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軽薄な騎士と寡黙な影

 煌夜と呼ばれた男の剣が、一閃、二閃と繰り出される。


 俺も負けじと応戦。

 剣と盾がぶつかり合い、金属音が公園に響き渡る。


 相手の攻撃は重い。だが受けきれないわけじゃない。

 力を生み出しているのがガントレットならば、条件は同じなのだ。


 ならば、それを持たない近藤はどうなのか。


 彼女は盾を背後に背負い、両手で剣を持って立ち向かっている。

 剣道家である彼女の基本スタイルだ。


 得意の足捌きで間合いを図り、隙をついて剣を叩き込む。

 だが影の動きも速く、それを上手くかわしてしまっている。


 たまに剣が交差すると、近藤は衝撃で後ろずさってしまう。

 単純な男女の差か?

 いや。ガントレットによる力の差なのだろう。


 と言うことは、影の力は本体と同じなのか?


「千早、今助けるです! シルミルナ!」


 フィアの声と共に雷光が走る。

 そしてそれは、近藤と対峙する影に直撃した!


(今だ──!)


 その隙を逃すまいと、近藤の剣が影に迫る。


 だがシルミルナを受けたはずのそれは、動きを止めずに近藤の攻撃に対応した。

 黒い盾が防御に働き、彼女の剣は防がれてしまう。


「なんで? シルミルナが効かねーです!」


 フィアだけでなく、近藤も戸惑っている。

 相手が一瞬でも怯んだなら、間違いなく今の一撃で決まっていた。


(まさかあの影、呪文が効かないのか?)


 だとすれば、本体より厄介じゃないか。


「焦んなよ少年。お前の相手は俺だぜ?」


 煌夜が口角を上げて笑った。


 そうだ。俺には近藤の心配をしている余裕なんてない。


 力は互角。だが危うい攻撃は向こうの方が多かった。

 対してこっちの攻撃は、決め手に欠け、上手くかわされてしまっている。


「本当は俺様が、あのかわい子ちゃんの相手をしたかったぜ」


 こいつ、よく喋る。

 対して影は何も語らない。


 しかし、気味が悪い。

 この男には、まるで俺の動きを見透かされているかのようだ。


 相手の額で、紫色の宝石が陽の光を受け静かに輝いていた。


「ソルブレイド!」


 リヴが動き出す。俺に加勢するため、相手目掛けて突き進んでいく。


 今まで何度も窮地を救ってくれた魔法剣。

 影には効かなくても、こいつになら──


「!?」


 その時、俺の脳裏に嫌な映像がよぎった。


「……っ、ダメだリヴ! 下がれ!」


「蓮さん!?」


 こいつは俺の動きを読んでいる。

 ならば、リヴの動きもかわされ、逆襲を受ける恐れがある。

 王女が接近戦を仕掛けるには、あまりにリスクが高い。


「いいのかよ? 助けてもらわなくて」


「………」


 この軽薄な男が、初めて恐ろしいと思った。

 あのままでは、おそらく俺の想像は現実となっていただろう。


 こいつの目は、獲物を取り逃がして怒っている獣と同じだ──。


「まあいい。このまま決めてやるぜ!」


 敵の猛攻が続く。剣では攻めきれない。

 リヴの援護も難しい。このままではジリ貧だ。


「おらっ!」


 相手が盾を構えて突進してくる。

 俺も盾で応じるが、勢いを殺しきれずに後ろへ尻餅をついてしまった。


(まずい!)


 相手の剣が容赦なく振り下ろされる。

 この姿勢では防ぎきれない。


 万事休すか──


「ネルトプラ!」


 俺の周囲の地面が揺れ、土を突き破って二本の根が出現した。

 それは生き物のようにうねり、相手に襲いかかる。


「おおっ!?」


 敵は追撃を諦めて後退した。

 根の動きをかわし、剣で切り裂いていく。


「助かった、アイリス!」


「蓮! あたしの装備を使いなさい!」


 この状況、アイリスの呪文の方が有効か。

 おそらくそれは正しい。


 しかし──


「今のはちょっと危なかったぜ」


 煌夜は笑みを崩さず、悠々と立っていた。

 足元には、幾度にも刻まれた根が力尽きたように横たわっている。


 生半可な動きでは、奴の攻撃に応戦する事はできない。


(アイリスの装備には、ガントレットが無い……)


 現状、すでに相手の攻撃を捌ききれていないのに、ガントレットまで失ってはさらに不利を作ることになる。


 そうなっては、アイリスの魔力を溜めるどころの話ではない。

 瞬く間に蹂躙されてしまうのは目に見えている。


 こちらの王女の呪文を三つも防がれた。

 相手が使ったのは一つだけ。

 

 しかも今、相手をしているのは事実上一人。

 後ろには、まだ三人の騎士が控えているのだ。


(俺たちは……負ける……?)


 それは悲観ではない。

 現状が示している、残酷な現実だった。

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