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祖父母の優しい顔 自然の優しい景色

 札幌駅から出発したドリーミントオホーツク号。

 北見市の名産であるミント色の車体が、北海道の東に向かって走る。


 札幌を離れると、道路以外にあるのは山と森。

 北海道は街を離れると数十キロはこのような景色が続く。


 今日は晴天で、空に広がる青が気持ちが良い。


 3列に並ぶシートでリヴとフィアは隣同士おしゃべりをしながら、蓮は通路側でスマホをいじりながら到着を待つ。


 フィアは最初こそ絶えずリヴに話しかけていたが、次第に元気がなくなり大人しくなってしまう。


 2時間の走行の後、バスはパーキングエリアに停まり10分間の休憩に入る。


「トイレ行くなら行っておけよ」


「もう疲れたです!一体いつになったら着くですか!」


 フィアは不機嫌になっている。


「半分くらいだから、後2時間半かな」


「遠すぎます!もうバスに乗るのも飽きたです!」


「フィア、わかってたことでしょ。もうちょっと頑張ろう」


 リヴは荒ぶるフィアを宥めようとする。


「北海道は広いですね。クリュスタよりも大きいです」


「リヴの国はどれくらいの大きさなんだ?」


「多分、北海道の1/5くらいだと思います」


「大きければいいってもんじゃないですぅ……」


 フィアが疲れた顔で愚痴をこぼした。


 バスは再度出発し、目的地を目指す。


 景色は木々の他に、たまに民家が点在している程度で変わり映えがない。


 横の2人が静かになったので蓮が覗いてみると、寄り添いながら静かな寝息を立てている。


 昼に近づく頃、高速道路を降りたバスはいくつかの田舎町を抜け、やがて大きな街に入る。

 札幌には遠く及ばないが、国道沿いにいくつもの店舗が並んでいる。


 更に走ると大きな建物が増え、ついに北見駅に到着した。


「着いた。降りるぞ」


「やっとですか。お尻が痛いですぅ……」


 フィアは大袈裟にお尻をさすっている。


 順番を待ってバスを降り、駅を後にする。


「もう待っててくれてるはずだけど……」


 蓮が周囲を見渡すと、あそこだと顔を向ける。

 その方向には、2人の老人が手を振っている。


「蓮ちゃん、お疲れ様。おっきくなったねー」


 2人とも優しそうな笑顔を蓮に向ける。しわしわの顔に更に皺が増えた。


(この人達が、蓮さんのおじいさんとおばあさん)


 白髪が歳を感じさせるが、姿勢がしっかりしており、元気そうな雰囲気を受ける。


 おばあさんの方は蓮さんと顔の雰囲気が近い。

 と言うことは、きっと蓮さんはお母さん似なんだ。


「その子達が言っていた外国のお友達かい?」


 おじいさんが僕達に反応する。


「2人ともめんこいねー」


「めんこい……?」


 聞き慣れない言葉にどう反応すれば良いか迷ってしまう。


「可愛いって意味だよ」


 蓮さんが教えてくれた。田舎の方言ということか。


「北海道弁だから札幌でも使う人はいるぞ。でも、若い人はあんまり使わないかな」


 確かに、蓮さんが訛っているのは聞いたことがない。


「昼を過ぎてるから、ご飯食べに行こう。その後墓参りだ」


 僕達は、おじいさんの運転する車で駅を後にした。


 10分もせずにファミレスに着く。

 店の中は若い人、歳をとった人それぞれで、そこそこ賑わっている。


「蓮ちゃんもお友達も、好きなもの食べなさい」


 おばあさんがそう言って先にメニュー表を渡してくれた。


「これと、これと……これも頼むですぅ」


 フィアはハンバーグランチに加え、デザートを2つ、更にドリンクバーまで注文した。

 それを2人は何も言わずにこやかに見守ってくれる。


「そっちのお友達も遠慮しないでね」


 ここは遠慮する方が失礼なのだろう。

 僕は野菜と黒酢の唐揚げ膳の他、ブルーハワイのかき氷をお願いした。


「お友達はどこから来たの?」


「2人ともアメリカだよ」


 以前フィアが南極と答えて空気がどよめいたことを思い出してか、蓮さんは僕達が声を挟む間もなく代わりに答えた。


「日本語が上手なのねー」


 毎回言われる。ただ魔法の力で意思疎通できているだけなんだけど。


 料理が届いた。

 手を合わせて頂きますと言うと、丁寧なのねと褒めてもらえた。


 日本に来てから数ヶ月。箸の使い方にはすっかり慣れた。

 フィアは慣れる気がないのか、毎回フォークかスプーンだけど。


「ごちそうさまでした」


「足りるかい?他に注文してもいいんだよ?」


 ご年配の方が若い人にたくさん食べさせようとするのは、こっちの世界も同じなんだ。


 昼食を終えた僕達を乗せた車は、市内の坂道を進む。


 住宅街を抜けた丘の上に、石柱が無数に並ぶエリアがあった。

 きっとあれが日本のお墓なんだ。


「着いたよ」


 車から降りたおばあさんはタオルが入ったバケツを、おじいさんは何かが入っているらしい紙袋を車の後ろから取り出した。


 蓮さんが代わると申し出ると、おばあさんがありがとうと言って荷物を手渡す。

 僕も持たせて欲しいと頼んだのだが断られてしまった。


 石柱はどれも、土台を除けば僕より少し小さいくらいの大きさだ。

 南無阿弥陀仏等、よくわからない文字が彫られたお墓も多い。


 周囲を眺めながら、先を行くおじいさんとおばあさんに着いていく。


 立ち止まった先のお墓には、藤村家先祖代々、と彫られている。

 これが蓮さんのご先祖様。ということは、蓮さんのお母さんは藤村さんだったんだ。


 蓮さんは水の入ったバケツでタオルを絞り、お墓を丁寧に拭いていく。

 僕も頼んで一緒にやらせてもらった。フィアは相変わらず遠巻きに見ているだけ。


 おじいさんは何やらとても細い棒の先に火をつけ、そこから煙が昇るようになると土台に刺して立てた。

 それがお墓の左右に2本。

 そして果物を添えると、僕達は両手を合わせて静かに目を閉じた。


(ご先祖様、いつも蓮さんを見守ってくれてありがとうございます)


「一緒に手を合わせてくれてありがとうね」


 僕はこちらこそありがとうございます、と言った。


 荷物を回収してお墓を後にする。


 振り返ると、丘の上から北見の街が一望できた。


 いくつもの建物の奥には、緑の山。空には透き通るような青。

 札幌のような都市ではないけれど、自然と融合したような優しい景色。


 まだこの街のことはよく知らない。

 けれど、僕はここが好きだ。

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