勝利条件 王女の持つ宝玉を砕け!
「今の攻撃も、お前の宝玉を狙ってきたってわけか」
ようやく見えたこの戦いのルール。
お互いの宝玉を狙い、砕くことができた方の勝ち。それが叶えば、どんな劣勢からも一発逆転ってわけだ。
「宝玉を砕けるのは呪文か、王女の持つ杖か、騎士の剣だけです」
俺が宝玉を砕くためには、あの男を超えて行く必要がある。剣を届かせるのは困難だろう。
「リヴ、呪文はまだ撃てないのか?」
「一発だけ、いつでも撃てます」
「そうか……俺に考えがある……」
俺はリヴに、自分の考えた策を伝えた。
「どうだ、これで奴の宝玉を砕けないか?」
「それは……やってみないと、わかりません」
「賭けになるってわけだ」
それでも、もはやこれしか打つ手はないだろう。
俺は息を整え、近くに落ちた剣を取り、三度大男のもとへ向かっていく。
「リヴ! 俺の合図で呪文を放つんだ!」
チャンスは一度。再び奴から呪文が放たれる前に、隙を作る!
「こいよ、木偶の坊!」
「なんだと? 生意気なガキめ!」
俺は再度、剣の嵐の中に身を投じる。
だが、狙いは奴を倒すことじゃない。攻撃は最小限に留め、回避に専念する。一度限りの隙を引き出すために。
(……どうやら、向こうも呪文で私の宝玉を狙ってくるみたいね)
ジルは蓮の攻撃が明らかに変わったことに気づいていた。
剣で宝玉を狙われることはない。それなら、向こうの呪文が放たれるタイミングに気をつけていればいいのだ。
その時は、絶対にリヴに動きがある。それを見落とさなければ、回避するのは難しくない。
ジルの目が冷たく細められる。相手の策を見抜き、勝つのは自分たちだと確かな自信があった。
(岩田め……体格と経験を買って契約したつもりが、ただの喧嘩自慢の素人だったとは)
あの男は思ったほど頼りにならない。ジルは先を見据え、蓮の持つ指輪を見つめた。
(いつでも来なさい。あなたたちの攻撃が不発に終わった時が、最後よ)
蓮は剣を交えながら、わずかに敵を誘導し、動いていた。
リヴの呪文が通る射線を作るために。
あからさますぎてもいけない。わずかな隙が、勝敗を分けるタイミングだ。
そして───
「リヴっ!」
蓮の声に合わせて、リヴの杖先がジルを捉える。
(来るわね!)
ジルはリヴの動きから目を逸らさない。
しかし、次に彼女の予想しなかった動きがあった。
「おりゃあっ!」
蓮は、大男から一瞬距離を取り、なんと剣をジル目掛けて投擲した!
それは彼女の宝玉を狙うにはお粗末ではあったが、姿勢を崩すには十分だった。
「くっ!」
ジルは思わず大きく動いて回避する。剣は回転して横を通り抜けていった。
「フィズラス!」
今度はリヴの杖先から、ジル目掛けて氷柱が放たれる。
ジルは姿勢を崩してはいたが──
「……甘いわっ!」
これも避けられた。
(勝った! これで相手にはもう力は残ってない。私たちの勝ちよ!)
バキィンッ!
だが次の瞬間、ジルの右腕に強い衝撃が走る。
反射的にそこに目を向けると、彼女の目には砕けた黄色い宝玉が地に落ちていく姿が映っていた。
「……えっ……?」
どういうことだ。リヴたちの攻撃は確かにかわしたはずなのに。
ジルは何が起きたのかわからぬまま、その場に呆然と立ち尽くした。
「勝った……」
蓮の声が、遠くで聞こえた。
次の瞬間、大男が膝をつき、前のめりにそのまま倒れる。まるで、力を失ったかのように。
「一体何が起きたのですか……?」
呆けたジルに向かって、蓮が語りかける。
「あんたの放った石つぶてさ」
「……えっ?」
「砕けて、ちょうどいい大きさのがあったからな」
蓮は、呪文で宝玉を砕けるなら相手の放った石つぶてでも効果があるのではないかと考えた。
そこで手頃な大きさの石を懐に仕舞い、リヴの攻撃がかわされたタイミングを狙って投擲したのだ。
「投球には、ちょっと覚えがあるんでね」
蓮は、今まで鍛えてきた右腕を誇らしく眺めた。
「うわあああっ、負けた! そんなあっ!」
ジルは地に膝をつき、顔を歪めて泣き崩れる。
勝者と敗者は決まった。
蓮がようやく一息つこうとしたその時だった。
「くそっ、くそおおっ!」
ジルの体が、陶器が砕けるかのようにひび割れ、崩れていく。
「なっ……!?」
目の前の人間に起きた異様な光景に、蓮はたじろぐしかなかった。
最後に、ジルの体はドレスもろとも砂のように化し、消えてしまった。
「……どういうことだ。死んじまったのか?」
自分が殺したのか。まさか。
動揺する蓮に対し、リヴは平静に返す。
「元の世界に帰還したんです。死んではいませんから大丈夫ですよ」
「元の世界……?」
何が起こったのか飲み込みきれないが、死んだわけではないと聞いて蓮はほっとした。
最後の力が抜け、その場に座り込んでしまう。
蓮は倒れた大男に目をやる。宝玉が砕けたと同時に、奴も崩れ落ちていった。
リヴは大男に近づくと、その指に嵌められていた指輪を回収した。
「彼もじきに目を覚ますと思います」
王女は消え、騎士は倒れた。どうやらこれがこの戦いの終わりらしい。
安堵した瞬間、蓮は背中を走る激痛に顔をしかめた。
「くっ……」
彼の頬に、リヴが優しく手を添える。
「こんなに傷だらけになって……」
リヴはしょんぼりとした顔で項垂れる。
「ごめんなさい」
小さくそう言った後、そのまま俺に一礼し、その場を立ち去ろうとする。
「やはりあなたをこの戦いに巻き込むことはできません……蓮さん、ありがとうございました」
「お、おいっ」
蓮は体が動かず、彼女を追うことができなかった。
「ま、待ってくれ……」
そのままリヴは振り返ることなく、彼の前から姿を消した。




