新たなる敵は美女と野獣?
8月初頭。外では真夏の太陽が照りつける。
俺はクーラーの効いた快適な部屋で、リヴとテレビを見ていた。
ワイドショーが、この夏に開催される花火大会の特集を行っている。
「花火ってなんですか?」
花火を知らない日本人はいないだろうが、知らない人に説明するのは意外と難しい。
咄嗟に口が動かなかった俺はスマホを手に取って確認をする。
「……火薬や金属の粉末を使って、綺麗な火花を出すんだ。夜にやるのが一般的だな」
「へえ……」
リヴが興味深そうに聞いている。
「テレビでは夜空に打ち上げているけど、個人で遊べるちっちゃいやつもあるんだ。夏の定番って感じだな」
「そうなんですね」
俺は再びスマホで調べ物をする。ちょうど今日は札幌で花火大会をやる日のようだ。
「今日の夜、見られるぞ。夜になったらフィアも連れて見に行くか」
フィアは今ここにいない。プールに出掛けているのだ。
俺達や近藤が付き合うこともあったが、フィアは1人でも連日遊びに行っている。
「あの人が着ているのは何ですか?」
「あれは浴衣って言って、日本の民族衣装ってやつかな。夏祭りなんかがあると着る人がいるんだ」
花火大会があるなら、リヴに着せてやるのも良いかもしれない。
「せっかくだから買いに行くか」
「えっ……わざわざいいですよ」
「いいから。俺が見てみたいんだよ」
リヴの遠慮を無くすために、俺のためにと理由づけをした。
彼女は少し恥ずかしそうにしながら、そういうことなら……と納得してくれた。
街中でフィアとも合流して買い物に行こう。
あいつがいつまで遊んでるかわからないから、喫茶店でも行って時間を潰すとしよう。
───
駅前に着き、フィアにはすでに連絡を入れたが返信はない。
「どこかで冷たいものでも頼んで待つとするか」
「蓮さん、近くに王女がいます」
一瞬で緊張が走る。
市内では久しぶりの邂逅。まだ潜んでいたのか、それとも市外から来たのか。
「近づいているのか?」
「はい、まっすぐこっちに来ています」
気づいていないふりをしてやり過ごすことはできないか。
「正面からです」
「……まさかあいつか?」
迫っているのは、金色の短髪を逆立てた筋骨隆々とした大男。おそらく2mを超えている。
近くには160cm程度の黒いショートヘアの少女。
彼女が王女で、あの男が騎士なのか。
2人は俺達に近づくと目の前でぴたりと止まり、少女が口を開いた。
「……君達2人だけかい?俺達もそうなんだ。勝負してもらえるかな?」
俺の意識は王女ではなく、隣の大男に向いていた。
鋭い眼光は野獣のようだ。それが真っ直ぐに俺に向けられている。
「……我らとうぬら、騎士の数は同じ。雌雄を決しようではないか」
(……うぬ!?)
なんだようぬって。こいつ世紀末覇者か何かか?
声が野太ければ、顔も凄い濃い。
こいつと戦うのか?俺が?
「逃しはせぬぞ。ここは人が多い。場所を移そうではないか。ついてこい」
そう一方的に告げると大男はくるりと背を向け、歩き出す。
その背中は、男なら誰もが畏怖と憧れを抱きたくなるほど逞しかった。
「戦いは避けられない、か」
俺はリヴと顔を見合わせ、頷く。覚悟を決めるしかない。
───
辿り着いたのは豊平川の河川敷。すでに何度か戦闘を行った場所だ。
周囲に人はいない。俺達は2対2で向かい合っていた。
俺たちはかつてないほどの緊張感に包まれる。
何人もの騎士と剣を交え、明らかな格上もいたが、あいつ程の威圧感を持つ奴はいなかった。
今の俺にはガントレットがあるが、どこまで通用するか……。
「では、始めよう……楽しませてもらおうか」
(……来る!)
目の前の2人は光に包まれると、その姿を変え──
少女は騎士の姿に、大男はピンクのドレス姿に変わった。
「……」
俺は目を擦り、状況を理解しようとする。
騎士の姿に変わったのは、黒髪の少女、だと思っていた存在。
じゃあ大男だと思っていたのは……。
「……あんたが王女?じゃあ、こっちが騎士?」
「そうだ。我こそはノーススター国の王女、ユリアである!」
「そっちかよ!」
脳がバグったような感覚に襲われる。
理解が追いつかないが、なんとか平静を保とうとする。
「おい、何か文句あるのか?俺が騎士で彼女が王女であることが」
「あ、いや……」
高い声で俺を非難するのは、王女だと思っていた彼女。いや、彼?
ものすごく失礼なことを言ってしまったと思った。
見た目で人を判断してしまうなんて、俺はダメなやつだ……。
……。
いや、無理があるだろ!




