贈り物が紡ぐ二人の絆
「ねえ、あれは何?」
次にアイリスが気にしたのは、箱型の機械。
表面はモデルのような若い女性の写真で彩られている。
「あれはプリクラだな。写真を撮る機械だ」
「写真? それくらいスマホで撮れるじゃない」
「俺もそれで十分だと思うけどな……色々と機能がついていて、女子には人気があるみたいだな」
蓮には、プリクラで盛り上がれる連中の気持ちはあまりわからない。
「ふーん、あたしたちも一枚撮っていきましょうか」
「えっ……マジかよ」
「あら、嫌なの?」
「そういうわけじゃないけど……」
蓮はプリクラは初めてでは無い。
それこそ女子と一緒に撮ったこともあるのだが、そこで行われるノリはまさしく女子特有のものといった感じで、蓮にとっては苦手とするものだった。
女子と一緒に撮る、というシチュエーションは、確かに嬉しくもあるのだが……。
(まあアイリスは初めてだし……あんなふうにはならないか?)
二人はカーテンをくぐり、機械の中へ足を踏み入れる。
四方の壁は真っ白だ。そこはまさに小さな撮影スタジオ。
モニターと音声が、どのような写真を撮りたいのかを確認してくる。
「どうすれば良いの?」
「普通で良いだろ」
「でも色々あるみたいよ。せっかくだから試してみようかしら」
俺は彼女に口を挟まず、好きにさせることにした。
アイリスは、慣れないながらも楽しそうに液晶を操作していく。
「3、2、1」
カシャッ!
出来上がったのは、肌が白く目が大きい不自然な写真。
まるでエイリアンみたいだ。
「あんた、なかなか男前になったわね」
「……本気でそう思ってんのか?」
やっぱり、女子の感覚はよくわからない。
アイリスだって、加工していない方が絶対に可愛いのに。
最後にペンで「アイリス様と下僕」と書かれて写真は出来上がった。
こんなもの、誰にも見せられない……。
「この写真、リヴたちには見せないでくれよ」
「それじゃあ、これは二人だけの秘密ね。大事にしなさいよ」
アイリスは満足したらしい。
それならまあ、良かった。
───
ゲーセンを終えた後も、再度百貨店へと移動したが、結局ウインドウショッピングで終わった。
時刻はそろそろ夕方になろうとしている。
「そろそろ疲れたわね。もう帰りましょうか」
「お前、結局何も買ってねーじゃねーか。俺は荷物持ちとして呼ばれたんだろ?」
「……別にいいじゃない」
「俺はお前の気まぐれに連れ出されただけか?」
「……もしかして、迷惑だった? 楽しくなかった?」
「そんなこと、ないけど……」
(……言えるわけないじゃない)
今日あんたを連れ出したのは、ただ二人で過ごしたかったから、なんて。
あの女が言っていた。
あたし達の力は、互いの信頼関係でできてるって。
わかってるわよ。
リヴとあんたの間に強い絆があることくらい。
でも、あたしだってあんたのことを信じてる。
あんたがあたしを、クイーンズクレストの高みへと連れていってくれるって。
だけどあんたの装備は、リヴのものと比べてあたしのものは劣っている。
あたしの気持ちは、リヴのものより劣っているって言うの?
そんなつもりなんてないのに。
……それに、あんたはまだあたしの事を信頼してはいないんでしょ?
だから、あんたをあたしに夢中にさせたかった。
リヴよりも、あたしのほうが魅力的なんだって認めさせたかった。
……でもダメね。
あたしはリヴみたいに素直になれない。
リヴはとってもいい子だもの。
あんたから信頼されて当たり前だわ。
(あーあ、今日一日こいつを振り回して、悪いことしちゃったわね)
「それじゃ、帰りましょ」
「アイリス、これ……」
蓮が差し出したのは、手のひらに収まる程度の紙袋だ。
「何これ?」
「プレゼントだ」
「……!?」
「お前が化粧を直していた間に、買ってあったんだ」
家路に着こうとした矢先に、まさかのサプライズ。
こいつが、あたしにそんなものを用意するなんて。
「……開けてみてもいい?」
「ああ」
中から出てきたのは、薔薇のような意匠が施されたヘアピンだった。
「……どうして、あたしにこれを?」
「お前、髪長いからな。戦う時に目にかかったら困るだろ」
「……へえ。あんたにそんな気遣いができたのね」
「……シルエナが言ってたろ。王女と騎士の間には信頼関係が必要なんだって」
「……!」
こいつも、あたしと同じことを気にしていたの?
「俺はお前を信じたいし、お前にも俺を信じて欲しい。そう思って何かしたいと思ったんだけど、何をしたらいいかわからないし……」
「それで、プレゼントってわけ?」
「安物だけどな。気に入らなかったか?」
こいつも、あたしと同じように悩んでいた。
あたしとの関係を深めたいと思っていてくれていたんだ。
「……そんなわけないでしょ。ありがと」
素直に、そう口に出すことができた。
「俺はまだ、お前のことをよく知らない……だから、教えてくれよ。お前のこと」
「……しょうがないわね。あんたがあたしの騎士として相応しくなるように、色々教えてあげる。ちゃんとついてきなさいよ」
「……お手柔らかに頼むよ」
あたし達の関係には、まだ足りないものがあるのかも知れない。
でも、それならこれから埋めていけばいいんだ。
それがあたし達にはできる。
ちゃんと、二人とも同じ方向を向いているんだから。
───
「ただいま」
「帰ってきたですか。それを買いに行っていたですか?」
フィアが目にしたのは、蓮が袋に入れて持ち帰ったぬいぐるみ。
しかしリヴは、アイリスに出発前と変化があることに気がついた。
「アイリスさん、そのヘアピン良いですね。それを買いに行ってたんですか?」
「……まあね。さあて、夕飯の支度を始めようかしら」
アイリスは台所に入って、鼻歌まじりに作業を開始する。
「お前、随分機嫌が良いですね。何か良いことあったですか?」
「……別に、なんでもないわよっ」




