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目指せ人気者 秋の学園祭

 季節は秋。

 旭山高等学校では学園祭が行われる時期である。


「俺、今度の学園祭でお笑いをやろうと思うんだ」


「え……」


 隅田の無謀な発言に、一同は唖然とした。

 誰もが、隅田に笑いなんてできるわけないと思った。


「やめといた方が良いぞ」


 俺はそう嗜めるが、隅田は引き下がらない。


「でも俺、いつも割と笑いとってるじゃん?」


「お前はとってるんじゃなくて笑われてるんだよ」


 そこには天と地の差がある。

 そこを履き違え、自分は面白いと勘違いしたらとんでもないことになる。


「いや俺には笑いの才能がある。これを活かさないのはもったい無いと思うんだ」


「笑いの才能ねぇ」


 確かに隅田にはいじられ役としては悪くない。

 そこを上手く活かせるなら、ワンチャンあるのかも知れないが。


「で? 何をやるんだよ。漫才か? コントか?」


「フリートークだ」


「はぁ!?」


 こいつはバカなのか?

 いや知ってたけど。やっぱりバカだ。


「だってお笑いって、漫才とかよりバラエティを観る方が圧倒的に多いだろう? だったら漫才やるよりそっちの方が良いじゃないか」


「お前は何も分かってない。フリートークなんて、場数を踏んだプロの芸人だから成り立つんだぞ」


 お笑いを舐めんなと言いたい。

 だがそこに漆間も言葉を挟んだ。


「でも俺も思うんだよな。芸人って、最初は漫才とかやっててもテレビに出るようになったらやめちゃうだろ? じゃあ最初からテレビに出る練習すれば良いのにって」


「漆間の気持ちもわかる」


 お笑いを見ていたら、一度はそう思うこともあるだろう。

 でも違うんだ。


「むしろ漫才やコントをやるっていうのが、将来テレビに出る練習なんだよ」


「どういうことだ?」


「笑いっていうのは空気が大事なんだ。例えば漆間が言ったら盛り上がることでも、隅田が言ったら笑えないってこともあるだろ?」


「なんでだよ!」


 隅田は納得いかないようだが、他の連中は確かに……と納得したようだ。


「漫才やコントには台本がある。それは、空気をあらかじめ準備してコントロールできるってことだ。バラエティにも台本はあるらしいけど、漫才とかよりは自由にやってるはずだ。だからと言って、テレビに出たての若手芸人がMCを遮って自分だけ目立とうとしたらどうなると思う?」


「まあ、とんでもないことになりそうだよな」


 その光景を思い浮かべて、漆間は俺を否定せず素直に納得した。


「台本のある笑いに比べ、そうでない笑いにはより高度な空気をコントロールする力が要求される。漫才は面白いのにテレビだとイマイチって芸人もいるだろ? 漫才すらできない奴がテレビの真似事したって面白くなるわけがない」


