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問われるのは女王の資質

「あら、素直ね。それが何を意味するかわかっているのかしら」


 リヴの様子を見て、愚かしそうにクリミアは笑う。


「僕にはわからない……違う世界の人達を巻き込んで……こんな戦い、何の意味があるんだ……」


(違う世界……?)


 まるで自分達はこの世界の住人ではないかのように。だが、彼女達が異質な存在であることは火を見るより明らかだ。


「意味、ね」

 

クリミアが呆れたように笑う。


「意味ならあるわ。この戦い、問われているのは女王としての資質そのものよ」


(女王の資質……?)


 リヴは、クリュスタという国の王女だと言っていた。そして昨日戦った相手は、別の国の王女を名乗っていた。


 おそらく目の前にいるこいつも、二人とはまた別の国の王女。

 

そして女王とは、つまり国を治める人間。リヴ達は、その資質を試されている?


「これは私達が王位を継ぐために課せられた試練。五十年に一度、選ばれた王女が異世界に赴き、最後の一人になるまで戦い続ける。それに参加した者が、次に自国の五十年を治める女王となる」


 リヴとこの女は、自国の王位を継ぐことは決まっているという事か?

 

 そしてこの戦いは、その為に課せられた試練。彼女達は、その為に俺達の世界に来た?


「この戦い、戦争ではないわ。負けても脱落するだけで何のペナルティもない。でも……世界は見ている。次の女王が武と智に長けた英雄か、無様に敗退した暗君なのかを」


 クリミアは言葉を続ける。


「異世界で優秀な騎士を従え、勝利のために戦い抜く。それは女王としての資質そのものよ。それができない女が統べる国など、五十年と待たずに滅びるわ」


 紅い瞳が、嘲るようにリヴを見つめる。


「例えば……たかが一人の騎士を庇うために自らを差し出す女王などに、何が守れるというのかしら」


 リヴは心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けた。


 この戦い、決して遊びではない。国の威信をかけた外交なのだ。早々と負ければ、次代の女王は無能と言っているようなもの。この先の五十年、世界に舐められ翻弄され続けるだろう。


「リヴ……」


 リヴは力無く自分を見つめる蓮を前に、迷っていた。自分の肩には多くの国民の期待がかかっている。簡単に敗退するわけにはいかないのだ。


 目を瞑り、自分が背負う責務を確かめる。


 そしてリヴは──


 ──一度は引っ込めた宝玉を、再びクリミアに向かって差し出した。


「……ぷっ、あっはっはっは!」


 クリミアが、愚か者を見るように高らかに笑う。


「それが、女王としてのあなたの答え?」


 リヴはその行動の重さをわかっていないわけではない。自分の肩にのしかかる責任、期待。彼女には国の民の未来を想い、彼らを導いていく義務がある。


 ──それでも、目の前で脅かされている蓮を見捨てることなどできなかった。


「あなたの国の民はかわいそうね。同情するわ。まあ、どのみち見逃すつもりなどないのだけど」


 クリミアは力無く項垂れるリヴの元へと近づいていく。


「安心しなさい。あなたの国は、このクリミア・スカーレットが貰ってあげる」


 その言葉を聞いて、リヴの顔が強張る。


「あなたの民は、私の国の奴隷となるの。それでも、力無き女王に治められるよりは幸せになれるわ」


 リヴは何も言い返せない。蓮に剣を向ける男も共に笑う。


 その一瞬の隙だった。


「!?」


 いつの間にか立ち上がった蓮による渾身の一撃。振り抜いた拳は、男を後方へと吹き飛ばした。


「ぐうっ!」


「なっ……」


 クリミアは思わず怯む。


「蓮……さん……」


 震える声で、リヴは蓮の名を呼んだ。


「……俺は、国のことなんてわからねえ。でもこれだけは言える。てめーはとんでもねえ悪党だってな」


 腰からおびただしい血を流しながら、彼は言葉を続ける。


「リヴ……宝玉を差し出す必要なんてないぞ。守らなきゃいけない人達がいるんだろう?ここは俺に任せて、お前は逃げるんだ」


 吹き飛ばされた男が、体勢を立て直し蓮に襲いかかる。


「てめえ……」


 蓮もまた、剣を拾い立ち向かっていく。


 だが──


「フラフラじゃねえか。今更お前に、何ができる!」


 蓮は、敵の攻撃を防ぎきれない。致命傷こそ避けているものの、四肢の肉が裂け、その傷からはまた多くの血が流れる。


 蓮が保たない事は、明白だった。


 それでも──


「リヴっ!逃げろっ!」


 ここは通さないという執念だけで、彼は立っていた。言葉だけではない。彼は全身でそれを伝えている。


 それを見たリヴに、逃げるという選択肢など無かった。


「蓮さん……僕も、あなたと一緒に、戦わせてください」

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