強者への心酔 鍛えあげた小さな体
「伊織ちゃーん」
「ちゃんづけやめろ! 俺は男だぞ!」
「伊織って女の子みたいな名前じゃん」
「伊織は、昔からある男らしい名前なんだぞ!」
「でもお前女みたいな顔じゃん。背も低いし」
生まれつきの女顔、そして低身長。昔から、自分が嫌いだった。
もっと男らしく生まれたかった。何度そう思ったことか。
でも、いつしか諦めていた。これが自分なんだって、受け入れるしかなかった。
──あの日までは。
「うぬら……そのような行為を働くなどと、恥を知れ!」
いじめられていた俺を救ってくれたのは、2mを超える女性。
いじめっ子は、その迫力だけで蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
憧れた。その圧倒的な体躯、そして強さに。
「羨ましいです。俺にも、あなたのような体格があればいじめられないのに」
次に彼女が言った言葉は、俺の人生を大きく変えた。
「違うな、体格など関係ない。うぬがいじめられるのは、弱いからだ」
「えっ……でも俺が弱いのは、体が小さいからで」
「うぬは強くなるために何をしたのだ? 体格を言い訳にし、何もしてこなかったのではないか?」
何も言い返せない俺に、彼女は言葉を続ける。
「戦うことを放棄した人間は人間に在らず! 媚びに生きて何が人間だ!」
手を出されていないのに、殴られたようなショックを受けた。
いじめっ子の拳なんかより、よっぽど痛かった。
俺は甘えていただけなのかも知れない。強くなろうと願えば、強くなれるんだ。
俺はボクシングのジムに入った。
すぐには変われないかも知れない。でも昨日よりは強くなろう。
そんな日々を繰り返していると、いつしか俺をいじめる者はいなくなっていた。
「ユリアさん……あなたのおかげで、俺強くなれました!」
彼女は、優しく笑いかけてくれた。
「我は強者を求めておる。そなたにはその資格がある。来るか? 共に高みへ」
俺は指輪を取り、彼女の騎士となった。
共に並び立った騎士もいた。でも残ったのは俺1人。
俺が敗れれば、ユリアさんを守る者はいなくなってしまう。
絶対に、負けるわけにはいかない!
(我は信じておるぞ。そなたがこのまま簡単に終わる男ではないことを──)
蓮が敵にとどめを刺そうとした、その瞬間。
伊織の両腕が光り始めた!
そこに宿ったのは、蓮が身につけているものと同じガントレット。
振り下ろした剣は、銀と薄いピンク色で輝く前腕によって受け止められた。
「これは……?」
伊織は体勢を立て直すと、もう一度ファイティングポーズを構える。
(力がみなぎって来る……)
コンビネーションを組み、左腕によるジャブ、そして右腕による渾身のストレート。
「うおおおっ!」
バキイィンッ!
呪文と装備によって強化された剛腕は、蓮の盾をついに粉々に砕いた。
(まずい、このままじゃ……)
蓮は両手で剣を構え攻撃するが、軽快なフットワークに翻弄され、剣は届かない。
対して相手の攻撃はこちらの防御をすり抜け、蓮の芯を捉えてくる。
「ぐっ……!」
このままでは蓮が敗れるのは、時間の問題だった。
「蓮さん!」
「うぬの相手は、我だ!」
リヴの前にユリアが大きな体で立ちはだかる。
それは山のようで、蓮への援護を許さない。
(ソルブレイドは破られた。おそらくフィズラスも通用しない)
それでも、今できることを必死に考える。
「──ソルブレイド!」
再度、リヴの杖から冷気の剣が伸びる。
ユリアはそれを受け止めた。彼女の体は再び凍りついていく。
「愚かな! 我には通じぬとまだわからぬか!」
一喝と共に、またもユリアを覆った氷結は弾け飛んだ。
だがリヴの狙いは別にあった。
(あなたにソルブレイドが通じないのはわかっている。でも)
「一瞬の隙をついて、あなたを突破することはできる!」
「何っ!?」
リヴはユリアの横をすり抜け、蓮の元に向かう。
あの騎士にソルブレイドを防ぐ術はない。彼さえ封じれば、勝機はある。
(また俺を凍らせるつもりか。見え見えなんだよ!)
ボクサーである伊織にとって、リヴの動きを制することなど容易い。
1度は不覚を取ったが、2度目は無い。
(そっちの攻撃をかわして、カウンターを食らわせてやる!)
伊織の目はリヴを正面に捉えた。狙いは杖の先端で輝く宝玉。
(これで、終わりだ!)
伊織が仕掛けようとした瞬間、リヴの姿が視界から消える。
(消えた!? いや違う!)
リヴはスライディングによって伊織の横へ滑り込み、両脚にソルブレイドの斬撃を見舞った。
伊織の下半身は、みるみる凍りついていく。
「うあああっ……!」
身動きが取れなくなった背中の宝玉に、リヴの杖が叩き込まれる。
「えいっ!」
「ああっ……!」
その一撃によって伊織の装備は砂と化して崩れていく。
(俺が、負けた……)
薄れゆく意識の中で、彼は願った。
「ユリアさん……勝ってください……!」
騎士としての装備は失われ、そのままダウンする。
テンカウントは必要なかった。




