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家族との溝 触れられぬ少年の過去

「たくさん食べてね」


 おばあさんが、注文したお寿司の他、汁物や手作りの煮物を出してくれた。


「フィアちゃん、卵焼きが好きなの? 俺の分もやるから食え」


「ありがとですぅ」


 おじいさんからもらった卵焼きのお寿司にフィアはご機嫌だ。お二人によく懐いている。

 僕もとてもよくしてもらって、恐縮してしまう。


 煮物は味がしっかり染みていて、どこか優しい味がする。

 こんなところにおばあさんの人柄が出ている、と思った。


 食事が済みかけた頃、おばあさんが切り出した。


「蓮ちゃん、お母さんとは連絡取ってるのかい?」


 空気が、重くなった。

 今まで和やかだった蓮さんの表情が、一瞬で沈んだのが分かった。


「……取ってないよ。どっちからもろくに連絡なんてしないし」


「……本当に、しょうがない子だよ。蓮ちゃんはこんなにいい子なのに……」


 しょうがない子、というのは、おばあさんの子供のことなのだろう。

 つまり、蓮さんのお母さん。


「ごめんねぇ、バカな娘で」


「その話は、いいから」


 蓮さんがこの話をはっきりと拒絶しているのがわかる。


「一人じゃ寂しいし、不便だろう? 前にも言ったけど、ここに引っ越してきたっていいんだよ?」


「いいって。札幌には友達がいるし」


 蓮さんは、僕の方をチラリと見た。


「……寂しくなんかないから。大丈夫だよ」


───


 お風呂をいただいた後、部屋にはすでに僕とフィアの布団が敷かれていた。


 時計の針は既に23時を過ぎた。隣ではフィアが既に寝息を立てている。

 僕は、考え事をしてまだ眠れなかった。


 ここには僕の知らない蓮さんがいる。

 小さくて、可愛くて、家族に囲まれて笑っている彼。


 それはきっと特別なんかじゃない、どこにでもあるはずの幸せ。


 だけど、それを蓮さんは既に失った。


 家族とは離れて暮らして、連絡も取っていない。

 蓮さんはもう諦めてしまっている。本当はお母さんと話がしたいはずなのに。


 一体何があったんだろう。


 蓮さんの両親と弟さんは、海外で一緒に暮らしているらしい。

 なんで、蓮さんを置いて家族は離れたんだろう。

 なんで、蓮さんは付いて行かなかったんだろう。


 ──本当に、しょうがない子だよ。蓮ちゃんはこんなにいい子なのに……。


 原因は、きっとご両親にある。蓮さんが悪いとは思えない。


 何があったのか気になるけど、聞くことはできない。

 それはきっと彼を傷つけるから。


───


 朝の食卓に並ぶのは、鮭の塩焼きに昨晩も出た煮物。それに沢庵と味噌汁。

 リヴは器用に箸を使って美味しそうに食べている。

 フィアは特別に焼いてもらった甘い卵焼きをフォークで刺して口に運んだ。


「今日遊びに行くんでしょ?」


「うん」


 俺は味噌汁を啜りながら、おばあちゃんに返事をする。

 せっかく北見に来たのでリヴ達を案内してやるつもりなのだ。


 しかし北見は観光地と呼ぶには物が少ない。

 札幌になくて北見にはあるという物がほとんど無いのだ。


 唯一と言っていいのは、カーリング場くらいか。

 過去に初のカーリングメダリストが誕生したことを機に、出来上がったのだ。


 今日はそこに三人で遊びに行く。俺も行くのは初めてだった。


 俺たちを乗せたじいちゃんの車は、しばらく国道を走った後、細道に進入していく。

 そこには住宅街に溶け込むように、カーリング場があった。


「終わったら呼んでな」


「ありがとうじいちゃん」


 車から降りた俺たちは、自動ドアを抜け、スリッパに履き替えて中に入る。

 ロビーは広々としており、奥には壁のように大きな窓と、それを見守るように並べられたベンチが目につく。


 窓の奥には白い氷面が広がっており、特徴的な二重円が記されている。

 あそこに石を近づけることで得点を獲得できるのだ。


 掲示板にはポスターの他、ルールが貼りつけられている。

 メジャーな競技とは言い難いため、初心者への配慮が行き届いているようだ。


 ロビーの一角にはオリンピックで使用された道具が飾られており、隣にはメダリスト達を称えるブースが存在している。


「予約していた鷹見ですが」


 俺たちは貸し出されている道具を受け取り、靴を履き替え氷上に立った。


 さあ、初のカーリング体験の始まりだ。

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