真夏の北海道 美少女たちと海水浴へ
「はあっ!」
俺の剣を、近藤が盾で受け止める。
衝撃を吸収しきれず、彼女は姿勢を大きく崩した。
隙だらけだ。だが俺は追撃をしなかった。
危険だからだ。
「はあっ、はあっ……すごいね、鷹見くん」
「……大丈夫か?」
「うん、平気だよ」
俺の両腕に宿ったガントレットは、俺の未熟な剣を戦力に昇華する新たな力だ。
それは剣を振るう力を増幅させ、王女の杖を砕き、騎士の剣や盾をも押し込み、呪文さえ切り裂いてしまう。
あれだけ手も足も出なかった近藤が、今や俺の剣で息を切らしている。
「強くなったね、鷹見くん。あたしなんかじゃ敵わないや」
(強くなった? 俺が?)
……違う、強くなったのは装備だ。俺は何も変わってない。
同じ条件で、剣に長けた相手とぶつかったら……負けるのは俺だ。
「千早をいじめるなです! またフィアの呪文を食らいたいですか?」
フィアの新呪文、【シルミルナ】は、相手を感電させて動きを封じる術だ。
盾を構えても防げない。何度か食らわされたが、めちゃくちゃ痛い。おまけに一瞬息ができなくなる。
盾を突破できるというのは、膠着状態を打破するのに有効だ。今後も頼りになる呪文だろう。
俺達は、難波さんという戦力を失った。
次の戦いは、さらに厳しいものになるかも知れない。
勝つためには、強くならないといけないんだ。
「明日から夏休みだね」
近藤がポツリと呟いた。
時期は7月。北海道は涼しいと思われるかも知れないが、それは誤解だ。
真夏は30℃を超える猛暑も珍しくない。近年は場所によっては40℃に近づくこともある。
本州に比べてマシなのは、湿度が低いことだ。
向こうの真夏はじめっとしていて疲れる。そこだけは北海道に住んでいて良かったと思う。
「蓮さん、休憩しましょう? 汗が凄いですよ」
リヴが用意してくれた麦茶を、みんなで飲み干す。
この時期は鍛錬するのが大変だ。
昔、真夏の体育館で必死にハンドボールの練習を行っていた事を思い出す。
リヴの額にも汗が滲んでいる。彼女の国も雪国だというから、この暑さは堪えるに違いない。
「リヴの国はこんなに暑くならないんじゃないか?」
「はい……クリュスタは年中寒いくらいですから」
暑さに耐えかねた彼女は、ふぅと息を漏らしながら胸元の布地を摘み、空気を送り込むように何度もパタパタと動かす。
それを見て、俺は思わず目を逸らした。
「暑いですぅ。海に行きたいですぅ」
「いいね、海。行こうよ」
フィアの希望に、近藤が同調する。
──こんなに楽しくって、良いんですかね……。
あの日の彼女の言葉が、俺の脳内で呼び起こされる。
俺はリヴに楽しい思い出を作ってやりたかった。
「そうだな、行くか」
札幌から海へは1時間ほどで行ける。日常から離れるには手頃な距離だ。
「おっ、乗り気ですね。そんなにフィアの水着が見たいですか」
「バーカ。何言ってんだ」
「海水浴なんて初めてです」
「リヴの国は寒くて泳げないのか?」
「そもそも内陸で海がありませんから。見たこともありません。温水プールならあるんですが」
「泳いだことが無いってわけじゃないんだな」
「……いえ、実はプールにも行ったことはないんです」
リヴはどこか寂しそうにしている。
「リヴ、こっちの世界なら好きなだけ泳げるです! フィアが教えてあげるです!」
「ありがとうフィア」
しかし、リヴもフィアもこっちの世界では水着なんて持っていない。買いに行かなきゃならないな。
「あたしも水着、新しくしようかな」
ならそれもみんなで行くとするか。俺も何年も水着なんて着ていない。
───
今日の気温は30℃。照りつける日差しとアスファルトの照り返し、加えて人の波の熱気で札幌駅は少し息苦しい。
「快速・小樽行き……銭函に行くのはこれで良いんだよな」
「うん、快速でもちゃんと銭函で止まるやつ。次に来るはず」
近藤に確認してもらいながら、切符を選ぶ。
今日の目的地は、銭函海水浴場。札幌から1時間もせずに着く。
