剣道少女の矜持 身にまとう雷光の祝福
「諦めないで!」
千早が叫ぶ。
彼女は今、道場で見せないほど必死に剣を振るっている。
「あたし達は、まだ負けてない!」
絶望的なのは彼女もわかっているはず。
それでも千早は、相手に食らいつこうとする。
幼い頃から数えきれない程剣を振ってきた。
何十人、いや何百人と剣を交えてきた。
心を折られそうなこともあったかも知れない。
それでも彼女は、剣を捨てることはしなかった。
諦めない。
それは彼女の人生に深く刻まれた矜持なのだ。
「千早……助けてください……!」
フィアの声は震えていた。
この状況、強く心を持つ者に頼る他無い。
その祈りのような叫びが──千早の両腕に光をもたらした!
「えっ……!?」
蓮が持つ物と同じガントレット。
それが今、千早の元にも出現した!
(力が沸いてくる……!)
「やああっ!」
キインッ!
近藤は影と鍔競り合う。
そして気づく。今度は力でも負けていない。
剣を絡めとるように動き、相手の姿勢を崩す。
一瞬生まれた隙を、彼女は見逃さない!
「面っ!」
影の頭上に、遠慮なく剣を叩き込む。
すると影は、溶けるように崩れ、そして煌夜の足元へと戻っていった。
「倒した……!?」
騎士を戦闘不能にするには宝玉を砕く必要がある。
しかし影は、大きなダメージを受けるとそのまま消滅していった。
それが、影の弱点だったのだ。
「やったです! ザマーミロです!」
千早の勝利が、一筋の光をもたらす。
重苦しかった空気が、わずかに和らいだ。
「やりますね。分身を倒しましたか」
シルエナは静かに呟く。
最初からこの程度予想していたかのように、彼女はまるで動じない。
「次は雅臣、あなたに任せましょうか」
「わかりました」
次に前に出るのは、千早よりやや背の低い小柄な男。
漆黒の黒髪は額や頬にかかるほど長いが、乱れは無く整っている。
顔立ちは中性的で、切れ長の瞳は冷ややかだが、どこかその眼差しには優しさも宿している。
彼もまたスーツだが、サラリーマンと言うよりは執事のような印象だ。
「次の相手はあなた?」
「女性とは戦いたくないけど、シルエナ様の命だ。悪く思わないでよ」
雅臣と呼ばれた男も鎧に身を纏うと、額には同じくサークレットが出現した。
「いくよっ!」
互いの剣が交差する。力では負けていない。
だが近藤は、先ほどよりも更に不気味な感覚に襲われていた。
(この人も、こっちの動きを読んでいるみたい……!)
影と対峙した時にもあった感覚が、更に強くなる。
格上の剣道家と相見えた時に感じるそれを、目の前の男からも感じられるのだ。
敵は、剣の達人を揃えていると言うのだろうか?
(……それでも)
「あたし達は、負けないよ!」
何も変わらない。
近藤千早は諦めない。
勝敗が決するその時まで、わずかであっても勝利の糸を手繰り寄せる。
(あなたもそうでしょ? フィアちゃん)
「千早が戦ってるのです。フィア達は、絶対に負けないのですぅ!」
二人の想いは同じ。勝ちたい。勝って見せる。
負けず嫌いなところは、似たもの同士。
(剣で勝てなくても、フィアちゃんの呪文があれば勝機はある……!)
なら、彼女を信じる。相手は影ではなく生身なのだ。
彼女の呪文は、必ず突破口を開く。
その想いに応えるように、フィアの杖は力強く光り出す!
「フィア……!」
「来たです、新しい呪文……!」
金色の光に照らされたリヴとアイリスが、彼女の呪文に期待を寄せる。
(シルミルナよりも強い呪文ですか? わからないです、けど……)
杖は言っている。この呪文を使えと。
(なら、これしかないのですぅ!)
フィアは、杖を前に構えて高らかに唱える。
「ルドミルナ!」
放たれた雷光は、千早に向かっていく。
「えっ!?」
バチィッ!
かわす間も無く、彼女に直撃した!
「フィア! なんで!?」
リヴたちは驚きを隠せない。
現状を打破する切り札となるはずだったのに、誤って当ててしまったのか。
(勝負を焦ったのか? かわいそうだけど……)
雅臣は同情はしても容赦はしない。
これで終わるなら、その程度の相手だったということ。
(動けないなら、その左胸もらうよ!)
雅臣の剣が、千早に迫る。
雷光をその身に受けた彼女は──
目にも止まらぬ速さで、その剣を薙いで見せた。
「えっ!?」
千早は、フィアの呪文の影響を受けていない。
いや違う。彼女は速くなったのだ。
雷光を身に纏う彼女は、常人を超える速度で動いていた。
(なんだろう、思った通りに体が動く)
人の脳も筋肉も、電気を信号として動いている。
思考が体に伝わるまで、わずかに時間を要する。
ルドミルナを受けた彼女は、それが大きく強化されていた。
今の千早はズレを全く感じずに意のままに体を動かせるばかりか、相手の動きに考えるよりも早く反応できるだろう。
神経の伝達速度を強化する。
それが新呪文、ルドミルナの正体だった。
(この子、動きが変わった!)
千早の剣が、相手を捉え始める。
動きを読まれていようと関係ない。
今の彼女は、それを上回る速さで動くことができるのだ。
「ちょっ、ちょっと待って……!」
一転、焦り始めたのは雅臣の方。
千早の剣が彼を倒すのは時間の問題だった。
「次、理玖行ってもらえますか」
「仕方ないですねぇ」
三人目のシルエナの刺客は、百八十を超える長身に眼鏡の男性。
彼も同じくスーツ姿で優しい笑みを浮かべているが、どこか胡散臭さも漂わせる掴みどころのない男だった。
彼も鎧に身を纏うと、額にサークレットを身につけている。
劣勢に立たされた雅臣に加わり、近藤に襲いかかった。
「理玖さん……」
「大の男が女性に二人がかりとは、よろしくないですねぇ。ですがシルエナ様の指示なので、仕方ないですね」
強化された千早も、流石に二人がかりでは攻めきれない。
彼もまた、彼女の動きを読んでいるかのような動き。
「くっ……!」
彼女の戦場は、拮抗状態となっていた。




