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少年少女の恋話 胸を騒がせるものは何だ

 昼食を終えた蓮達は、かつて天皇が住まう場所であった京都御所を訪れていた。


 高く積まれた築地塀が、外界との境界をくっきり描き出す。

 そこに広がるのは、喧騒とは無縁の荘厳な空気だった。


 整えられた敷地は広大で、踏みしめるたびに砂利の擦れる音が耳をくすぐる。

 点在する松の木は、歳月を刻んだ気品を感じさせる。


 一際目を惹くのは、正面に鎮座する紫宸殿(ししんでん)

 朱塗りの柱と白壁、そして漆黒の屋根瓦。


 堂々たる構えは、かつてここが日本の中心であったことを静かに語りかけてくる。


「すげー(おごそ)かじゃね?」


「マジ厳か」


 そんな格式高い世界も、年頃の若者にかかってはいささか軽く聞こえてしまうのは仕方ないだろう。


「あっちも厳かじゃね?」


 いつの間にかグループ内で始まっていた流行語を口にし、御所内を見て回る。


 あまりにもここは広い。

 一周するのに何分かかるのだろうか。


「無理にみんなで回らなくても、好きに回れば良くね?」


「そうだな。じゃあ一時間後に入口に戻ってこよう」


 こうして、俺たちはそれぞれが自由に回ることにした。


 最初は何となく周りと固まっていたが、気がつけば俺は一人で回っていた。


 女子と一緒にいるのも楽しい。

 だが同時に、どうしても疲れるのだ。


 そんな空気から少し解放されたかったのかも知れない。

 俺はどんどん奥へと進んでいった。


「すごいねここ。まるで時代劇のセットみたい」


 後ろからかかった声に振り返ると、そこにいたのは南條だった。

 さっきまで女子で固まっていたようだったが、一人でここまで来たのか。


「昔のものが今の時代に残ってるって、なんだか感動するな」


「あたし、正直神社とかお寺見ても何が楽しいの? って思ってたけど、実際に目で見ると違うなーって思うわ」


「そうだな。違うよな」


 そこで、会話は途切れる。

 いや、無理に話す必要は無いはずだが、俺がなんだか意識してしまうだけなのだ。


「……鷹見って、本当にあの子と付き合ってないの?」


 静寂を破ったのは南條だった。

 あの子とは、アイリスのことか。


「何度も言ってるけど、付き合ってないよ」


「じゃあ千早とは?」


「そっちも、付き合ってないって」


 こいつらときたら、本当にこの手の話が好きなんだな。


「なんで付き合わないの? 付き合いたくないの?」


 なんで。そう言われても。

 仮に俺が付き合いたいと言っても、付き合えると言うものでもないだろう。


「じゃあ、どういう子が好きなの?」


「……優しい子、かな」


 言葉を選んで、無難な返事をした。

 お返しというわけでもないが、彼女にも同じ質問をする。


「南條はどういう男が好きなんだ?」


「あたしは……頼りになる人が……好きかな……」


 頼りになる、ね。

 南條のそれはハードルが高そうと思ってしまうのは偏見だろうか。

 まあ、今付き合っている男がそういう人なのだろう。


「あたしは、付き合ってる人はいない……っていうか、付き合ったこと無いよ」


「えっ!?」


 思わず大きな声が出た。


 だって意外過ぎたから。

 南條のことだから、イケメンの彼氏がいるものだとばかり。


「何それ。鷹見から見て、あたしってモテそう?」


「ああ、モテそう」


 南條がモテなかったら、この世にモテる女はいない。


「それって、あたしが可愛いってこと?」


「……そうだな」


 南條が喜んでいる。

 可愛いなんて言われ慣れているだろうに。


「ありがと。鷹見も……カッコいいよ」


 美少女にそう言われると、お世辞とわかっていても顔が熱くなる。


「……ねえ、鷹見」


「何だ?」


「……好きな子は、いないの?」


「……いないよ」


「じゃあ、鷹見のことが好きって子がいたら、付き合う?」


「……考えさせてはもらうよ」


 そんな酔狂な女は、そういないとは思うが。


「……あたし、鷹見のことが好きって言ってる子、知ってるよ」


「えっ!?」


 その言葉に俺は一瞬頭が真っ白になる。


 本当に?誰だそれは。


 南條の友達?

 俺のクラスメイト?


 いや、ただ俺をからかおうとしてるだけなんじゃ……。


「知りたい……?」


 そんなふうに言われたら……知りた……。


「………!」


 その時だった。

 俺の心がざわめく。


 なんだ?

 俺は興奮している?


 いや違う。


(……指輪だ……!)


 これから伝わってくるんだ。

 このままだと取り返しのつかない何かが起こりそうな不安。


(あいつらが、ピンチなんだ)


 リヴが、アイリスが、おそらくフィアも襲われている。


「南條、ごめん!」


「えっ、鷹見?」


 俺は彼女に背を向けて、駆け出した。


 指輪が伝えてくれる、あいつらの居場所を。

 間に合え!

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