王女様との遊園地デート
「あそこに並ぶんだ」
俺は人の列を指差した。幸いそこまで混んでいない。
「俺は見てるから、行ってこいよ」
この年でメリーゴーランドは少し恥ずかしい。そんな思いもあってそう伝えた。
「え……」
目を輝かせていたリヴが一転、表情を暗くした。
遊園地なんて初めてなのに、一人にされたら不安か。
「……やっぱり乗りたくなってきた。一緒に行くか」
「……はいっ」
笑顔が戻った。安心してくれて何よりだ。
流れるメルヘンチックなBGMを耳にしながら、10分も待たずに順番が来た。
俺は馬に、リヴはラクダの乗り物に乗った。
「運転中は立ち上がらないようにお願いします」
注意を促すアナウンスが流れた後、ピー、という音が鳴り、ゆっくりとメリーゴーランドは回り始めた。
徐々に速度が増すが、絶叫マシンには程遠い。
リヴは楽しめているのか?
顔を覗き込んで確認すると、喜んでいるようだ。
俺の視線に気づくと、にっこりと笑顔を返してきた。
嬉しさと照れ臭さの入り混じった感情で俺も微笑み返す。
しばらく回り続けた後、やがて速度が落ち始める。
「まも無く終了いたします。座ったままお待ちください」
完全に静止したのを確認して俺達は降りる。
「楽しかったな。次の乗り物に行くか」
「はいっ」
今日はまだ始まったばかりだ。
俺達は園内を歩きながら次のアトラクションを探していた。
「蓮さん、あれは……?」
リヴが指さした先には、宙を浮いて柱の周囲を周るカラフルなブランコ、ウェーブスインガー。
空を飛ぶような浮遊感。なかなか楽しそうではある。
「乗ってみるか?」
「はいっ!」
2人並んでチェーン付きのブランコに腰を下ろす。
シートベルトを締めたあと、スタッフの掛け声とともに機械が動き出した。
ブランコがゆっくりと浮かび上がると、リヴが「わぁ……」と小さく息を呑む。
そこからは一気に回転。俺たちはまるで遠心力で中央から離れるように広がり、地面が遠ざかる。
時に左右に傾斜しながら全身で風を受け止める。
30秒程で次第に減速し、俺達は地面へと降り立った。
「風が気持ち良かったですね!」
「ああ」
次に向かったのはゴーカートだった。
リヴの希望で乗り込むのは二人乗り。
運転席は俺、彼女は隣の助手席に収まった。
エンジンがかかり、コースをぐるりと回る。
迫る景色は迫力満点だ。
「はっ、速いです!」
そう言いながらもリヴは楽しそうにしているようだ。
一周を終えた後、次は運転するかと勧めたが、隣に乗るだけで満足したようだ。
次はミラーハウスに立ち寄った。
中に入ると、四方がすべて鏡。自分の姿が何人も映る。
「こっちは……あ、違いました」
「リヴ、そっち行き止まりだぞ。ほら、こっちだ」
何度も鏡に騙され、時折ぶつかりそうになって笑い合う。
「ふふっ。蓮さんが何人もいます」
「お前もな。どれが本物かわからない」
鏡に映るリヴはみんな綺麗だ。
本人に面と向かうのは少し恥ずかしいが、これ幸いと俺は彼女の姿を目に焼き付けた。
出口を見つけて外に出ると、日差しが眩しかった。
「たっぷり遊んだな。そろそろ合流するか」
「はい。とても楽しかったです」
俺はスマホを取り出し、近藤に連絡を取る。
「近藤、今どこだ?……スタンディングコースター?わかった。今そっちに向かうから、昼一緒に食おうぜ」
フィアのやつ、マジでジェットコースターばっかり乗ってるのか。
まあいい、合流しに行くとしよう。
俺たちは横に並んでジェットコースターエリアへと向かった。
その途中、一人の若い男性がリヴの横を通り過ぎようとした。
──次の瞬間、その男の手がリヴの首筋へと伸びた!
俺は考える間もなく、咄嗟にその手を掴んだ。
(なんだこいつ……!)
リヴは突然のことに驚いている。
痴漢か?白昼堂々なんてやつだ。
だが様子がおかしい。
「……チッ、なかなかやるな坊主」
(なんの話だ?)
俺はリヴの首にあるものを思い出した。
それは王女としての力を宿しているネックレス。
失えばこの世界にいる資格を失う、大切なものだ。
(これを狙ってきたということは、こいつは!?)
「不意を狙ったんだけど、失敗か。なかなか素敵な騎士を連れてるね」
背後から現れたのは、ショートヘアの緋色の髪の女。年は俺と同じくらいか?
そうしてもう一人、長い黒髪の180cmはありそうな大きな女。
背後には二人の男が佇んでいる。
(王女が二人に、騎士が三人……)
「こうなった以上、場所を変えようか。楽しんでいる人達を巻き込むわけにはいかないからね」
緋色の女が提案する。
この戦い、避けられない。
「鷹見君? リヴちゃん?」
近藤が駆け寄ってきた。俺達を探しにきてくれたのか。
「近藤、フィアと難波さんを連れてきてくれ」
楽しい時間が一転。
彼女達の宿命が、俺達を巻き込もうとしていた。




