近隣に潜む強者 新たなる仲間は日本チャンプ?
シルエナから連絡が来た。
現在、日本にいる王女達は主に二つの勢力に分かれているらしい。
一つはシルエナ達。彼女の元にはすでに数人の王女が集っているとのこと。
そしてもう一つ、別に複数の王女が連携し対抗勢力を形成しているという。
彼女たちはこの冬に、決着をつけるとのことだ。
だから俺たちにも、協力して欲しいと申し出が来た。
「状況はわかったけど、協力するのはシルエナの方で良いのかしら」
「シルエナさんは、僕たちの力を引き出してくれました。その恩には報いたいです」
アイリスの疑問に、リヴは誠意を理由に答えを出す。
俺たちは、シルエナに協力することに同意した。
冬休みに東京へ渡り、俺たちは戦うことになる。
決戦まで一ヶ月と少し。
俺たちはそれまでに少しでも強くならなくてはならない。
「新しい騎士も見つけないと。当てはあるの?」
アイリスが尋ねる。
俺たちは、京都の戦いで新しく指輪を手に入れた。
誰が手にするか公平にじゃんけんで決め、結果リヴのものとなった。
シルエナと合流するまでには、新たにリヴの騎士を探さなくてはならない。
「やっぱり、近藤の道場から見つけてくるか……」
「うーん、いないこともないけど、誰が良いかな……」
近藤が唸る。
以前難波さんをスカウトしたが、あれほどの逸材は流石に何人もいるものではないらしい。
「難波さん元気か?」
「うん。変わらず道場に通ってくれてるよ」
とりあえず、近藤の方で候補を考えてくれることになった。
俺たちも、各々が強くならなくてはならない。
そのために今やれることを続けるだけだ。
───
「はっ、はっ」
俺とリヴは日課となっているジョギングを行う。
寒さが頬を刺しながらも、体はじんわりと熱を帯びる。
土手を走り、休憩として公園に寄るのがいつものコースだ。
「じゃあ休んで行くか」
「はい」
並んでベンチに腰掛け、ペットボトルのお茶を口にする。
疲労感はあるが、不快ではない。むしろ充実感さえあった。
「やあ、鷹見君」
「こんにちは、鹿野さん」
話しかけてきたのは、同じくジョギングを行っている鹿野真司さんだ。
歳はおそらく四十くらいだろうか。
今まで何度もすれ違い、休憩時間を共にし、今ではジョギング仲間としてすっかり話し相手となっていた。
「すっかり寒くなってきたね」
「本当ですね」
現在は十一月の末。札幌の気温は五℃。
しっかり着込んで汗の対策もしなければ風邪を引いてしまう。
札幌ではいつ雪が降ってもおかしくない時期だ。
「そう言えば修学旅行だったんだよね。楽しかったかい?」
「ええ、楽しかったです」
そんな、取り止めのない雑談を行う。
鹿野さんは、優しい。
俺は聞かれれば、この人には何でも話してしまいそうになる。
両親と離れて暮らす俺にとって、勝手に父親像を重ねてしまっているのかも知れない。
「ゴミをポイ捨てしちゃダメなんだよ!」
公園に幼い子供の声が響く。
声をする方を向くと、五十代と見えるおっさんに、四、五歳くらいの男の子が注意をしたようだ。
「何だぁ? 生意気なガキだな」
おっさんは子供を無視してその場を去ろうとする。
「ゴミはそのままにしちゃ、ダメーっ!」
子供は食い下がるように呼びかける。
それが気に入らなかったのか、おっさんは子供へと近づいていった。
慌てて、母親らしき女性が子供に駆け寄って行く。
「躾のなってないガキだな」
「す、すみません」
トラブルを避けるため、母親は謝る。
「何で謝るの? 悪いのはおじさんだよ!」
しかし子供は引かない。
幼い彼に自分が置かれている状況など、わかるはずもない。
これはまずい。
