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修学旅行へ 王女たちは北の大地から旅立つ

 週明けの学校。

 教室のドアを開けると、その中の多くの視線は蓮に注がれた。


 それは面白がっているような目もあれば、気に入らない者を見る目もある。


 自分の席に腰を落とすと、一人の男子生徒がスマホを片手に話しかけて来た。


「鷹見。お前、クラス中で話題だぜ」


「なんだよそれ」


「ほら」


 同級生が見せてきたのは、蓮がゲーセンでアイリスと並んで写っている画像。


【速報】鷹見、超美少女の彼女がいることが判明

 と、LINEで共有されているようだ。


(あいつら、マジでやりやがった)


 先日予告されたように、本当にアイリスと付き合っていると広められてしまったようだ。


「お前どこでこんな美少女と知り合った? マジで付き合ってんのか」


「別にそんな関係じゃねーって」


「ただの友達だって言うのかよ?」


「その子も、近藤の道場に通う外国人の子供なんだよ」


「マジか……俺もそこに通おうかな」


 近藤の道場が、外国の美少女と知り合うための場所になりつつある。

 近々入門者が増えるかもしれない。


「鷹見くん、めちゃくちゃ可愛い彼女ができたんだって?」


「だから、違うんだ……」


 女子からもしばらく追及を受けた。

 遅れてやってきた近藤がとりなしてくれたおかげで、一応は収まりを見せた。


 だがそのやり取りを、一人の少女が切ない眼差しで見つめていたことを、蓮は知らなかった。


───


「美咲、また振ったの? これで何度目なん?」


 南條美咲はモテる。


 他の追随を許さないその美貌に、誰とでも打ち解ける明るい性格。

 彼女の伝説は小学校の時から始まっており、今まで告白された数は五十に届こうとしている。


 だが彼女は一度たりともそれを受け入れたことはなかった。


 相手をそのような目で見れないのもあるが、何より幼い弟と妹の面倒でそんな暇はないと考えていたからだ。

 だから断る時も、兄妹を理由に全て断ってきた。


 それでも、自分に自信を持つ男子からのアプローチは後を絶たない。

 今回は、テニス部のエースが犠牲となった。


「美咲、彼氏欲しくないの? 家族のこともわかるけど、青春したいじゃん?」


 美咲だって、本心では彼氏が欲しい。

 今では弟たちの存在は、申し訳ないが断る口実になっているところが大きいのだ。


 だが、美咲のお眼鏡にかなう相手がいなかったのも事実。

 生半可な男では、美咲に言い寄ることさえ憚られる。

 それゆえか、告白してくるのは自信過剰で鼻持ちならない相手ばかりであった。


「……あたしだって……本当は彼氏……欲しい……」


 美咲の言葉に、取り巻きの女子たちが色めき立った。


「じゃあ北大の人集めて合コンでもしよっか?」


「そういうのは、いいかな……」


「うーん、もしかして好きな人いるの?」


 美咲は無言で、恥ずかしそうに頷いた。

 それを見て、再度女子たちは沸いた。


「えー、誰々? 美咲の好きな人って?」


 今まで誰も落とせなかった鉄壁の美少女が、想いを寄せている相手がいる。

 興味を惹くのは当然だった。


「……笑わない?」


「笑わないって。大丈夫、ちゃんと応援するよ」


「あたしが、好きなのは──」


───


 今日は修学旅行の班決めの日。

 俺は普段からよく話す隅田や漆間たちと同じ班に加わった。

 その流れで、自由行動の際にどこに行きたいかも話し合う。


「やっぱり金閣寺は見たいよな」


「ニンテンドーワールドに行きたい」


 北海道の人間が本州の観光地に触れる機会なんてそうない。

 むしろ生まれて初めてという者がほとんどである。


 俺たちは初日に広島に行く。

 その後二日目、三日目はそれぞれ京都、大阪で自由行動だ。


「……俺、この修学旅行で告白しようと思うんだ」


 隅田が唐突に宣言してきた。


「ふーん、誰にだよ」


「土田だ」


 土田文香。

 自己主張をあまりせず、休み時間はよく本を読んでいる。

 クラスではあまり目立たない存在だが、お淑やかで女の子らしいとは思う。


「お前あの子のことが好きだったのか」


「ああ。小学生の頃から一緒なんだ」


(そりゃずいぶん長いな)


