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一夏の最後の思い出 王女たちに囲まれてホテルのプールへ

「暑いわね……いつになったら夏は終わるのよ」


 アイリスは手で肌を扇ぎながら、冷房の良く効く居間へと入ってきた。


 9月に入っても、残暑は厳しい。今日は午前中から30℃に迫っている。


「暑いですぅ……今日もフィアはプールに行くのです」


 こいつ、この夏で一体何回プールに行ったんだ?


「今日はあたしもプールに行くわ。気になっていたところがあるのよ」


 アイリスはタブレットを使って表示された場所を俺に見せる。


「シャトレーゼガトーキングダム。なかなか良さそうなところじゃない。今日はここに行くわ」


 そこは、プールや温泉が利用できる札幌の人気ホテルだ。


「そこか……確かにいいところだよ。ただ料金も上等なんだよな」


「だからこそこのアイリスちゃんにふさわしいわ。水着を買って一緒に行くわよ」


「俺も行くのかよ」


「じゃなければ誰がお金を払うのよ。黙ってついてきなさい」


 まあこの夏の最後の思い出ってことでいいか。

 リヴもフィアも一緒に連れて行ってやろう。


 家で早めの昼食を済ませたあと、札幌駅に向かう。

 近辺でアイリスの水着を買ったあと、無料のシャトルバスに乗ってガトーキングダムへ移動する。


 ビル街から住宅街へ、それも抜けて街外れに大きな敷地が広がる。

 そこにあるのは緑と川に囲まれた大きなホテル。これがシャトレーゼガトーキングダムだ。

 自動ドアの向こうでは、清潔で広々したエントランスが出迎えてくれる。


「ふぅん。悪くないわ」


「綺麗なところですね」


「早くプールに行くですぅ」


 俺達はフロントデスクで手続きを済ませ、プールと温泉利用のチケットを受け取り廊下を進む。

 途中ガラス越しに覗けたお菓子工房では、作りかけのバームクーヘンが棒に刺さったままゆっくりと回っている。


「ここはスイーツビュッフェもやってるのよね」


「流石にそこまでいったら金を使いすぎだ。帰りに小物を買うくらいにしてくれ」


 アイリスを抑えた後、さらにゲームコーナーを抜けた先に、プール&温泉棟がある。

 受付にチケットを提出する。これでプールは利用し放題だ。


 例の如く、先に水着に着替えた俺は女性陣の到着を待つ。


「お待たせしました」


 以前海に行った時と同じ水着に着替えたリヴとフィアがやってくる。

 普段から真面目で清楚なリヴの露出した姿に、俺の胸は強く揺さぶられる。


「待たせたわね」


 純白のビキニを着こなすアイリスがプールに現れたその瞬間、近くにいた男の目線は全て彼女に集まった。


 白く伸びた細い手足。

 豊かな胸部は谷間を惜しげもなく見せつけてくる。

 腰はくびれており、ヒップは上を向いていて男の視覚を刺激する。


 そしてその正体はアイドル顔負けの美少女なのだ。

 男なら誰もが目を奪われるのは当然だった。


「ふふーん、どうかしら」


 アイリスは挑発的な笑顔を向けてくる。


「……似合ってるよ」


「そんなのわかってるわよ。それだけ?」


「……綺麗だよ」


 それ以上言う度胸は俺には無かった。


「ふぅん、60点ね。もっと女の子を喜ばせる言葉を言えるようになりなさい」


 アイリスはポーズをとって肢体を見せつける。


「あらあら、恥ずかしがっちゃって、可愛いわね」


 そう言われても、意識するほど直視ができなくなる。

 そんな俺を見て、アイリスは満足そうな顔をしている。


「いやー、トイレに行ってたら時間かかっちゃったよ」


 最後にやってきたのは近藤。

 フィアが声をかけて、一緒についてきたのだ。


 その胸部はアイリスのものよりも更に一回り大きい。

 そして剣道で鍛えられた体は、まさに健康美だ。


(……相変わらず、でかい……)


 そこに目が行くのは男として生まれた宿命なのだ。当然だろう?


