王女たちの存在と思春期の少年の心
カップルが浮き輪でできたそりのような道具に乗り、スライダーを滑っていく。
彼氏も彼女も大はしゃぎで微笑ましい。
「あれはチューブって言うんだよ」
近藤が教えてくれた。さすがリア充。遊びの道具に詳しい。
「あれいいわね。あたしもあれに乗るわ」
アイリスが興味を持った。一人で乗るのも、女同士で乗るのもいいだろう。
「何言ってんのよ。あんたが一緒に乗るのよ」
「えっ」
俺はチューブの上で仰向けになる。そして両脚を開いてその間にアイリスが収まる形となる。
かつてないほど、彼女の体が近い。
ハーフアップにまとめられた髪からは、良い匂いがする。
彼女の濡れた体は冷たいはずなのに、体温を感じられて熱い。
「いくよー」
近藤が後ろからチューブを押すと、俺たちは勢いよく滑り落ちていった。
「きゃああっ!」
「うおおおっ!」
最後は派手な水飛沫をあげて着水。水をかぶった体が冷たい。
「あー楽しかった。もう一回乗るわよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
俺は下半身に水をかけ、高ぶったモノを必死に鎮めようとする。
「あんた、何やってたのよ」
「……ちょっとな」
アイリスの質問に俺は答えない。
少し時間を置いて、今度はリヴとフィアが同じくチューブに乗り、最後は近藤が一人で降りてきた。
「めちゃくちゃ楽しいですぅ!」
フィアはご機嫌だ。
「蓮さん、次は僕と一緒に乗りましょう?」
「ええっ!?」
「ダメ……ですか?」
「ダメじゃない! リヴがいいなら、別に……」
こいつら、俺と密着しても気にならないのか?
「もう一回あたしと乗るって言ったじゃない」
「今乗ったばかりなんだから後でいいだろ」
隣では近藤とフィアがやり取りをしている。
「フィアちゃんはどうする?」
「次は千早と一緒に滑るのですぅ」
「いいね。それじゃあその後に、あたしも鷹見くんと滑ろうかな」
俺はリヴと近藤の素肌が近くにあるのを想像した。
血が、心臓だけでなく下半身にも集まってくる。
こいつら、俺のことを男だなんて思っちゃいないんだ。
意識しているのは俺だけ。人の気も知らないで。
───
プールのチケットは温泉利用も兼ねている。
一通り遊び終えた彼らは、男女に分かれて遊び疲れた体を癒やしにきた。
「広いですぅ。城の風呂よりおっきいのです」
「こんなところが一般市民に解放されているなんてね。この国もやるじゃない」
「まるで、お風呂の遊園地みたい……」
フィア、アイリス、リヴが、それぞれ思い思いに感嘆する。
プールと同じく、視界に収まらないほどの空間にいくつもの浴槽がある。
「この風呂、泡を噴いてやがります。何の意味があるですか?」
「多分、血行とかに良いんじゃないかな」
フィアの疑問に千早が答える。
四人は体を洗った後、共に泡風呂へと向かった。
「おおお、おもしれー風呂です」
「確かに、普通のお風呂より体に効いてる感じがするわね」
アイリスもその刺激に満足気だ。
そのあとは各々が自由に好きな風呂へ向かう。
熱めの湯、ぬるめの湯、寝ながら入れる湯。
こんなに種類があるのは自分の国では考えられない、とリヴは思った。
「うぎゃーっ! つっ、つめてーですぅ!」
フィアの絶叫が響き渡る。
水風呂というものもあることを、王女たちは初めて知った。
「外にもお風呂が続いているわ」
引き戸の向こうに屋外が広がっている。
大きな屋根の下で、露天風呂が湯気を立てて利用者を待ち構えている。
「外でお風呂に入るというのも悪くないわね。うちの国でも始めようかしら」
これだけのプール、そして入浴施設。
自国で話題になるばかりか、観光資源としても期待できるのではないか。
日本という国は、自国とはまるで違う文化が根付いている。
この経験を自国に持ち帰って何ができないかと、アイリスは真剣に考えていた。
───
「ふぅ……」
一通り入浴を終えた四人は、一緒にサウナに入っていた。
身体中から汗が流れる。
首から滴り落ちたそれは、胸の曲線に沿ってさらに下へと流れていく。
「千早。あんた何をしたらそんなに大きくなるのよ」
「うーん、遺伝かな。うち、お母さんもおばあちゃんも大きいから」
アイリスと千早のやり取りを聞きながら、リヴとフィアは自分の母親を思い浮かべる。
最低でもあれくらいは大きくなるのだと、希望を抱いた。
「大きければ良いってもんじゃないよ。肩凝るし」
「持つ者には持たざる者の気持ちはわからんのですぅ……」
フィアは大きな胸イコール大人と考え、豊かな胸には憧れを抱いていた。
「前にも言ったけど、心配しなくても大きくなるって」
「千早はいつから大きくなったですか?」
「あたしは……十歳くらいからだったかな」
フィアの年齢は十一歳。個人差なのだと自分に言い聞かせた。
───
「ふぅ……」
同じ頃、蓮もまたサウナで汗を流していた。
流したかったのはそれだけではない。
自分に潜む邪念を、全て外に出してしまいたかった。
最近、特に意識してしまう。彼女達の存在を。
あんなに可愛い子達と一緒にいられて嫌なわけがない。
でも同時に疲れるのだ。男同士とは全く違う気遣いを要求されるから。
彼は、自分が彼女達を性的な目で見てしまうことを知っている。
そしてその欲望が、彼女達を傷つけるのではないかと恐れていた。
彼女達は大切なパートナー。邪な目で見るなんて許されない。
それでも、彼女達が持つ女性らしさに、どうしようもなく心を揺さぶられるのだ。
(女の子と付き合うって、どういう感じなのかな……)
いつかは、自分にもそういう人が現れるのだろうか。
今日みたいに遊んで、手を繋いだりして。
キスしたり、抱きしめ合ったり。そしてゆくゆくは……。
鷹見蓮、十七歳。
女性という存在を通して、彼の心は成長しているのだった。
───
時刻は十七時を回った。
帰りのシャトルバスで、フィアが静かに寝息を立てている。
「本当に子供ね」
そう言いながらアイリスも大きな欠伸をした。
「楽しかったです。蓮さんありがとうございます」
来年もまた来よう。
リヴにそう言いかけて、俺は言葉を出すことを躊躇ってしまった。
俺たちの関係に、来年があるかどうかわからなかったから。
彼女は、いつまで俺のそばにいてくれる?
俺は、いつまで彼女のことを覚えていられる?
彼女の存在は当たり前じゃない。それこそが魔法、いや奇跡なんだ。
今はまだそれを手放したくない。彼女と一緒にいたい。
(……俺は、きっとそのために戦っている)
彼女達の宿命を、共に背負いたいという覚悟もある。
だが本当の自分はただのエゴイストなのだと知れたら、リヴは俺に失望するだろうか。
そんな想いを秘めながら、蓮はバスに揺られ帰路についた。




