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東の旅の終わり これからは三人の王女と共に

 カーリング場の入り口に、じいちゃんの車がやってきた。

 この後は一緒に昼飯を食べに行く予定だったのだ。


「お待たせ蓮ちゃん……あれっ? その子も友達かい?」


「……うん。カーリングで意気投合しちゃって。この子も札幌に帰るって言うから、それまで一緒に行動しようって。今夜泊めてあげてもいいかな?」


「アイリスって言いまーす。おじいさん、よろしくお願いしまーす」


 猫を被っているアイリスに、フィアが噛み付く。


「なにかわい子ぶってるですか! 気味が悪いからやめるです!」


「何それー? フィアちゃんひどーい」


「だからそれをやめるです!」


「フィアちゃんどうしたんだい? そんな酷いことを言ったらアイリスちゃんが可哀想じゃないか」


 うん。じいちゃんからすれば当然そう言うしかないよな。


「ジジイは騙されてるです! こいつはこんな顔して本当は性悪なんです!」


「フィアちゃん。ジジイなんて酷い言葉使っちゃダメだよ?」


「ムキーっ!」


 諦めろフィア。お前が何を言っても無駄だ。

 リヴも苦笑いして二人を見守るしかないようだ。


 しかしアイリス、本当に俺たちについてくるのか……?




 遡ること三十分前。


「な、何やってるですかお前!」


 フィアの戸惑った声は、誰もがその行動を予想だにしていなかったことを表していた。


 不意にアイリスは、俺の左手に指輪をはめてきた。


 それは王女と騎士の契約を意味する。

 つまり俺が、この子の騎士として戦うということだ。


「こいつはリヴと契約してるですよ! なんでお前も指輪をはめるですか!」


 フィアの言う通りだ。

 普通は既に別の王女と契約している騎士と、更に自分とも契約させようなんて考えないだろう。


 だがアイリスは悪びれない。


「別に一人の騎士が複数の王女と契約してはいけないなんてルールはないはずよ」


「そんなの屁理屈です! 認められる訳ありません! 契約は無効ですぅ!」


 リヴと顔を見合わせる。彼女も戸惑った顔をしている。

 

 どうなってるんだ。俺は本当にアイリスの騎士としても戦わなきゃいけないのか?


「フィアの言う通り、この指輪って有効なのか? 俺はリヴと契約してるんだぞ」


「あたしのために戦うと、強く念じてみなさいな」


 アイリスの言う通り、彼女の騎士として戦うイメージを持つ。


 白と水色の鎧が光と共に、青緑と黄緑色の鎧に変わった。


「ね? ちゃんと契約されてるでしょ。というわけでこれからはあたしのために働きなさいよ」


「……いやいや、ちょっと待て」


 俺は慌ててリヴのために戦うと強く念じた。

 すると鎧は見慣れた白と水色のものへと戻った。


 良かった。リヴとの契約が上書きされたわけではないようだ。


 つまり、二重に契約されている。

 俺はリヴの騎士であり、アイリスの騎士でもあるということのようだ。


「……リヴ、これでいいのか?」


「……蓮さんは僕の所有物というわけではないですし、契約がそうなるのであれば、それに従うしかないと思います」


 そうは言っても、リヴもすんなりと納得しているわけがない。

 内心、複雑ではあるはずだ。


「あんた達札幌に住んでるんでしょ? 帰る時は当然あたしもついて行くから。部屋もちゃんと用意しなさいよね」


 強引で、気がつくと彼女にペースを握られている。

 こうして、俺たちの仲間として新たにアイリスが加わったのだった。


───


 俺たちはじいちゃんたちに食事をご馳走になる。


 昼は塩焼きそば。

 生産量日本一の北見玉ねぎと、オホーツク海で獲れたホタテを使った、文字通り塩で味付けされた北見のグルメだ。


 そして夜は焼肉。

 北見では北海道開拓時に寒さとスタミナ不足を凌ぐために焼肉文化が根付いており、人口比に対し焼肉店の数がとても多い。

 タレに漬け込んだ肉を炭火で頂くのが北見流だ。

 

 目の前でジュウジュウと音を立て、炭の匂いが鼻をくすぐり食欲を誘う。


「遠慮せずたくさん食べなさいね」


「いただきまーす」


 ばあちゃんがトングを使って肉をどんどん並べてくれる。


 油に反応した鉄板が、小さな火柱を上げる。

 立ち上った煙が俺の顔にかかり、咳き込んでしまった。


「煙はいい男に寄っていくっていうから」


 ばあちゃんのよくわからない迷信でフォローされている間に肉は焼き上がり、みんなの口へと次々に運ばれていく。


「おいしーい」


 アイリスが頬に手を当て、わざとらしく感想を言って見せる。


「アイリスちゃんもめんこいねぇ。なんでも好きなもの食べなさいね」


「ありがとうございまーす」


 アイリスがにっこりと微笑む。じいちゃんはデレデレだ。


(こいつ……ほんとに俺たちの前と随分態度が違うな)


「騙されてるですぅ……ジジイもババアも騙されてるですぅ……」


 フィアがオレンジジュースのコップを両手に、ボソボソと呟く。


「蓮ちゃん、明日帰るんだろ?」


「うん。明日のバスで札幌に戻るよ」


「またいつでも遊びに来てな。ほれ、焼けたぞ」


 ばあちゃんが渡してくれた肉を皿で受け取り、食べる。


 今日も戦闘になり、生き残った。疲れた体に肉が染み渡る。


 焼肉を堪能していると、隣でリヴがにこやかに微笑んでいることに気がついた。


「どうした?」


「いえ。なんだか、温かいなあって」


「暑いか? 少し火を弱くするか」


「いえ、大丈夫ですよ」


 リヴの笑顔を見ていると、なんとなく照れ臭いと思ってしまった。


「リヴもどんどん食べろよ」


「ありがとうございます」


 肉を勧めて、自分の感情を誤魔化した。


───


「じゃあ蓮ちゃん。気をつけてな」


「うん、ありがとう。お世話になりました」


 俺に続いて、三人の王女もじいちゃんとばあちゃんにお礼を言う。


「またいつでも来るんだよ」


 じいちゃんは北見バスターミナルで俺たちを車から下ろした後、帰って行った。


 時刻よりも少し早く札幌行きのバスが到着し、順番に乗り込む。


 アイリスの為に急遽取った席は、元々予約していた三列シートからは離れた位置になってしまった。

 アイリスはそれで構わないと言ったが、除け者にしているようで気が引けたので、俺がそこに座ることにした。


 新しく彼女を加えて、三人は上手くやっていけるのだろうか。


 フィアは見ての通りだが、リヴも内心どう思っているのか……。

 不満を表に出さない奴だから、俺がしっかり目を配っておかないと。


「リヴ、あんた今までどれくらい戦ってきたの?」


「えーっと、今まで戦ってきたのは……」


 アイリスも彼女なりに溶け込もうと努めているように見える。

 きっと俺たちは上手くいくさ。そう信じている。




 自宅に向かう車内で、蓮の祖父母は彼らを話題にしていた。


「蓮ちゃん元気そうで良かったなぁ」


「見ていて、安心しました。またお友達も一緒に来て欲しいですねぇ」


「しっかし蓮ちゃん。見ないうちに随分モテるようになったんだな。しかも美少女ばっかり」


「そうですねぇ」


「……羨ましい」


 祖父がボソッと呟く。そしてそれを祖母は聞き逃さなかった。


「……おじいさん?」


「あ……いや……」


 北見の旅が終わり、舞台は再び札幌へと戻る。

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