蜂のような攻撃と野獣の剛拳
「良い。慣れておる」
拳王……じゃなくて王女ユリアは、怒る騎士を静止した。
「そちらも名乗りを上げよ」
威厳ある声に呼応するようにリヴのネックレスが輝き、ティアラとドレスへと姿を変える。
「クリュスタ国の王女、リヴです」
俺も慌てて騎士としての姿に変わった。
相手の騎士は盾を持っているが、ガントレットは身につけていない。
ならば、こちらが有利に立ち回れるはずだ。
……負けられない。
「行くぞ!」
──速い!
小柄な騎士が地を蹴り、一瞬で間合いへと踏み込んできた。
ジャブのように繰り出される刺突を、俺は盾でいなす。
反撃を試みるが、すぐに下がられてしまい届かない。
軽やかにステップを踏み、こちらに的を絞らせない。
敵は蜂のように素早く、鋭く刺すように剣を振るってくる。
一撃は重くない。だが、目にも止まらぬ速さだ。
一瞬たりとも気を抜けない。
(何とか、力勝負に持ち込められれば……!)
「ルドバルカ!」
ユリアが野太い声で呪文を唱えると、彼女の体が光り始めた。
(何の呪文だ?)
次の瞬間、ユリアもまた俺目掛けて間合いを詰める。
一瞬、ソルブレイドで凍りついた敵を想像した。
(ああいう呪文だったら、まずい……!)
だが、回避する暇も無い。
俺が盾を構えると、なんとユリアは拳を握り、大きく振り抜いた。
「ぬおおおおっ!」
盾に響く途轍もない衝撃。
重い!騎士の剣よりも、はるかに!
俺の足は押され、後方へと滑っていた。
(格闘を強化する呪文?)
まさか2人がかりで襲いかかってくるとは。
俺の剣では捌ききれない。
だが──
(いいのかよ? 宝玉がガラ空きだぜ?)
敵の呪文は、ソルブレイドのように一発で動きを封じるものじゃない。
相手は左手で杖を握りしめたまま、接近戦を仕掛けてきた。
それなら遠慮無く宝玉を狙う。この剣、防ぎ切れるか?
だがユリアは臆さず、剣に向かって拳を振り抜いた。
(おい、危ないぞ!)
だが、もう剣は止まらない。相手の拳と交差する。
ギインッ!
次の瞬間、力負けしていたのは俺の剣の方だった。
(ウッソだろ?)
まるで鋼を打ったような感触。
まさに彼女の拳は、鋼鉄のように化しているのだ。
体勢を崩したその隙を、相手の騎士は見逃さない。
鋭い剣が俺に迫る。
(まずい、やられる──)
「ソルブレイド!」
今度は俺を援護に来たリヴの魔法剣が、相手の剣と交差する。
「何っ!?」
そこから凍結が始まり、咄嗟に相手は剣を手放した。
(よくやったリヴ! これで奴の剣はもはや使い物にはならない!)
「やあっ!」
リヴはそのままユリアの体にも切り掛かる。
いかに肉体が強化されていようとも、呪文による効果までは防げない。
彼女の体も、みるみる凍りついていく。
2人とも戦闘不能にした。
これで勝負ありだ!
「ぬぅ……おおおおおおおっ!」
バリバリバリッ!
ユリアの体が大きく震えたと思うと、体を覆っていた氷は爆ぜるように四散した。
残ったのは、何一つ支障のない鋼の肉体だけ。
(マジかよ!? なんでもありかこいつ!)
「あっ……!」
リヴの杖の先から、冷気の剣が消失する。
接近戦の強みが失われてしまった。
「下がれリヴ! 後ろから援護してくれ!」
リヴを庇うように、俺は王女と騎士の2人に対峙する。
「ルドバルカ!」
今度は相手の騎士の体が光り始めた。
剣を持たない腕でファイティングポーズを取りながら、間合いを測ってくる。
ジャブ、ジャブ、そしてストレート。
その拳は、剣を振るうよりもさらに速い。
(こいつ、ボクサーか!?)
威力はユリアの拳ほどではない。
だが、それでも俺を守勢に回らせるには十分だった。
さらにユリアも加わり、2人がかりの攻撃を受ける。
「蓮さん!」
一つ、二つ、細かい亀裂が盾に走り始める。
このままでは、持たない!
(こうなったら、こうだ!)
俺は正面に盾を構えたまま、敵の騎士に突進した。
そのまま激突する!
「うわっ……!」
一回りの体格差。
相手は衝撃に耐えきれず、後方に吹き飛んだ。
(ここしかない!)
俺はそのまま追いかけ、相手の左胸の宝玉を狙う。
「伊織!」
ユリアが叫ぶも、援護は間に合わない。
これで終わりだ!