 まあ、上手くいくといいな。

 単純に、そう思った。


 この時は、あんな悲劇が待ち構えているなど知らずに……。


───


「……というわけで、明日から修学旅行だ。お前たちは俺と同じ飛行機とホテルを取ってあるから、一緒に来い」


「USJ楽しみですぅ」


「京都。この国の歴史を感じるのに丁度いいわね」


「広島で戦争の悲惨さを学ぶのは大切ですね」


 リヴたちも思い思いに旅行を楽しみにしているようだ。


「俺はお前たちのそばにいられないからな。迷子になるなよ」


「子供扱いしないでちょうだい」


 アイリスが即座に言い返す。


 まあ道に迷うくらいならどうとでもなるだろう。

 飛行機の時間にだけ遅れなければいい。


「俺は朝学校に集合して、その後空港に向かう。お前たちはその必要はないから、直接空港に行け」


 俺たちは旅行中の日程を確認した後、床に就いた。

 フィアは興奮してなかなか眠れなかったらしい。


───


 翌日。

 まずは北海道を発つために、バスで新千歳空港に向かう。

 一度教室に集められた俺たちは、そこから校庭へと移動する。


「土田、ちょっと話があるんだ」


 隅田が土田を教室内に呼び止める。


 そういやあいつ、修学旅行中に土田に告白したいって言ってたな。

 あらかじめ何か話しておきたいのか?


(それともここで告白するわけじゃないだろうな。まさかな)


 俺は漆間と共に、教室に二人きりとなった隅田たちを見守る。

 急がないと集合に遅れちまうぞ。


「俺と付き合ってください!」


(ええーっ!?)


 そのまさかだった。


 このタイミングで告白するか? 普通!?

 こういうのってもっと修学旅行の終盤で、雰囲気とか見てするもんじゃないの?


(いやでも初日に上手くいけば、後は仲良く一緒に回れるかもしれないしな)


 それに、勝算があるから告白したんだろ?

 そうだろ隅田?


「えっと……ごめんなさい」


 俺の期待も虚しく、隅田はあっさり振られた。


「えっ……何で!?」


「何でって……私、隅田くんとほとんど話したことないし……」


「…………」


(…………)


 隅田も、俺も、言葉が出ない。


「……えっと、それじゃあ私行くね。隅田くんもバス遅れちゃうよ?」


 そう言って土田は教室を後にしていった。

 教室内には、呆然とする隅田だけが取り残された。


───


「……何で隅田泣いてんの?」


「さあ?」


 雲の上を行く飛行機の中。

 俺の隣で隅田が顔を伏せて泣き続け、注目を集めている。


「ひっ……ひっ……ひぐっ……」


「……まあ、元気出せよ隅田」


 楽しい修学旅行のはずが、隣のこいつのせいでとてもそんな気分になれない。


 つーか何であんなタイミングで告白するんだよ……。

 俺、このままこいつに気を遣って過ごさなきゃいけないの?

 三泊あるんだけど……。


「まああのタイミングで告白はないよね。常識で考えて」


 漆間は容赦なく隅田を切り捨てる。


「ひぐーっ!」


 そして隅田の嗚咽が一際大きくなる。

 マジでうるさい。


「ていうか、何で上手くいくと思ったの? 話したことないとか言われてたじゃん」


 小学生の頃から知ってるっていうから、てっきりもっと関係があるものかと思うだろ。


「土田なら……大人しいから……押せば何とかなるかと思って……」


「…………」


 こいつ、最悪だな。


「……でも、土田のことが好きだったんだもんな。どういうところに惹かれたんだ?」


「ひぐっ……小一の頃……同じクラスになって……」


「うんうん」


「屈んだ時に、スカートの中が……ちらっと見えて……それから意識するように……」


「…………」


 なんて言えばいいんだ。


 いや、女子のそういうとこが見えちゃって意識しちゃうっていうのはわかるよ?

 それでも、それだけだとしたらあまりにも浅いだろう!


「それがきっかけで土田のことを意識したのか。でもその後も色々あったんだろう?」


 漆間が話を掘り下げてフォローを入れようとする。


「ううん……それからは特に何も……」


 ないんかい!


 ていうか、小一でそれって!

 性の目覚めが早すぎる!


 どうしよう。これから隅田の事を見る目が変わってしまいそうだ。


「まあ、元気出せよ。これから楽しい修学旅行だぜ?」


 全く先が思いやられる。


 この先の旅路、これ以上トラブルがなければ良いが……。




「あいつ、何やってるのよ」


 飛行機の一角で、アイリスが蓮の様子を窺っている。

 隅田の嗚咽は、離れて座る彼女達にも伝わっていた。


「お友達を慰めてるみたいですね。蓮さんは優しいや」


 蓮たちのやり取りまでは流石に聞こえる距離ではなかった。


「マジで空を飛んでやがるです。すごいですぅ」


 フィアは端の席から雲を上から眺めてご機嫌である。


「今からはしゃぐと保たないわよ。四日もあるんだから」


 こうして蓮とリヴたちは北海道を飛び立った。

 この後、巻き込まれる戦闘のことなど、知る由もなく。

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