古都の探検 金の楼閣と忍び寄る脅威
俺たちはバスを降り、さらに歩く。
そこかしこに植えられた松の木が、駅の周囲では感じられなかった古都の雰囲気を伝えてくる。
「着いたぞー」
鹿苑寺金閣寺。
大きな木の柱に、そう刻み込まれている。
その先はしばらく参道が続く。
両脇の苔むした石垣と、茂る生け垣が、いかにもな雰囲気を漂わせている。
やがて木造の山門が見えてくる。
重厚な造りのそれをくぐった先には、一面の湖。
そして、黄金の楼閣が姿を現した。
「金閣寺だ! すげぇ!」
若者の雑な語彙力では表せない荘厳さ。
池の水面には逆さに映り込み、揺れる水面が輪郭をわずかに歪ませている。
まるで絵の中に入り込んだような、調和のとれた見事な景色がそこにはあった。
「あれを見ると京都に来たーって感じするな」
漆間の言葉に皆が頷く。
陽を反射して輝くその姿に、目を奪われる。
だが俺は、いや俺たちは、他にも思わず意識してしまう存在があった。
突如同行を申し出た女子グループ。
そしてその中にいる、南條美咲という美少女。
大きな瞳に整った鼻筋。
均整の取れた輪郭。
濃いメイクは好みではないが、彼女はギャルっぽい化粧もばっちり似合っている。
その姿は、年頃の男子であれば誰もが見惚れてしまう。
しかし、何で急に俺たちと一緒に行こうなどと思ったのか。
漆間が目的か?
──南條って、鷹見のこと好きらしいよ。
昨夜の出来事が思い出される。
まさか……いや、そんなわけがない。
顔を引き締めなければ。
またからかわれるのはごめんだ。
「みんなで写真撮ろーよ」
一人の女子の呼びかけで、俺たちは金閣寺をバックに一塊を作る。
「鷹見くんは、もっとこっち!」
男子は男子、女子は女子で固まるのだが、俺は女子の誘導に応じると集団の中央へ移動していた。
隣にいるのは、南條美咲。肩が触れ合うほど距離が近い。
香水か石鹸かわからないが、男には出せない良い匂いがした。
一瞬目が合ったが、恥ずかしくなって目を逸らす。
胸の奥が落ち着かない。
「みんな笑ってー。行くよー」
撮影をするのも、南條。
自撮り棒に備えられたスマホが、撮影の連写音を鳴らす。
俺はその間、慣れない作り笑いをしながら無難にピースサインをした。
「じゃあ送るねー」
送られてきた写真を見ると、やはり俺の笑顔はぎこちない。
漆間と女子たちは慣れているのか、絵になっているなと感心した。
「じゃあ、もっと近くまで行こうか」
順路をたどり、住職が住まう場所という方丈の側へ。
金閣寺と対照的に、派手さはないが、白壁と木の質感が調和した静謐な雰囲気がある。
さらに進むと、金閣寺のすぐそばまで来ることができた。
再度、全員で固まり写真を撮る。
その後は、銀河泉、厳下水、龍門の滝と、水に関わる名所が続く。
石の階段を進み、安民沢という池を過ぎると、柵の向こう側で地面に無数の小銭が散らばっている。
「あの中にお金が入ると願いが叶うんだってよ」
小銭の中央にはお椀が鎮座している。
柵からの距離は三〜四メートルほどだろうか。
俺たちは全員で小銭を投げつけるが、そのほとんどは外れてしまう。
「おっ、入った」
結局、上手く入れられたのは俺と南條だけだった。
せっかくなので、手を合わせて願掛けをすることにする。
──あいつらと、長く一緒にいられますように。
「鷹見、何てお願いしたの?」
「……みんなと仲良くできますように、かな」
「……そうなんだ。あたしと同じだね」
俺は少し誤魔化して答えてしまったことに、軽く心が痛んだ。
「おい、もう行くぞ」
漆間が小銭を投げ続ける隅田をたしなめ、俺たちはさらに奥へ。
茶席やお堂を過ぎると、出口付近で土産屋が賑わっている。
時刻は昼に近づいていた。
「昼どうする?」
「せっかくだから京都っぽいもの食べたいよね」
「俺は回転寿司が良い」
話し合いの末、ニシンそばを食べに行くことになった。
「俺は回転寿司が食べたい!」
すがる隅田を無視して、俺たちは昼食を摂るために移動を開始した。
───
「これ美味しいですぅ」
リヴたちも昼食を口にしていた。
というより、半分はおやつみたいなものだが。
豆腐を平らげたあと、同じ店で出てくる豆乳スイーツに舌鼓を打つ。
金閣寺までは後ろから蓮について行ったのだが、流石に昼食まで蓮に同行するわけにもいかない。
リヴたちにも京の街を楽しんでほしい。
そんな蓮の思いもあり、彼女たちは必ずしも蓮や千早と共に行動するとは決めていなかった。
金閣寺こそフィアの希望で最初に訪れたが、その後の行動はまだ未定であった。
「京都、か。北海道とは随分雰囲気が違うわね」
古びた、というより伝統的と言うべきなのだろう。
そんな木造の建物が隙間なく立ち並び、石畳の続く路地を形成している。
瓦の下端は一直線に見えるよう加工されており、軒先のラインが整うことで視覚的な秩序を生み、美しい景観を作り出している。
「素敵なところですね。街並みに品を感じます」
「でも火事になったらえらいことになりそうですぅ」
「……これを見て言うことがそれ? あんたにはまだこういうものを楽しむのは早いのかしら」
アイリスは呆れている。
「バカにするなです。フィアだって、わびさびくらいわかるのです」
「……何よそれ」
「わびさびは……あれです。情緒があって、雰囲気があって……そういうやつですぅ」
「本当に? あんた覚えた言葉を適当に使ってない?」
そんな取り留めのないやり取りを続け、この後はどこへ行こうかと考えた。
楽しい。
こんな風に平和に、今日一日が終わってくれれば──
「京都は初めてですか? 楽しそうですね」
一瞬で緊張が走る。
そこにいたのは、青く長い髪をたなびかせ、まるでこちらを慈しむかのように笑みを崩さない美しき女性。
直感する。
彼女は王女だと。
「お前、いつからそこにいたですか!?」
(こんなに近づかれるまで、気づかなかった)
それだけ警戒を怠っていた?
いや、よく見ると目の前の女性はネックレスをしていない。
「初めまして。私はヴァルオルネ国の王女、セレーネと申します。そちらは三人ですか。こちら一人ですが構いません。クイーンズクレストを始めましょう」
「……あなたはネックレスをしていないようですが?」
「ご心配なく、騎士に預けてあります」
ふと気づく。
ネックレスの気配が近づいてくることに。
彼女の背後から迫るのは、三人の男性。
まるで劣勢も構わないような口ぶりだが、不利なのはこちらだ。
騎士のいない王女など、確実に狩れる。
そう確信して、彼女はこちらを逃さないために気配を消し、戦いを仕掛けてきたのだ──。




