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二人の王女の騎士としてのこれから

 札幌駅から少し離れたホテル街。そこに停まったバスから、蓮たちは降車した。


「……長い。北見から札幌って遠いわ! こんなに遠いなんて聞いてないわよ!」


「……相変わらず尻が痛いですぅ……」


 フィアが疲れた顔で降りてくる。アイリスは機嫌が悪い。

 リヴも不満こそ口に出さないが、疲れているのは目に見えて明らかだった。


「それじゃ、ここからは地下鉄に向かうぞ」


「まだ着かないの!?」


「地下鉄に乗れば10分もかからないぞ。少し歩くけどな」


 アイリスを宥めて、蓮たちは地下鉄で円山へ向かう。


 バスから降りて30分も経った頃、俺達は自宅へと戻ってきた。


「帰ってきましたぁー。もうクタクタですぅー」


 フィアはようやくと言わんばかりに安堵の声を上げる。

 アイリスは自宅と周囲の住宅街をしげしげと見ている。


「……庶民にしてはなかなか良いところに住んでるじゃない。ボロ小屋だったらどうしようかと思ったけど、これなら合格をあげてもいいわ」


「そりゃ、ありがとうよ」


「あんたの両親にはなんて話を通したの?」


「……両親は、海外にいて今いないんだ」


「そう」


 アイリスの服の裾を引っ張り、フィアが小声で呟く。


「……お前にここでのルールを教えてやるです。あいつに家族の事は聞くなです」


「何よそれ」


「いいから言うことを聞けです」


「お前ら中に入らないのか?」


 蓮の先導に合わせて、アイリスたちは中に入る。


「中も悪くないわね。あたしはどこの部屋を使えばいいの?」


「父さんが使っていた仕事部屋が余っている。ここを使ってくれ」


 アイリスが案内された部屋は2階にあり、難しそうな本が詰まった棚と机だけのシンプルな部屋だった。


「狭いわ。もっと広い部屋はないの?」


「うちの個室はどこも変わらないぞ」


「……仕方ないわね。ところでベッドが無いようだけど?」


「ここは元々寝る部屋じゃないからな。客人用に布団があるからそれを使ってくれ」


「えー、また布団? あたしに床で寝ろって言うの?」


「お前は床で寝るのがお似合いですぅ」


 フィアもアイリスも北見では大人しく布団を使っていたが、不満だったのか?

 蓮は二人の言葉に、ちょっと不快感が湧いた。


「馬鹿にするなよ。日本の文化だぞ」


「フィア! あんたの部屋はどうなってるのよ! あたしと交換しなさい!」


「やーですぅー」


 三人が揉めている中、リヴが手を挙げて意見した。


「あの、僕の部屋をアイリスさんに渡しましょうか?」


 確かにそれなら丸く収まるのかも知れない。だが蓮は首を横に振った。


「リヴ、いいんだよ。最初に譲るとこの先もずっとそうなっちまうぞ」


 リヴをやんわり諭した後、アイリスに向き直る。


「ベッドは後日用意してやる。それまでは布団を使ってもらう。決定事項だ」


 アイリスは不満そうだが、蓮は引かない。


「別に布団に格を表す意味は無いし、昔の日本人は偉い人もみんなこれを使ってたんだぞ」


 これ以上は無駄なことを悟ったのか、アイリスはそれ以上抵抗しなかった。


「ベッド以外にも必要なものは用意してやる。あんまり高いもんじゃなかったらな」


 少し揉めたがこの話はこれで終わりだ。

 だが蓮にはアイリスにまだ聞きたいことがあった。


「二人とも席を外してくれるか。こいつと少し話がしたいんだ」




「話ってなんですかね? 説教ですかね?」


「そういうのじゃないとは思うけど」


 リヴ達が居間に移動し、書斎に残ったのは俺とアイリスだけになった。

 

 先に口を開いたのはアイリスだった。


「何よ話って。そんなにあたしと二人きりになりたかったの?」


「お前、なんで俺と契約したんだ? 王女二人に騎士が一人って、不便じゃないか?」


 王女に専属の騎士がいないのは、どう考えても戦いにくいと思う。


「そんなこと? 決まってるじゃない。戦い慣れた騎士が欲しかったからよ」


 アイリスは続ける。


「あたしにも騎士がいたけど、みんなやられちゃったわ。戦い抜くには当然新しい騎士が必要になる。でも周りが傍に置いているのは既に経験を積んだ騎士。よっぽど強い相手を見つけないと、すぐにやられちゃうのは明白じゃない」