リヴとフィアは、興味津々に駅のホームを見回している。
「危ないからラインより向こうに立つなよ」
快速・小樽行きが静かな音を立ててホームに入ってきた。
車体の銀色が、夏の陽光を反射して眩しい。
俺たちは並んで進行方向右側のボックスシートに座った。
ドアが閉まると、緩やかな加速と共に列車は動き出す。
窓を眺めていると、札幌のビル群が住宅街へ、そして緑へと切り替わっていく。
「わあ、車よりずっと速いですね」
「この前のジェットコースターとどっちが速いですかね?」
2人の王女にとって、この世界にはまだまだ新鮮なものが多いようだ。
「お菓子あるよー。何食べる?」
近藤はガムやグミなど、小物をいくつか用意してきたようだ。
我先にとフィアが手を伸ばす。遠慮がちにリヴもグミを受け取り、小さな口に一粒放り入れる。
「甘い……」
幸せそうな顔を見て、こっちも嬉しくなる。
俺もペットボトルのお茶をグビリと喉に流し込んだ。
そんなふうに電車で過ごしながら1時間。
「あっ、海が見えてきたよ」
近藤の声で、みんなが一斉に窓の方を見る。
札幌の住宅街を抜け、工場や自然の隙間に僅かに青い景色が覗けている。
やがて水平線と波打ち際がはっきりと見えてきた。
「あれが……海……」
リヴは観覧車の中で見せた時と同じ顔をしている。
「もうすぐ着くぞ。楽しもうな」
「はいっ」
───
先に着替えを終えた俺は、砂浜に出た。
青い空。照りつける日差し。熱を帯びた白い砂に、波打ち際で歓声を上げる子どもたち。ビーチボールを追いかけるカップル。
まさに夏の海って感じだ。
目を細めて空を見上げた。まぶしくて、目を開けてられない。
心はどこか、落ち着かなかった。
もうすぐ水着姿の女性陣が来るんだ。
「お待たせー!」
元気いっぱいの声と共に、3人が姿を現す。
フィアの水着は、明るめのレモンイエローのシンプルな2ピース。
お腹は丸出しで、生意気な顔も相まって挑発的だ。
「ふっふーん、どうですかフィアの水着姿は。好きなだけ見てもいいですよ」
「子供のくせにマセた水着だな」
「ムキー! なんて事言うですか! 失礼なやつです!」
怒るフィアを適当にいなして、リヴの方に目をやる。
彼女が身につけるのは、淡い水色の肩付きトップとスカート風ボトムス。
水着からすっと伸びた手足と白い肌が美しい。彼女の澄んだ雰囲気にぴったりだった。
胸元に手を添えて、やや気恥ずかしげに立っているのも、なんだか妙に可愛らしく見える。
「少し、恥ずかしいですね……こういうの」
リヴが顔を赤くしてつぶやく。
「派手じゃありませんか……? フィアが選んでくれたんですけど」
リヴの趣味ではないわけか。それでも。
「よく似合ってるよ」
「あ……ありがとうございます」
そしてトリを飾るのは──近藤。
「遅れてごめん。着替えに手間取っちゃって」
紺のフラワー柄トップに白のビキニボトム。
上はひらひらとしたフリルで可愛らしさを演出しつつ、豊かな胸のラインがしっかりと浮かび上がっていた。
加えて腰のくびれ、脚のスラッとした伸び、日焼けのない健康的な肌。
女性の美をそのまま切り出したかのような完璧な肉体だ。
「それじゃ、行こうか」
近藤が皆を誘導する。
普段は服で隠れるたわわな果実に、思わず目がいく。
(でっか……)
それは視覚への暴力。角度によって違った姿を見せ、見ていて飽きがこない。
「千早のことジロジロ見過ぎです! このすけべ!」
「なっ……み、見てねーよ!」
俺は慌てて目を逸らした。
「あははー、好きなだけ見ていーよ」
俺はとてつもなく恥ずかしくなった。
(あんまり見すぎると嫌われる……気をつけないと)
そんな俺の気配を、3人はそれぞれ違う思いで受け止めていた。
(……鷹見くんも、男の子だねー)
(生意気なヤローです。フィアの可憐さで吠え面かかせてやるです!)
(近藤さん、スタイル良い……蓮さんってああ言うのが好きなんだ……)