「……お前、すごいな」


 俺の持論に周りは感心している。

 つい、熱くなって語ってしまった。


「鷹見って、お笑い好きだったんだな」


「好きっていうか、プロはすごいなって話だよ」


 テレビで活躍を続けるプロは本当にすごいと思う。

 どうすればあんなに舌が回り、適切に笑いを取れるのか。

 俺には一部でも真似をすることは難しい。


「そこまで分かってるなら、鷹見が一緒にお笑いやったらいいじゃん」


「えっ……? いや無理だぞ」


「できるって」


「無理だよ」


 素人がやろうとしても、グダグダの地獄絵図になることは目に見えている。


「鷹見ぃ! 俺と組んでくれぇ!」


「組まねーよ。そもそも、なんで隅田はお笑いやりたいんだ?」


「俺も人気者になりたい! 二軍から脱却して、漆間みたいな一軍男子になりたいんだ!」


 やっぱり。学生がお笑いやる理由なんて、チヤホヤされたいくらいしか無いだろう。


「まず自分を二軍だと思い込む自己評価の高さを改めるべきじゃね」


「二軍ですら無いって……じゃあ俺は、三軍だって言うのか?」


「いや、指名漏れだよ」


 周りから、おおーっと声が上がる。


「鷹見、良いじゃん」


「ツッコミいけるって」


「いや友達同士の雑談と本当のお笑いは別だから」


 つい突っ込んでしまったら、周りに感心されてしまった。


「何盛り上がってんの?」


 今しがた教室に戻ってきた南條が話しかけてきた。


「鷹見と隅田が今度の学園祭でお笑いやるって話をしてんだよ」


「おい、俺はやるなんて言ってないぞ」


「えーウケる。鷹見だったら絶対面白いよ」


 む……南條にそう言われて悪い気はしない。

 だけど、それでも俺はお笑いなんてやる気はない!


「じゃあ鷹見、舞台には立たなくて良いから一緒にネタ作ってくれよ」


「ネタなんて作れねーよ」


「アイデア出すだけで良いから。もしつまんなくても文句言わねーよ」


「……まあ、それくらいなら」


 ネタを出すくらいなら協力してやってもいいか。

 滑った時に俺のせいにすんじゃねーぞ。


「で、結局隅田は誰と組むんだ?」


「俺と漫才やりたい人、挙手!」


 だが、誰も手を挙げる者はいない。


「ピンでやるっていう手もあるけど」


「一人は嫌だ! 誰か俺と組んでくれ!」


 しかし、お笑いをやるなどという度胸の持ち主はそうはいない。


「……仕方ない。俺に考えがある」


 逸材を、直接スカウトするしかない。




「俺、漫才なんてしたことないよ」


 俺が声をかけたのは、クラスメイトの相模太一。

 体重100kgを超える、一目で肥満だとわかる男だ。


「お前のその体型は笑いで武器になる。素人しかいないこの教室で、一番お笑いに向いているのがお前だ。一度俺の考えたネタをやってみてくれ。つまらないと思ったら辞退してくれていい」


 次の日、俺は一晩で考えたネタを台本にし、隅田と相模に渡した。


「見ながらでいいから、通しでやってみよう」


 二人による漫才が始まった。


「はいどーもー、隅田です」


「相模です」


「それにしても、おばあちゃんというのはありがたいですね。孫である我々をいつも可愛がってくれて」


「そうだね。久しぶりに会うといつも喜んでくれて」


「おばあちゃん、久しぶり~」


「あらあら太一ちゃん、また血糖値上がったんじゃない?」


「いや見てわかんねぇだろそれ! 普通そこは背ぇ伸びたね、だろ!」


「ご飯食べていきなさい。お米何合食べる?」


「合!? 杯で勧めてくれ!」


「喉乾いてない? カレーあるよ?」


「いやデブはカレーは飲み物って言うけれど!」


「太一ちゃん、また来なさいね。これ、少ないけど持って行って」


「お小遣いくれるの? ありがとう」


「はい、お米券」


「いやそこは現金だろ! もういいよ!」


「どうもありがとうございました~」


 ネタを見終わったみんなが、二人に拍手を送った。


「結構、面白いんじゃないか?」


「うん、悪くないと思ったよ」


 周りの評価は上々だ。

 少しだけ自分が誇らしくなった。


「これネタ作ったの鷹見なんでしょ? 凄いじゃん」


「お前、ネタ作家になれるよ」


「いや、プロはそんなに甘いもんじゃないよ。俺達は素人だからな。デブというわかりやすいネタで攻めていく。とにかく滑らず、無難にこなすのが大事だ」


 学園祭は見てるみんなも盛り上がりたいと思って見るから、この程度のネタでもそれなりに笑ってくれるはずだ。


「あとはとにかく練習。噛んだりしないよう、失敗を避けることが大事だ。やれるか?」


「はい!」


 相模もウケたことに気を良くして、漫才に取り組むことに同意した。


 この時はまだ、誰も知らない。

 まさか、あれほどの惨劇が巻き起こることになるとは──。

17時半ごろ連続投稿します。

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