王女たちとの花火大会
「お待たせー」
ドアを開けて現れたのは、浴衣姿の三人の美少女達。
今時の浴衣は一人でも簡単に着れるらしいが、それでもリヴ達には大変だと思い、近藤に手伝ってもらったのだ。
「3人とも、よく似合ってるな」
「ありがとー」
「もっと褒めろですぅ」
近藤が着ているのはピンク色の薔薇の浴衣。可愛らしさと綺麗を両立している。
フィアが着ているのはひまわりの浴衣。いつも元気なイメージに良く合っている。
「あの……変じゃありませんか?」
リヴが着たのは、白地に青い紫陽花の浴衣。
涼しげで、大人っぽくもあり、リヴのイメージとも良く合っている。
「全然。リヴのために用意された浴衣って感じだよ」
「……ありがとうございます。蓮さんも、かっこいいですね」
俺が着ているのは、グレーの生地にストライプが入った浴衣。
元々は私服で出かけるつもりだったのだが、リヴがぜひと言うので自分の分も用意したのだ。
「それじゃ、出発しようか」
地下鉄からバスに乗り換え、目指すのはばんけいスキー場。
道中、浴衣姿の人に何人も会った。目指す場所は同じだろう。
時刻は十八時。真夏の陽はまだ完全に闇に溶けず、灯りを必要とはしていなかった。
会場は花火を楽しみに集まった人混みで賑わいを見せる。
いくつも並ぶ屋台からは、鼻をくすぐる匂いが立ち込めていた。
舞台の上では、見知らぬバンドが管楽器を吹き、会場を盛り上げている。
リヴもフィアも、浮き足だった様子でキョロキョロと周囲を眺めていた。
「これが、この世界のお祭りなんですね」
「リヴの国とは違うか?」
「そうですね。もっと静かというか、厳かで……皆が恵みに感謝するんです」
「フィアの国はもっと賑やかです! 歌とダンスで会場を盛り上げるのです!」
国によって風習が違うのは、リヴたちの世界も同じか。
「まだ花火には時間があるな。何か食べようか」
「フィアはチョコバナナを食べるですぅ」
思い思いに屋台を訪れ、空腹を満たす。
リヴは迷っている様子だったので、買って来たたこ焼きを渡してやった。
「……おいひい……」
熱々のたこ焼きを頬張り、口の中で転がす。
気に入ってもらえたようで良かった。
腹ごしらえが終わった後は、遊びの時間。
「ムキー! 全然当たらないですぅ!」
フィアが銃から放ったコルク弾は、全て的を素通りして落下した。
「これ、当たらないように仕組まれてるんじゃないですか?」
「おいおい、言いがかりは勘弁してくれよ」
店主が苦笑しながら頭を掻いた。
「次、あたしがやるよ」
そう言って近藤が構えると、放たれた弾丸はお菓子にぬいぐるみと、次々と的を撃ち落とした。
並んでいた他のお客さんが歓声を上げる。
「はいフィアちゃん。全部あげるよ」
「お嬢ちゃん、凄腕だね。これじゃあ商売あがったりだよ」
店主は降参といった様子で両腕を挙げた。
「蓮さん、あれはなんですか?」
リヴが気にする先で、水槽の中で大量の金魚が所狭しと泳いでいる。
「あれは金魚すくいだな。すくえたら持って帰ることができるんだ」
「かわいい……」
「やってみるか? 家で飼ってもいいぞ」
「いえ……やめときます。仲間から引き離しちゃったらかわいそうです」
リヴらしい、と俺は思った。
そんなこんなで適当に時間を潰していると、次第に空は藍色に染まり、その時間はやってきた。
賑わっていた会場は、期待を寄せるように静まり返っている。
ヒュー、と音が鳴り、一筋の光が昇っていくと、夜空で大きな破裂音が響き、輝く花を咲かせた。
「すごいですぅ……」
いつも騒がしいフィアも、この時ばかりは大人しく目を奪われている。
「綺麗……」
光に照らされたリヴの顔は、うっとりとしている。
その綺麗な横顔は、花火よりも俺の心を掴んで離さなかった。
「……どうしました?」
リヴがふわりと微笑んだ。
俺は恥ずかしくなって、なんでも無いと誤魔化すしかなかった。
「ほら、どんどん上がるぞ」
次第に打ち上げられる頻度が増え、空にいくつもの花火が輝く。
空気が振動し、重低音が肌に響く。
連動するムービングライトや音楽が、幻想的な世界を作り上げている。
それは、現代に存在する魔法なのかも知れない。
「こんなに綺麗なのに……なんだか切ないですね」
この日のために時間をかけて用意されたはずなのに、わずか数秒でその役目を終える。
いつか俺も、この花火のように役目を終える時が来るのだろう。
その時俺は、リヴの事を忘れる。
でも彼女は、俺のことを覚えていてくれるのだろうか。
合計一万発の夜空の花。
中にはスマホで録画する人も多くいた。
でも俺達は、誰もがそれを目に焼き付けていた。
やがて花火は終わり、祭りの後の静けさが訪れる。
さっきまでの喧騒が、嘘のように寂しさを感じさせた。
──でも、まだ夏は終わっていない。
明日から16時20分頃に更新します