子供を守るために、俺が割って入るか。
だが俺より先に動いたのは、鹿野さんだった。
「そうだな、悪いのはゴミをポイ捨てした方だよなあ」
子供のそばに寄り、優しく声をかける。
そして、おっさんを厳しく睨みつけた。
「な、何だよお前」
「子供の言うとおりだ。ゴミをポイ捨てしたなら拾え」
鹿野さんの言葉には凄みがある。
おっさんはたじろいでいる様子だが、後に引けなくなったのか、なんと鹿野さんに向けて拳を振り上げた。
危ない──! 俺がそう叫びかけた瞬間。
拳を顔面前に寸止めされていたのは、おっさんの方だった。
鹿野さんは軽やかなフットワークでおっさんの攻撃をかわし、自身の拳を繰り出したのだ。
「もう一度言うぞ。拾え」
鹿野さんの迫力に逆らえなくなったおっさんは、地面からタバコの吸い殻を拾い、ポケットにしまい込んだ。
そして逃げるようにその場から立ち去っていった。
「あ、ありがとうございました」
母親が礼を言う。
子供は何が起きたのかよくわかっていない様子だ。
そんな彼に、鹿野さんは優しく話しかけた。
「ボク、ポイ捨てを指摘できて偉かったね。でもこれからは先にママに伝えたほうがいいぞ」
子供の正義感を誉めつつ、今後のトラブルを避けるためのフォローまで完璧だ。
再度母親の礼を受け、鹿野さんは俺たちのそばへ戻ってきた。
「鹿野さん、かっこよかったです」
「いやいや、恥ずかしい」
照れるその姿は、先ほどの真剣な目をした時とはまるで別人だ。
でもあの動きは、明らかに素人のものではなかった。
「鹿野さん、何か格闘技をやっていたんですか?」
「こう見えても、昔はプロボクサーだったんだよ」
「ええっ!?」
どうりであの動き、只者ではないはずだ。
「プロと言っても、ボクシングで食えた訳でも無く、大した結果も残せなかったけどね……」
「いや、それでもすごいですよ。まさかプロだったなんて……」
プロボクサーは世界チャンピオンでもなければ収入面は厳しいと聞いたことがある。
だとしても、かなりの実力者であることは間違いない。
「今も配送業と兼業で、ジムでトレーナーをやらせてもらってるんだ。引退しても、ボクシングは捨てられなくてね……」
そう言う鹿野さんは、どこか寂しそうな顔をしていた。
───
その日の夜、俺は鹿野さんについて調べてみた。
鹿野真司、プロボクサー……と。
出てきたのは、元ライト級日本一位の文字。
日本一位って……要するにチャンピオンってことか。
めちゃくちゃすごいじゃないかこれ!
俺はリヴたちにも鹿野さんの経歴を伝えた。
「すごいですね」
「そんなに強いやつが近くにいるですか?」
俺は以前ボクシングを操った騎士とも戦ったことがある。
あの時は軽やかな動きに翻弄され、苦戦させられた。
もし鹿野さんが騎士になってくれるなら、強大な戦力になってくれるに違いない。
「ただ、大人だからな……忙しいだろうし」
「どんなに強い人でも、戦って欲しいとお願いするのは酷だと思いますよ」
「何よリヴ。いらないなら私に指輪を渡しなさい。あたしを見れば男なら誰だって忠誠を誓うわ」
アイリスを諌めて、俺はリヴに決意を求める。
「お前が勝ちたいなら鹿野さんに協力を頼んでみるべきだ。断られたらその時さ」
「……そうですね。一度聞いてみましょう」
その言葉を聞いて、リヴも決心が固まったようだ。
果たして鹿野さんは俺たちの仲間になってくれるのだろうか。
「……って言うか俺、鹿野さんの連絡先なんて知らないんだよ」
あくまで鹿野さんはただのジョギング仲間。
会うためにはジョギングコースを回って、また会える偶然を待つしかない。
おそらく数日以内には、また会えるだろう。