 アイリスの言葉には確かに一理ある。強い騎士を探すのは簡単なことではないだろう。


「あたしがあんたを見つけたのは偶然じゃないわ。あたしが襲われた時、近くに他の王女がいる事は気づいていた。そして前日既にあんたには会っている。一か八かだったけど、あんたがいる事に賭けて逃げてきたのよ。そしてあたしは賭けに勝った」


 アイリスの目は、まっすぐに俺を見つめている。


「あんたの戦いぶりも見せてもらったわ……あんたなら、あたしのための強い騎士になる。そう思ったから契約したのよ」


 アイリスの考えはわかった。それでも俺は、彼女の期待に応えられるとは思えない。


「俺は……二人を同時に守れるほど強くない。なら、俺がリヴを優先するのは目に見えてるじゃないか」


 それでもアイリスは、自信を持って答える。


「いいえ、あんたはあたしを守るわ。あたし、人を見る目には自信があるもの」


 彼女の人を見る目とは、どれほどの信頼性があるのだろうか。


「……このアイリスちゃんを前にして無視できる男なんているわけないじゃない。あんたの目がさっきから胸元をチラチラ見てるのは、気づいてるのよ」


「なっ……」


 不意を突かれて、俺の顔は赤くなる。


「あはは! これであんたの弱みを一つ握ったわね。言いふらされたくなかったらしっかりあたしのこと守りなさい。いいわね?」


「……わかったよ。できる限りはやる。でも期待外れでも文句言うなよ」


「文句ぐらい言うに決まってるでしょ。あんたはあたしの騎士なんだから、泣き言は許さないわよ」


 また厄介な相手を抱える事になっちまった。

 ……でも、一応は俺のことを信用しているらしい。そう思われているなら、悪い気はしなかった。


「ところで、なんで最初に会った時と態度が違うんだ?」


 最初は礼儀正しく清楚な子だと思ったのに、今ではフィアとは別の意味で扱いにくい。


「ああいう方が男は好きじゃない。あんたのおじいちゃんもわかりやすかったわね」


 確かにあの時のじいちゃん、孫の俺よりもアイリスを可愛がっていたんじゃないか?


「じゃあ何で今はそうしないんだ?」


「だってあんた、ああやって助けを求めても煮え切らないんだもの。強く言ってやった方がいいのかと思って。そう言う趣味の男もいるじゃない」


「……俺はそんなんじゃない」


 深く考えた事はないが、ノーマルのはずだ、多分。


「あらそう。あたしもこっちが素だから、取り繕わなくていいなら助かるわ。それともやっぱりああいうのが良かった?」


「そのままのお前でいい。嘘をつかれてるみたいなのは、嫌だ」


 何か変なことを言っただろうか。アイリスはキョトンとした顔をしている。

 でもすぐに何かに満足したように笑顔を見せた。


「やっぱり強く言われるのが好きなんだ」


「違う!」




 話を終えた俺たちは居間へと戻ってきた。


「あっ、出てきやがったですぅ。何話してたですか?」


「これからについて、ちょっとな」


「アイリス様、あなたの騎士として忠誠を誓いますなんて言われちゃったわ」


「デタラメ言うな」


 リヴの顔を見ると、動揺している様子が見られる。


「二人の王女の騎士として、やれるだけはやるって言ったんだ。リヴ、お前を蔑ろにする事は無いから安心してくれ」


 リヴはほっとした顔をしている。ったく、リヴを不安にさせるんじゃねーよ。


「そういうわけだから、これからはあたしもあんた達と一緒に戦うわ。あたしの足を引っ張るんじゃないわよ」


「新参者が生意気ですぅ……先輩を敬え、ですぅ」


 やれやれ。こいつなりのコミュニケーションなのはわかってるが、もっと上手くやれないもんかね。


 やっぱり猫を被っている方がマシかも知れない。

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