、頭を下げる。
しばらく沈黙が続いた。
そしてそれを破ったのは、鹿野さんだ。
「……悪いけど、その話は受けられないよ」




