焦燥と無力感 自らに欠けているもの
(近藤とフィアがやった……!)
影を倒し、相手の騎士を更に二人引きずり出した。
形勢は有利とは言えないが、絶望的な状況を跳ね除けた。
「あのかわい子ちゃんも、ロリっ子もなかなかやりやがる」
煌夜も感心を示した。
「それに比べて、お前は何ができるんだ?」
挑発にも、何も言い返すことはできない。
突きつけられる無力感。
俺の力では、この男を突破できない。
リヴとアイリスの呪文にも頼れない。
フィアも近藤の援護で精一杯だろう。
(俺にできること……それは一体なんだ?)
「つまらない奴だなお前は……よくここまで生き残ってこれたもんだ」
俺にできることなんて、体を張ることくらい。
近藤のような剣の腕も無い。
それでも勝ってこれたのは、リヴが助けてくれたから。
俺は、どうしようもなく無力なんだ。
「そろそろ終わりにして、俺もかわい子ちゃんに相手をしてもらうとするか!」
敵の攻撃は激しくなるばかり。
こちらの動きに瞬時に対応され、防戦一方が続く。
盾を弾かれ、左胸が開く。
そこに迫る、相手の剣。ここまでなのか。
(ごめん、リヴ……)
俺が諦めかけた、その時。
「フィズラス!」
「おっ!?」
背後から氷柱が飛んでくる。
相手はそれを難なくかわしてしまう。
(でも!)
一瞬の隙ができる。それを逃さず剣を叩き込む!
「おおおっ!」
「おっと!」
それも盾で防がれてしまった。
フィズラスじゃ、状況の打開には至らない……。
それでもリヴは、呪文を放った。
有効打にはならないとわかっていたはずだ。
それなのに何故だ?
まだ勝負を諦めていないから?
じっとしていられないから?
──それとも俺を、信じているから?
(そうです蓮さん。僕はあなたを信じている)
この勝負、このまま負けるかも知れない。
でも、僕は知ってるんです。
あなたの力はまだこんなものじゃないってことを。
相手が知りたがってるなら、見せてやりたい。
鷹見蓮は、僕の自慢の最強の騎士なんだって。
(僕の勝手なお願いです。あなたを信じさせて……!)
その時、蓮の額が強く輝いた!
「えっ!?」
光が収束していく。
そして目の前の男と同じように、水色の宝石を掲げるサークレットを形作る。
蓮にもまた、新たな力が宿った!
「……へぇ」
煌夜がどこか満足そうに笑う。
まるでこの状況を望んでいたかのように。
(俺にもサークレットが来た……でも、こいつの効果は何だ?)
ただの防具なら打開策にはならない。
だが蓮は、自分の感覚が研ぎ澄まされていくような感覚を覚えた。
「お前に、それが使いこなせるのかよ!?」
迫る相手の剣が、さっきよりもはっきりと見える。
相手の息遣い、重心、空気の揺れ。
目で、耳で、そして肌に伝わる感覚が、相手の攻撃を教えてくれる。
蓮は落ち着いて身を翻し、剣をかわす。
そして流れるように、その動きは自然と次の攻撃に繋がった。
ガキィンッ!
それは盾で防がれてしまう。
だが今までで最も深く入った。
(わかるぞ……相手の動きがさっきまでより見える!)
目の前の敵だけじゃない。
視界の外で戦う千早も、背後で見守るリヴ達の気配もはっきりと感じられる。
感覚を強化する。それがサークレットの力。
これこそが、こちらの動きが見切られていたような感覚の正体だったのだ。
「少しはマシになったみてーだな。もう少し楽しめそうだ」
これで条件は互角。
そう、互角になっただけなのだ。
勝つためには、もう一手が必要。
後ろで見守るリヴは、そのことをよく理解し、そして焦燥感に駆られていた。
(蓮さんが、フィアが、近藤さんが、この戦いで新しい力を身につけてみせた)
ルドミルナ、ガントレット、サークレット。
みんながこの戦いで成長しているのに、僕だけが新しい呪文を身につけられない。
僕が未熟だから。
みんなの足を引っ張ってしまう──
「勘違いしているようですね、リヴ・クリュスタ」
「えっ!?」
「新しい呪文が覚えられないのは、あなただけのせいではありません」
リヴの考えを見透かし、言葉を放ったのはシルエナ。
「むしろ鷹見蓮。問題はあなたにあるのです」
(俺……?)
蓮は虚を突かれた。そしてそれはリヴも同じ。
「あなたには大きく欠けているものが一つある。それこそがあなたのパートナーを惑わせている正体なのです」
(俺に大きく欠けているもの……?)
なんだよそれ。
そんなの、多すぎてわかんねぇよ!
わかっている。俺が弱いってことは。
だから、強くなろうと足掻いてきたんだ!
あいつらのために、少しでも力になりたくて。
(蓮さんに欠けているものって何? あんなに強い人なのに)
リヴは、家族の存在が彼を迷わせていることを知っている。
心のどこかで、自分の価値を信じられずにいるあの眼差し。
(蓮さんに欠けているもの、それは──)
(自信、か……?)
弟との比較で、自らを縛っているコンプレックス。
それこそが、リヴをも惑わせているのだとしたら。
──俺は今まで何人もの王女と戦い、勝ってきた。
感じろ、勝てるイメージを。
この勝負だって勝てる。俺は、勝つんだ!
「気合いを入れ直したみてーだな。でも、本当にそれで勝てるかな?」
変わらず挑発的な笑みを絶やさない煌夜に、蓮は先程までより更に強く踏み込む。
だが何も変わらない。
ただ、対等に剣を切り結ぶ状況が続くだけだ。
いや、劣勢を続けていたのは蓮の方。
彼の体力の消耗は、目の前の男よりも激しかった。
このままでは、互角の勝負さえ維持できなくなる。
現に、少しずつ戦況は傾きつつあった。
(違うのか……? あいつには見えているのに、俺には見つけられないのか?)
焦燥が胸を焼く。
自分を縛っている何か。
それを見つけられない限り、この壁は超えられない。
「ここまで追い詰められて、なお自分に欠けているものに気付けないとは……」
シルエナの視線は厳しい。その目を蓮は知っている。
両親が、自分への期待を失くしてしまった時と同じだ。
「見つけられないなら、この戦いから退場なさい。全てを忘れて、元の日常に還るのです」
(負ける……俺が……)
ここで負けるという事は、リヴと過ごした日々を、全て失うという事。
(リヴの事を、忘れてしまう──)




