背後には三人の王女 呪文の援護は頼れない?
カーリング場の近くにあった広い競技場で、俺たちは向かい合う。
「名乗りを上げましょう。わたくしの名はペトラ。グランシュタイン国の王女です」
「フェリオン国のアイーゼだよ」
「クリュスタ国のリヴです」
「エクレール国のフィアですぅ」
二人に続いて、例の少女が名乗りを上げる。
「あんた達には名乗ってなかったわね。ロゼリア国の王女、アイリスよ! あたしの足を引っ張らないように気をつけなさい!」
アイリスはまるでリーダーのように俺たちに檄を飛ばす。
「なんでお前にそんなこと言われなきゃならんですか! やっぱりこんな戦いやめるですぅ!」
「もう遅いわよ。前見なさい! 来るわよ!」
騎士が二人同時に襲いかかってくる。三人の王女を守るため、俺は盾を構えて前に出る。
左から迫る剣を盾で弾き、右からくる剣を剣で受け流す。
どうやら俺を倒してからこっちの王女を狙うつもりらしい。
騎士の数で勝るとはいえ、三人の王女の呪文を一度に受け止める無謀は犯さないか。
守勢に回っていては相手の思う壺だ。多少の危険は承知の上で、攻める!
「おおっ!?」
俺の剣は盾で受け止められる。しかし相手は衝撃を受け流せず体勢を崩す。
これがガントレットによる力の差だ! このまま押し切る!
「ストルス!」
ペトラの杖先から、俺目掛けて石つぶてが放たれた!
「ミルナス!」
しかしそれは、俺の後方から走った雷光によって粉々に砕かれた。
「サンキュー、フィア!」
「フィアにかかればこんなもんですぅ」
危ない。呪文にも気をつけないとな。
(蓮さんが前に出てくれて騎士の進行を防いでくれている。僕らも自分たちにできることをやらないと)
蓮を前線に置いて、三人の王女たちは戦況を見つめ、戦術を練るべく互いの確認を行っていた。
「フィア、魔力の溜まりはどう?」
「千早がいないから、溜まりが悪いですぅ。シルミルナなら相手を動けなくできるのに」
近藤さんがいない以上、フィアの呪文にはあまり頼ることはできない。
「アイリスさん、あなたは?」
「あたしも同じよ」
「お前も呪文で援護しろですぅ!」
フィアが詰め寄ると、アイリスさんはそれを鼻で笑った。
「あんた馬鹿ぁ? あたしが呪文を温存してるから向こうは迂闊に手を出してこないのよ。騎士がいないのに、あたしも魔力を使い果たしたらその均衡は簡単に崩れる。少しは頭を使いなさいよ」
「ムキー! フィアのこと馬鹿にするなですぅ!」
でも、この人の言うとおりだ。
フィアもアイリスさんも呪文を使えなくなったら、向こうの騎士は狙いを僕たちに定めるだろう。
アイリスさんは、あえて呪文を使わないことで相手の動きを制限しているんだ。
「向こうの王女はどんな呪文を使うんですか?」
「グランシュタインの王女は、今見た通り石を操る呪文を使うわ。そしてもう一人は鉄を操る呪文を使うの」
その時、僕の杖が魔力の充填を完了した。ソルブレイドが唱えられる。
「リヴって言ったっけ? あんたもここにいなさい。あんたに動かれると、ここの守りが薄くなるわ」
「……でも、それじゃ蓮さんが」
「あんたの騎士なら善戦してるじゃない。一対二だって言うのに、なかなかやるわね」
改めて前線にいる蓮さんを見つめる。
確かにアイリスさんの言う通り、蓮さんは強い。呪文の援護が無くても互角以上に戦っている。
もしかして、このまま勝ち切れる? いや、そう簡単にいくとは思えない。
そしてペトラとアイーゼもまた、虎視眈々と戦況を見守っていた。
「……向こうはなかなか動きを見せませんね」
「魔力を早々に使い果たしてくれたら楽だったのに。そのような愚は犯さないか」
「騎士も、こちらが数で勝っていると言うのに攻めあぐねていますね。ガントレットの力ですか」
彼女達にとって蓮が持つガントレットは未知。
だが二人がかりで有利を取れない以上、それが原因であることは容易に想像がついた。
「でも、騎士で勝るということは、呪文の手数でも勝るということ。攻めてこないならこっちからいくよ!」
アイーゼが自分の騎士に向かって杖を掲げる。
「ルドメトル!」
そして呪文を唱えると、騎士の体が黒く染まり、鈍い輝きを放った!
「へへっ、待ってたぜ」
(強化呪文!? それとも……)
蓮は臆さず剣を叩き込む。だが相手は防御姿勢を取らない。
剣が勢いよく黒く輝く体に触れた次の瞬間、それは強く弾かれてしまった。
「無駄だぜ! 今の俺にそんな攻撃は通じない!」
(鋼鉄を叩いたみたいだ! 体を硬くする呪文か)
ガントレットによる強化も意味を為さない。
それを知った相手は、防御を捨て強引に攻撃を繰り出してくる。
ここにきて、人数の差が明確に不利を作った。
「くっ!」
「ああっ、蓮さん!」
「どっ、どうするですか!」
そんな状況を、リヴとフィアもこのままでは……と感じ始める。
アイリスも考え込んでしまった。
「あれは……流石にまずいかしら」
「呑気なこと言ってる場合じゃないですぅ!」
「二人とも、僕が前に出る! 蓮さんを助けないと!」
リヴは蓮の元へ駆けて行った。
「……仕方ないわね。あいつがやられたら、その時あたしたちは終わりだもの」
「お前の言うとおりにしてたら不利になったです! どうしてくれるですか!」
「うるさいわね! じゃあ後先考えずに魔力を使った方が良かったっていうの!?」
後ろで言い争いが起こっていることも構わず、リヴは前進する。
騎士を一人封じることができれば、その瞬間形勢をこちらに傾ける事ができるはず。
「蓮さん!」
だが次の瞬間──
「リアティラド!」
ペトラの呪文によって、突如辺りを地響きが襲った。
リヴは耐えられず、その場に尻餅をついてしまう。
「うわっ……!」
轟音が大地を裂く。
蓮と敵の周囲に円を描くように亀裂が走り、瞬く間に地面が崩れ落ちた。
出来上がったのは、直径数十メートルの孤島。
そこには蓮と敵だけが残された。
「何っ!?」
「これで騎士は孤立しました。王女の援護は受けさせませんよ」
「そんな……」
大きく口を開けた大地を前に、ただリヴは呆然と立ち尽くすしかなかった。




