母の田舎は東 お盆は王女たちと墓参り
北海道の夏休みは本州に比べて短い。
8月の下旬になる前に終わってしまう。
代わりに、雪が降る冬休みは本州より長いのだが。
蓮の夏休みは、あと10日を切っていた。
「もうすぐお盆だな」
「なんですか?お盆って」
「先祖の墓参りをする時期なんだ。俺も毎年やってるよ」
(ご先祖様にしっかりと敬意を払う。さすが、蓮さんはこういうところもしっかりしている)
「お前らの国にも似たようなもんあるのか?」
「お墓参りもありますが、亡くなった人に対しては教会で祈りを捧げるのが一般的ですね」
「フィアの国は、カーニバルをやります。この世に帰ってきた幽霊を賑やかにもてなすのですぅ」
僕は、実はフィアの国に行った事はない。
会いに来てくれるのは、いつもフィアの方だった。
彼女の国のイベントも、一度は見てみたいと思った。
「お墓は近くにあるんですか?」
「いや……北見って言って、ここからだと4、5時間はかかる場所なんだ」
「随分遠くにあるんですね」
「……母さんの、田舎なんだ」
蓮さんが自分から家族の話をするのは珍しい。
だが、あまり深く語りたいわけでは無いことも伝わってきた。
「じゃあ、僕らはその間どうすればいいですかね?」
「それなんだけど……俺がいない間に戦闘になったら大変だろ?だから、少なくともリヴは一緒に来たほうがいいと思うんだ」
その通りだ。蓮さんが連れていってくれるなら、ぜひ一緒に行きたい。
「フィアはどうする?」
「もちろん一緒に行くです!フィアも連れてけですぅ」
「流石に近藤は誘えないぞ?あいつもこの時期は家族と過ごすからな」
札幌を離れても戦闘になる可能性がある。
近藤さんがついて来れないとなると、あまりフィアの呪文には頼れないということだ。
「千早が忙しいなら、なおさら行くです。せいぜいフィアのことを大事にしろです」
「わかった。じゃあお前らはホテルだな」
「泊まるんですか?」
「流石に日帰りはきついぞ。俺はじいちゃんの家に泊まるから」
蓮さんのおじいさん。蓮さんにも、仲良くできる家族がいたんだ。
僕は自分のことのように嬉しくなった。
同時に、会ってみたいとも思った。でもわがままは言いたくない。
「離れてる間にフィア達が襲われたらどう責任取るですか?お前もホテルに泊まれですぅ」
「えっ?……うーん」
蓮さんは難しい顔をして考え込んでいる。
「……じいちゃんとばあちゃんは、俺が家に泊まると思ってるからさ、ホテルに泊まったら不自然だろう?」
「だったらフィア達もそこに泊めろです。何かあったらちゃんとお前が戦えですぅ」
僕達も蓮さんと同じ家に泊まる。できるならそうしたい、けど。
「うーん、部屋はあるだろうけど、お前らのことなんて説明したらいいんだよ」
「フィアの下僕になったと言えば良いです。ご主人様だと紹介しろですぅ」
「ふざけんな」
僕らが蓮さんとどういう関係かを説明したら、一緒におじいさんの家に泊めてもらえる。それなら。
「……恋人、とか」
不意に、僕の口からそんな言葉が溢れた。
「…………」
沈黙。
言った瞬間、2人とも驚いた顔で僕を見ている。
失言をした、と後悔が押し寄せてくる。
やっぱり変だよね。僕なんかが蓮さんとそういう関係だなんて……。
「恋人……恋人かぁ……」
蓮さんがますます難しい顔になった。
ごめんなさい。撤回しますから僕の事嫌いにならないで。
「……リヴはそれで良いのか?」
「えっ?何がですか?」
「俺とお前が、恋人って」
「えっ……だめだと思います」
「いや、お前が言いだしたんだぞ!?」
ああ、そうだよね。僕が言いました。
「ダメに決まってます!お前がリヴと恋人だなんて、冗談でも許されないですぅ!」
ああ、フィアから見てもそう見えるんだ。
そうだよね。僕なんかが蓮さんとそう見せるなんておこがましいよね……。
「うーん、あとは友達、くらいしか」
良かった。友達としては認めてもらえるんだ。
「でもただの友達を、わざわざ墓参りに連れて行くかあ?……そうだ!」
蓮さんが何かを閃いたらしい。
「前に近藤が言ってたよな。お前らは道場に通う外国人の子供だって」
確かに言っていた。海水浴で蓮さん達の友人に紹介してもらう時に。
「お前たちは日本の文化に興味がある。お盆にも興味を持って、俺に着いてくる。これだ!」
なるほど、筋が通っている。さすが蓮さん。
「……まあ近藤の家ならともかく、俺についてくるのはやっぱり変だけどな。遠いし。でもじいちゃん達も、そう説明されてそんなわけないとは言えないだろう」
1番の問題は解決した。
こうして、僕たちは蓮さんと共に北見市へと向かうことになった。
(良かった。僕が変なことを言ったことは有耶無耶になったみたいだ)
リヴがそう胸を撫で下ろす一方で、心をかき乱された少年がここに一人。
(……リヴがあんなことを言ったのは、理由が必要だったからだ。変な勘違いするなよ、俺)
お互いがこの時何を思っていたか等、彼らは知る由も無かった。




