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アメリカへ旅立った弟たち その素性

「しかし、本州か……」


 蓮さんは、何かを憂いている様子だ。


「どうかしましたか?」


「来月俺、修学旅行なんだよ」


「旅行? ならフィアもついていくのですぅ」


「いや……学校の行事なんだ」


 蓮さんは、来月クラスメイトと共に北海道から本州に行くらしい。

 期間は4日間。その間に、いくつかの都市を回ると教えてくれた。


「いいですね。楽しんできてください」


「いや……その間、お前らの近くに騎士がいなくなっちゃうだろ? 近藤だって行くんだぞ」


「それはまずいです! やっぱりフィアたちもついて行くのですぅ」


「でも、そうなるとかなりの費用が必要になるわよ。宿泊費に交通費もかかるんだから」


 フィアが抱く危機感に対し、アイリスさんが現実を突きつける。

 それが蓮さんの悩み。僕たちを置いて行きたくはないけど、連れていくのも簡単ではないということだ。


「もうずっと他の王女とは遭遇していませんし、四日くらい大丈夫だと思いますけど」


「でも万が一襲われたら、フィア達は一巻の終わりですぅ」


 しばらく四人で悩んだけれど、答えなんて出ない。100%の保証なんてあるわけがないのだ。


「……仕方ない。お前たちも俺と同じホテルに泊まれ」


「そんなにお金、大丈夫なんですか?」


「まあ、なんとかなるよ」


 蓮さんはこともなげに言う。相当な大金が動く話のはずなのに。


「……前から思っていたけど、あんたの両親は何者なのよ」


 アイリスさんが疑問を呈すると、空気が急に重くなった。

 蓮さんの表情は暗い。家族の話が出ると、いつも同じ顔をする。


「あんたが言いたくない話なのはわかるけど、あたしたちだってお金を出してもらうことに後ろめたさがないわけじゃないのよ」


 蓮さんは、無駄遣いは許さないけど必要ならお金を出す。

 僕達の衣食、娯楽費。最近ではスマホも買い替えてもらった。

 未成年が簡単に出せるお金じゃないのは明白だ。


 蓮さんは目を伏せて少し黙り込んだ後、静かに口を開いた。


「……父さんは金融系の仕事をしている。他にも投資で成功していて、かなりの資産があるみたいだ」


 今まで断片的で朧げだった蓮さんの家族。

 それが今、彼の口から語られようとしている。


「今は海外にいるんでしょ。なんで日本を離れたの?」


「親がアメリカに行ったのは、弟の教育のためだ」


 蓮さんの弟。

 おじいさんの家で一緒に写っていたその人は、双子のようにそっくりだった。


「あいつは勉強だけじゃなく、バスケっていうスポーツも凄いんだ。本場はアメリカだから、弟のために親は生活の場をアメリカに移したんだ」


 蓮さんの瞳は、どこか寂しそうだ。


「あんたはなんでついて行かなかったの?」


 アイリスさんが追及を続ける。


「俺はアメリカの生活に自信が無かったんだ。英語もそんなにできないしな」


 未成年が暮らす国を変えるというのは、相当な負担だろう。


 それでも、蓮さんの両親は弟さんの教育を優先した。

 蓮さんを置いていくことに、負い目はなかったのだろうか。


「よくわかったわ。あんたの親と弟は相当なエリートってことが」


「……そういうことだ。お金は有り余るくらい毎月振り込んでもらってる。だから、来月の旅行費は心配しなくていいぞ」


 そう言う蓮さんの様子は、まるで何かを諦めているかのようだった。


 蓮さんの家族は、まるで蓮さんへ注ぐべき愛情を、お金で済ませているみたいだ。


 蓮さんは明らかに寂しがっている。もっと蓮さんを大事にしてあげてほしい。

 でも蓮さんは、僕らの前でほとんど弱みを見せたがらない。僕にはそれが辛かった。


───


 修学旅行まであと1ヶ月。

 特別な事などない平和な日々が続いていた。


 だがある休日の、昼下がり。

 平穏は何の予兆もなく破られる。


「蓮さん、王女が近づいています」


 リヴの声が、ピリッと空気を切った。


「マジか。久しぶりだな」


 緊張が走る。


 もうこの辺りにはいないのかと思っていたが。

 まだ潜んでいたのか。それとも遠方からやってきたのか。


「何人なんだ?」


「それが……1人だけです」


「1人?」


 こっちは王女が3人だ。それなら仕掛けては来ないだろう。


「チャンスじゃない。こっちから仕掛けてやりましょ」


「弱いものいじめになっちまうです。でも戦いは非情なのですぅ」


 こいつら、やる気満々だ。勝ち残りのためには、それも仕方ないのか。


「じゃあ、こっちから追うのか?」


「待ってください……すぐそこまで来ています」


「えっ?」


 俺たちを狙ってるのか? 三人相手に?

 たまたま通りかかっていくだけだろ?


 さっきまで意気揚々としていたフィアとアイリスも、異変を感じ取ったのか、意味もなく息を潜めて時間が過ぎるのを待つ。

 王女達は真剣な面持ちだ。


 そして──


 ピンポーン。


 玄関のインターホンが鳴った。

 俺達の間の空気がさらに張り詰める。向こうはこっちが3人だって気づいてないのか?


「……出ないわけにもいかないよな」


 意を決して玄関を開ける。

 そこにいたのは、長い銀髪の女性。


「初めまして。わたくしはシルエナ・テネブリオンと申します」


 20歳くらいだろうか?

 だが落ち着いた所作は、見た目から感じる年齢以上に大人びて見える。


 背は俺より少し高い。180弱くらいだろうか?

 豊満なバストは近藤と同じか、それ以上。

 美しい人だと、素直にそう感じた。


 そして背後に控えるのは、四人の男性。


 騎士が、四人……?

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