王女と騎士 剣と魔法
「鷹見、蓮さん……」
背中でリヴの声を聞きながら、俺は目の前の男と対峙していた。
戦闘は素人だが、俺だって過去にはそれなりに運動経験がある。
何より指輪が俺に力を与えてくれている。やってやれないことはない。俺はそう考えていた。
(さて、どうするか……どうすればこの男を止められる?)
「いい気になるなよチビ。次は本気でやってやろう」
男は剣を右手から両手で握り直し、俺と距離を詰めてくる。
そして頭上へ大きく振りかぶった後に、力いっぱいに振り下ろす。
「食らえっ!」
その動きが俺には見えていた。
先程と同じように、それを自分の剣で受け止める。
だが───。
「うおっ!?」
想像以上に重い一撃。本気を出すと言ったのはハッタリではない。
俺はその衝撃に耐えられず、姿勢を崩してその場で膝をつく。
「うおおっ!」
間髪入れず、もう一撃。今度は防げない。
やばい、やられる───そう思った時だった。
「フィズラス!」
鋭い三つの氷柱が、男目掛けて襲いかかった。
「ぐわっ!」
それは再度大男に直撃し、後方へと弾き飛ばした。
振り返ると、リヴが男に向かって杖を構えている。
俺を庇うために、彼女が放ったのか。
「大丈夫ですか?」
「ああ……ありがとうよ」
これは、やはり魔法だ。
それ以外の言葉では説明がつかない。
「……痛えな、やってくれるじゃねえか」
大男は立ち上がり、再び襲いかかろうとしてくる。
(タフなやつめ……)
どうする。やはり俺に剣の心得なんてない。
考えがまとまる間もなく、風を切って男の剣が襲いかかる。
この大男が本気を出せば、俺はそれを受け止められない。
そう考えた俺は、後方に飛んだ。目の前で相手の剣が空を切る。
男は構わず再び剣を振る。俺はさらに後退し、かわしきった。
まともに受ければタダでは済まない連続攻撃。だが、ここまでの攻防で俺は理解した。
───こいつも、素人だ。
体格は確かにすごい。そこから発揮される力は俺の比じゃない。
だが、そのどれも大振りだ。達人の動きじゃない。
予備動作を見極めるなんて、スポーツでだって常識だ。素人の動きをかわすのは難しい話じゃない。
「ガキめ! 何人も喧嘩で倒してきた俺がお前なんかに負けるか!」
男はまたも大きく振りかぶって、縦に剣を下ろそうとする。
それを俺は見切って、横にかわした。
「ここだっ!」
俺は剣を振り切り、隙だらけの男に対し剣を突き立てようとする。
だが───。
「ストルス!」
俺目掛けて、再度勢いよく石つぶてが飛んでくる。
「っ! あっぶね!」
反射的に腰を落とし、手が届くほど低くかがむ。石はその上方を空気を割いて通り過ぎていった。
ドゴォオッ!
標的を失った石つぶては、轟音を立てて廃ビルの壁を崩してしまった。その威力に俺の顔は青ざめる。
(あんなの、当たったらひとたまりもないぞ……)
俺は大男の後方に立つ女を見る。
リヴと同じだ。構えた杖先は、俺に向けられている。
(魔法を使うのは、相手も同じ……)
この戦いは、一対一じゃない。二人で協力しなければ、勝てない。
「リヴ! 援護を頼むぞ!」
「……わかりました!」
俺を巻き込まないようにとしていた彼女も、覚悟を決めたのだろう。
ここからは、二人で力を合わせるんだ。
俺は再び、大男に向き直る。
奴の剣が迫り来る。相変わらずの大振り。俺はそれをかわし、今度こそこっちが一撃を叩き込む。
「おりゃあ!」
俺が放った横なぎの剣は、奴の腕を覆うグローブを切り裂いた。
「ぐっ、この!」
男は反撃の一太刀を繰り出す。それもかわし、再び一撃を加えようと試みる。
だが、今度は相手が引いてかわされてしまった。
今の敵の攻撃は振りが小さくなっていた。俺が攻撃を加えたことで、防御にも気が向いたってわけだ。
なら───
「リヴ!」
俺は彼女に援護を促す。
だが彼女は杖こそ構えているものの、先程のように氷柱を出さない。
(なんで援護しない?)
だが、もう一つ俺は気づく。向こうも石つぶてを放ってこない。
放てば俺を倒せるタイミングもあったはずだ。それをしないってことは。
(そう何度も使えるわけじゃないってことか)
この勝負、魔法の使いどきで勝敗が決まる!
「おおおっ!」
俺は大男との接近戦を続ける。
奴の攻撃はかわせる。だが俺の攻撃も決定打にならない。
俺は目の前の攻撃に集中しながらも、後方から飛んでくるはずの魔法への警戒を怠らない。
そして、相手が動きを見せた。
(向こうの魔法の方が早いか?)
ジルの杖先が動く。しかしその向きは俺を狙っていない。
狙っているのは───
「ストルス!」
今度はリヴ目掛けて石つぶてが放たれる。
(危ない!)
俺は咄嗟に、身を挺してそれを背中で受け止めた。
「があっ!」
まるで交通事故に遭ったような激しい衝撃。
俺は勢いよくそのまま吹き飛ばされてしまった。
「蓮さん!」
リヴが俺のもとへ駆け寄ろうとする。
もうダメだ───
───と思ったものの、なんとか俺の手は地面を押さえ、かろうじて体を起こすことができた。
「……うう……」
「蓮さん、大丈夫ですか!?」
「はあっ、はあっ……死んだかと思った」
敵の呪文を受けた箇所は鎧が砕けた。
身体中を襲う痛みは並じゃない。だが致命傷とはならなかったようだ。
「一回くらいなら、耐えられるってわけか……」
しかし次はないだろう。満身創痍なのは変わらない。
この痛む体では、あの大男の攻撃にも耐えられそうにない。
「リヴ、俺はもう長く戦えない……何かここから逆転する方法はないか?」
「宝玉を……」
「?」
リヴの持つ杖の先端には、それ自体が氷の塊のように淡く美しい水色の宝玉が取り付いている。
そしてそれは向こうも同じ。相手の杖にもトパーズのように黄色い宝玉が存在している。
その大きさは、ソフトボールと同じくらいだ。
「彼女の宝玉を砕くんです。それができれば、僕達の勝ちです」




