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目指せ全国 主人公は誰だ

 北海道に梅雨は無い。本州が雨季にさらされる中、札幌は20℃を超える日が増え、夏の始まりを感じさせていた。


 校舎の窓が全て開け放たれ、グラウンドからは土と汗の混じった匂いが流れ込んでくる。

 各運動部が迫る大会に向けて懸命に練習に励み、放課後の校内はどこも騒がしい。


「俺達、全国に行けることになったんだ」


 そんな中、突如サッカー部に所属する隅田が、確信に満ちた声で不可解な主張を始めた。

 まだ地方予選すら始まっていないはずだが、何を言っているんだこいつは。


「これを見てくれよ」


 隅田が得意げに見せてきたのは、トーナメント表。

 一見、特に変わったところは見られない。


「2回戦の相手を見てくれ」


 指で示された先に書かれていたのは──札幌山田高校。


 それは北海道高校サッカーの絶対王者。

 俺達の旭山高校が一回戦を勝ち抜けば、次に当たるのはシードのそこだ。


 全国大会の常連で、現在道大会を5連覇中だと言う。

 こんなところと早々に当たるとは、くじ運が悪いとしか思えない。

 それなのに全国に行けるとは、どういう意味なのだろう。


「わからないのか鷹見」


 まるで俺が間違っているような目を向けて、隅田は力を込めて語る。


「2回戦で強豪に当たるって言うのはな、全国出場の王道ルートなんだよ!」


「……はい?」


 言っている意味が、まるでわからない。


「いいか、まず一回戦で主人公の高校は順当に才能の片鱗を見せる。ここでみんなが、ただ者ではないと思うんだ」


「主人公ってなんだよ」


 思わず口を挟んだが、隅田は一切気に留めず主張を続ける。


「そして2回戦では強豪と当たる。ここでは奴らに敵わない。だが後半、主人公は一矢報いて、奴らに強烈な印象を残すんだ」


「……全国に行けるんじゃなかったのか?」


 夏の大会、終わってしまったぞ。


「本番は次の大会だ。夏の大会が終わった後、俺達の前に現れるのは新たなコーチ。その経歴は、元日本代表だ!」


「……あ~、そういう展開あるある」


 俺はこの辺りで、隅田が何を言いたいのかを理解した。


「俺達は雪辱を果たすため、コーチの元で地獄の特訓に突入する。それをやり遂げた俺達は、新生チームで秋の大会に臨む」


 一息ついて、隅田は言葉を続ける。


「一回戦は、まあまあのチームと戦うことになる。データを集めて相手を解析し、我々の勝つ可能性は98%とか言いだすんだ」


「今時そんなベタなやついるか?」


 俺のツッコミもどこ吹く風で、隅田の妄想は続く。


「だが猛特訓をやり遂げた俺達の敵じゃない。『こんなのデータに無い!』とか言って負けていくんだ」


「データ型が勝ったところ、俺は見たことないな」


 そもそも噛ませ犬の為に用意されるようなキャラだからな。


「2回戦、3回戦、この辺はダイジェストだ。『俺達は順当に勝ち進んだ』とナレーションで済ませることも多い」


「ダイジェストて」


 もはや試合時間という概念すら無い。


「俺達は準々決勝まで勝ち上がる。ここで会うのが旧友だ。『準々決勝で会おう』と言って去っていく。だがしかし」


 ここで隅田が、わざとらしく溜めを入れる。


「新たな強敵登場! 旧友を打ち破り、準々決勝で当たるのはこいつらだ!」


「出た、噛ませで敵の実力を大きく見せるパターン」


「だが心配するな! 俺達にも新たな仲間が加入! それは怪我から復帰した実力者!」


「大体一人はいるんだよな」


「そしてそいつが美味しいとこ持っていって勝利! ただし今後は大事なところで、スタミナ不足を露呈して役に立たないから注意だ!」


「あるある」


 無駄に具体的なのが妙に腹立たしい。


「ついに来た準決勝! 立ちはだかるのは、2mの巨人!」


「スポーツ漫画だと絶対出てくるやつ」


「俺達はその長身に苦戦させられるが、突破口を開くのは身長に恵まれないチームメイト。巨人はそいつらを侮るが、その驕りを突かれて敗北するんだ」


「感動するなあ」


 俺の言葉に感情はこもっていない。


「ちなみに、似たようなパターンで黒人の身体能力に苦戦するという場合もある。日本人はハングリーが足りないとか説教して来るが、サッカーにかける愛では負けてないと言って勝利だ」


「今時、扱い方を間違えると海外からクレーム来そうだな」


「そして──」


 隅田は、ここで拳を握り締めた。


「いよいよ決勝戦! 相手は前回負けた絶対王者。その雪辱を果たして、遂に俺達は全国へ辿り着く!」


 目を閉じ、感極まったような表情を浮かべている。

 まるで本当に全国への切符を手にした直後のようだ。


「……と言うわけだ」


 満足そうに息を吐いて、隅田は俺を見る。


「わかったか? 俺達が全国への切符を既に手にしているという事が」


「全国編では、糸目の関西人が出て来るんだろうなってことはわかったよ」


 長い隅田の妄想に付き合わされて、休み時間が終わりそうになっている。

 何一つ生産性の無い時間だった。


「そもそもお前、試合に出られるのか?」


「俺は秘密兵器だ。小学生の時から、ずっとな」


「ただの補欠じゃねーか」


 それでよく高校までサッカー続けようと思ったな。


「そもそも、強豪に当たる前に一回戦で負けたりしないのか?」


「大丈夫だ。一回戦の桜ヶ丘は新設校で、噂じゃ最近ようやく11人集めたらしいからな」


「それなら、流石に負ける事は無いか」


 隅田も俺も、そう思っていた。


 ──しかし、旭山高校は負けた。


 桜ヶ丘にはとてつもない天才が一人いて、ほとんどそいつ一人にいいようにやられてしまったのだという。


 しかし桜ヶ丘もまた、札幌山田には大差をつけられて負けた。

 結局この大会で全国への切符を手にしたのは、札幌山田だった。


 しかし、その後桜ヶ丘には元日本代表のコーチが参加し、怪我からの復帰者、グレていた元中学MVP、道外からの転校生などが加入。


 秋の大会では札幌山田を打ち破り、全国制覇を成し遂げるのだが、それはまた、別のお話。

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