新たな力は植物呪文 二人の王女の呪文を使いこなせ
今日から新学期だ。
8月は末に近づいているが、まだ空気には夏の匂いが濃く残っている。
「おはよー」
正門の脇で誰かが友人に手を振る。返ってくるのは夏休み前と変わらない調子の声。
校内であちこちに見られるのは、日焼けした生徒達の談笑。
語られるのは、一夏の思い出。
「勉強、勉強で大変だったよ」
「マジ? 中山と付き合ったの?」
誰もが、夏休みの間に少しだけ成長したのだ。
「新しく王女様が増えたって?」
数日ぶりに会う近藤にアイリスの事を教える。今後は一緒に戦う仲間なのだから。
「うーん、リヴちゃんをほったらかしにしたらダメだよ?」
やはり近藤から見ても二重契約のことは気になるようだ。
俺もどうかと思うが、破棄するわけにもいかないのだからどうしようもない。
リヴのことは蔑ろにはしないと伝えて、近藤も一応は安心したようだ。
「今日の放課後が楽しみだよ。どんな子かなあ?」
彼女に、一筋縄ではいかない女とだけ先に伝えておいた。
───
「アイリス・ロゼリアよ。よろしくね」
模擬戦の前に、近藤とアイリスは初めて顔を合わせる。
近藤に初めて見せる顔は、俺たちの前と同じ素の態度であった。
「近藤の前では猫を被らないんだな」
「これから何度も顔を合わせるのに、そんなことしてられないわよ」
まあ、あの態度が近藤に有効かと言えば微妙だとは思うが。
「よろしく、近藤千早です。アイリスちゃんかぁ、可愛いねぇー」
近藤は初対面でアイリスに好感を持ったようだ。
「あんた、なかなかわかってるじゃない。フィアの騎士とは聞いてるけど、あたしのこともちゃんと守りなさいよ」
「うん、任せて。これからよろしくね」
そして、模擬戦が始まった。
俺はアイリスの騎士として慣れるために、彼女の鎧に身を纏って剣を振るう。
この装備には盾があったが、ガントレットがない。
リヴの騎士として戦う時のように、力任せに押すことができない。
それならリヴの装備で戦う方が有効だとは思う。
しかし、アイリスにはリヴともフィアとも違った呪文がある。
一つ、ネルトプラ。先の戦いで見せたように、樹の根を自在に操る術。
そしてもう一つ、トプラジス。樹の壁を出現させ、相手の攻撃を防ぐ術。
戦況によっては、アイリスの呪文が有効となることもあるかも知れない。
それを使うためには、彼女の剣を使って攻める必要があるのだ。
今後はどちらの呪文が有効かを見極めて、二つの装備を使い分ける必要がありそうだ。
「……ふう、今日はこれくらいにしておくか」
「千早、あんたなかなかやるじゃない」
「ありがとー。アイリスちゃんの呪文も凄いねぇ」
アイリスと近藤。こいつらの相性は悪くなさそうだ。
近藤には誰とでも仲良くなれる才能がある。
剣の腕だけじゃなく、そういうところも尊敬に値する。
「鷹見くん、アイリスちゃんって凄く良い子じゃない」
「近藤は凄いな」
「何それ」
彼女が無邪気な笑顔を見せた。




