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指輪が語る運命 黙って日常には戻れない

 ───蓮、全国テスト、昴はまた全国一位よ? 兄弟で何でこうも出来が違うのかしら?


 ───昴、全国優勝おめでとう! 蓮は……道内で準優勝? そう……。


 ───蓮、お前は何だったら昴に勝てるの? お兄ちゃんなのに恥ずかしくないの?


 もう、やめてくれ。俺が弟に劣っているのはわかっているから。


 不出来な兄でごめんなさい。期待に応えられない息子でごめんなさい。


 だからお願いだ。昴、母さん、そんな目で俺を見ないでくれ!


 


 叫んだ先に、弟と母はいなかった。


 目の前に広がるのは、見慣れた天井。

 カーテンから漏れる朝日が、一日の始まりを伝えている。


「………チッ。久しぶりに嫌な夢を見ちまった……」


 * * *


 次の日、彼は普通の日常に戻っていた。


 始まるのは可も不可もない、及第点の一日。


 だが、教室に入ると様子がおかしい。何やら周りから見られている気がするのだ。


(何だよ……俺、何もしてないよな?)


 朝のホームルームの時間になると、担任が壇上に立ち語り始める。


「えー、昨日のニュースを見た人もいると思いますが、うちの学校で人命救助を行った人がいます」


(へえ、人命救助ね。そんな立派なやつはどこのどいつだ?)


 他人事のようにそれを聞いていると──


「鷹見! お手柄だったぞ。よくやったな」


 教室中の視線が俺に集まり、ざわめきが一際大きくなる。


「……あっ」


 ここで俺は昨日、自分が行ったことを思い出した。


 踏切で眠ってしまった酔っ払いの救助。


 それは昨日の夜ニュースとなり、荒い防犯カメラの映像に映っていた男は鷹見ではないか?という話題がクラスLINEを流れていたらしい。


「これから表彰を行います。鷹見、前へ」


 ドアを開けて、警察官と鉄道会社社員、そしてカメラマンが一人ずつ入ってきた。


「あなたの勇気によって一人の命が救われました。その行為を讃え、これを贈ります」


 壇上の上で警察官から賞状を受け取る姿がカメラに捉えられ、それはこの日の夕方、地元紙に掲載されることとなった。


「線路の上は危険です。もし人が入って動けなくなっていたら非常ボタンを押してくださいね」


 無茶も、しっかりと咎められることになった。


「鷹見くん、すごいね」


「別に……大したことじゃねーよ」


 近藤の声に、蓮は少し照れながら謙遜する。


 その日、彼は学校で時の人となった。


 クラス中から称賛の声。


 いや、クラスや学年が違う生徒からも声をかけられた。


「鷹見すごいじゃーん。怖くなかったの?」


 クラスで最もカーストの高い女子からも話しかけられた。


 彼女の名は、南條美咲。


 ギャルっぽい見た目だが、その整った顔立ちは誰もが認める美少女。誰とでも分け隔てなく話せる性格もあって、男女問わず人気が高い。


(あんまり目立ちたくないんだけどな……)


 これを機に彼のクラスでの立ち位置は、地味で何を考えているのかわからない奴から、地味だがやる時はやる奴、という評価に変わった。


 カーストは底辺から中程度には上がり、話しかけられることが増えた。


 だが彼の頭をよぎるのは、周りの賞賛ではなかった。


(なんだったんだ……あいつらは……)


 線路での命がけの救出劇が霞むほどの出会い。


 王女を名乗る少女は、魔法を操った。


 昨日の出来事は、まるで幻。


 しかし薬指で光る指輪が、あれは現実であったということを思い出させる。


 あれだけ傷んだ体は、一晩休むとすっかり良くなっていた。


 そして今でも念じれば、鎧姿に身を包むことができるのだ。


 しかし、不思議な少女は目の前から消えた。


 このまま忘れてしまえば、何事もなかったかのように普通の人生を送れるのかもしれない。


 だが、あれほどの出来事を忘れることなどできるはずもなかった。


「……ところで、鷹見。そんな指輪つけてたっけ? 彼女にもらったの?」


「……いや……彼女なんていないよ」


 南條だけではない。他の生徒からも度々揶揄われた。


「鷹見、お前結婚したのかよ」


「んなわけあるか」


 この指輪は何かと誤解を招きかねない。しかし外そうにも外れないのだ。


(まさか俺の薬指は、一生このままなのか……)


 午後が近づく頃、彼への注目は薄れ、平凡な一日が戻ってきた。


 ありふれた退屈な時間。だが今日はいつも以上にそう感じる。


(刺激を望むなんて、俺らしくもない)


 だが脳裏には確かに、このままでいいのかという疑問が燻り続けていた。


(……もう一度あいつに会えないか? いや、指輪がこのままじゃ困るし……)


 本当に指輪が問題なのか?


 探そうにも彼女の手がかりなどない。だが、指輪は語りかけている気がした。


 お前の運命は、既に彼女と共にある──と。

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