「……何ジロジロ見てるのよ! このスケベ!」


「ええ!?」


 突然、アイリスが不機嫌になった。なんだか理不尽な気がするぞ。


 自動ドアを抜けプールエリアに足を踏み入れた瞬間、俺たちの視界いっぱいに広がったのは青く輝く水面と、広々とした開放感だった。


 白い天井から差し込む光が波紋に反射し、壁や床を揺らめかせている。

 あちこちに設置されたジャグジーや打たせ湯、流れるプールにスライダーまで──

 まるでリゾートホテルそのものだ。


「わぁ……広い……」


 リヴが目を丸くして感嘆の声を漏らした。

 普段落ち着いている彼女にしては珍しい。


「豪華ですぅ! いつも行っているプールとは格が違います!」


 フィアは興奮気味に両手を広げ、はしゃぐ子どものように周囲をきょろきょろと見回している。


 俺も思わず唸ってしまった。

 さすが札幌でも有数のホテルのプールだ。市民プールの比じゃない。


 ……と、そこで気づく。

 周囲の男たちの視線が、妙にこっちに集まっていることに。


 その視線の先は、もちろん俺ではない。

 リヴの清楚な水着姿、アイリスの純白のビキニ、そして近藤の健康的なプロポーション──

 どこから見ても美少女ばかりだ。


 そして俺は、そんな彼女達に囲まれて歩いている男に見えるわけで……。


(……俺が逆の立場でも、何者だと思うだろうな)


 視線には嫉妬と羨望が入り混じっていて、優越感と同時に妙な居心地の悪さを覚える。

 

 美少女三人に囲まれて、プールに来ている。

 冷静に考えたら、漫画やラノベの主人公じみた状況じゃないか。


(って何考えてんだ俺は。調子に乗るなよ)


 俺は別に彼女達と特別な関係ではない。勘違いしてはいけない。


「それじゃ、まずは屋内プールに行ってみるか」


 俺の提案で、みんなで屋内ジャンボプールへと向かった。


 視界に広がるのは、ホテルの中とは思えないほど広大な水面。

 中央には小さな島や噴水があり、まるでリゾートの縮図のようだ。


「すごーい! 広いですぅ!」


 フィアは歓声を上げて、一目散に水へ飛び込んだ。

 水しぶきが派手に舞い上がる。


「気持ちよさそうですね」


 リヴも静かに水に入っていく。

 肩まで沈んで揺れる水面にふっと微笑むその姿は、普段よりも柔らかい雰囲気を纏っていた。


「はしゃぎ過ぎよ。まるで子供ね」


 アイリスも表情は涼しい顔を装っているものの、透き通る水が肌を撫でた瞬間にわずかに緩んだ笑みが零れた。


「ぷはぁっ! 気持ちいいですぅ!」


 フィアが勢いよく顔を出し、泳ぎながらリヴにちょっかいを出している。

 リヴは呆れつつも、楽しそうに返していた。


 俺も遅れて飛び込み、しぶきの中で彼女たちに追いつく。

 プールの水は思った以上に温かく、体を包み込むように心地よかった。


「えいっ!」


 アイリスが両手で水を掬い、容赦なく俺にぶつけてきた。


「やったな、こいつ!」


 俺もアイリスにやり返そうとすると、そこにフィアも加勢して大騒ぎになる。

 そんな姿を、リヴと近藤が笑いながら眺めていた。


 しばらく遊んだ後、隣のリラックスプールに移動する。


「ここは……あったかいんですね」


 リヴは水流に身を任せ、目を細める。

 リラックスプールの柔らかな水流が、まるで温泉のように体をほぐしてくれる。


「ふぅ……なかなかじゃない」


 アイリスも髪をかき上げ、肩を沈めてリラックスしていた。


「うひゃー! 泡がくすぐったいですぅ!」


 フィアはバブルの出る席に陣取り、むず痒そうに体をよじっている。


「楽しいね、鷹見くん」


 俺のそばで、長い黒髪と肢体を濡らして近藤が微笑みかける。


(……こんなに可愛い女の子の水着姿に囲まれるなんて、贅沢すぎる状況だよな、これ)


 俺は、自分の中に生まれる邪な感情とうまく向き合えず、戸惑っていた。


 楽しいガトーキングダムの一日はまだ続く。

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