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必要とされたい少年と必要としている王女

「……ただいま」


「おかえりですぅ。なんだか二人とも疲れた顔をしてやがるですねぇ。そんなに張り切って走ってきたですか?」


 こっちに何があったかも知らないで、能天気なもんだ。

 俺は今しがた戦いを終えたばかりだと説明した。


「むむ、それならフィアも一緒に行けば良かったですぅ。フィアなら大活躍間違いなしだったですぅ」


 確かにフィアがいればいくらか楽だったかも知れないが、相手のあの消極的な様子だと、王女が二人揃っていたらそもそも戦闘にならなかったかも知れない。


「今回も、蓮さんのおかげでなんとか勝てたよ」


「……俺は大したことはしていない。勝てたのは、リヴのおかげだ」


 謙遜ではない。俺が無力だというのは本音だった。


「リヴの新しい呪文のおかげだ。あれが無かったら、勝てたかどうか」


「ええ? リヴ、新しい呪文が使えるようになったですか?」


「うん、戦いの最中に急に杖が光り出して、直感したんだ。新しい呪文が宿ってるって」


「どんな呪文なんですか?」


「杖から魔法の剣が伸びる呪文だった。そして剣が触れた対象を凍らせることができるんだ」


「それ、めちゃくちゃ強そうです! これならこれからの戦いも連戦連勝間違いないですぅ」


 フィアがはしゃぎ出す。そして俺は、状況について疑問を持つ。


「でもなんで急に新しい呪文が使えるようになったんだろうな」


 あのタイミングで新しい呪文が発動するなど、お互い想定外だった。だが考えても思い当たることなどなかった。


「やっぱり、経験値みたいなシステムがあるのか……?」


「きっとそれです! レベルアップして、リヴは新しい呪文を覚えたです!」


 最近フィアは俺の家のゲームを好き勝手に遊んでいる。

 それに対して、ゲームに疎いリヴにはピンとこない概念の様だ。


「まあ、それならお前が呪文一つなのも説明がつくしな」


「むむ……言わせておけば……これからはフィアも一緒に走るです! そうしたらフィアにも超強力な呪文がやってくるに違いないです!」


 軽口を叩いたが、おそらくフィアも戦闘訓練は受けているのだろう。もしかすると俺よりもよっぽど強いのかも知れない。


 そしてリヴも、今回確かに強くなったのだ。


 新しい呪文、ソルブレイド。

 ただの剣ではなく相手を凍らせるという強力な効果付き。リヴの接近戦が強化され、今後の戦略の幅が広がるだろう。


 だが王女の接近戦は自身の宝玉を危険に晒すリスクもある。使い道には注意が必要だ。


* * *


 今夜は祝勝として手巻き寿司を用意した。

 何もしていないフィアは卵焼きの寿司が食べられるとご機嫌だった。


「こういう食べ方も面白いですね」


 リヴも喜んでいるようだ。

 

 フィアは欲張って具をたくさん乗せ、案の定上手く巻けずに失敗している。

 それを見て皆が笑った。

 

 夕食が終わり俺が先に風呂を済ませると、今日は次いでフィアが入浴。

 居間ではリヴとの2人きり。俺は今日の戦闘を思い出していた。


 今日も勝つことができた。

 だが俺は……素直に勝利の喜びに浸る気分にはなれなかった。


「蓮さん、何か考え事ですか?」


「……まあな」


「……彼女とおじいさんのこと、かわいそうだって思いました?」


 リヴなりに二人の仲を引き裂いた事は心を痛めたのだろう。

 俺もそのことを考えていなかったわけでは無いが、彼女の覚悟を汚したくなくてそれを認めることはしなかった。


「そうじゃないよ。今回指輪が新しく手に入っただろう?」


 王女から先に倒すことができたので、あの爺さんから指輪を回収することができたのだ。


「使い道は慎重に考えないとな。今度こそ、強い騎士を従えないと」


 俺のような素人ではなく、戦いに慣れた人物を。

 剣術や格闘術を習っている人間、その中でも特に強い人材を見つけなければ。


「……そうですね。蓮さんのように頼りになる人が、他にも見つかればいいんですが」


「俺より強い人なんていくらでもいる。今日だって、あの爺さん相手に歯が立たなかった」


 剣と剣の戦いでは話にならなかった。盾があったからなんとか持ちこたえることができたのだ。

 そして相手はおそらく俺達が初戦。爺さんは盾を持っていなかったし、王女の呪文もおそらく一つだけ。


 こっちに有利な条件があったからなんとか勝てたのだ。そうでなかったら負けていたのは間違いなく俺だ。


「蓮さんは強いですよ。あなたほど強い人は、そうはいません」


「お世辞はいいよ」


「そんなつもりありません。なんのメリットもないのに、傷だらけになって戦ってくれる人なんてそういませんよ。事情を話しても、大抵の人には断られると思います」


「確かに、仕事とかしてるとキツイよな」


 俺がぼんやりと答えると、リヴはそっと瞳を伏せた後、静かに言葉を重ねた。


「……じゃあなんで蓮さんは、僕に協力してくれるんですか?」


 俺の戦う理由、それは……


 脳裏に浮かんだのは、クリミアの存在。


「この戦いにはとんでもない悪党も参加してるようだからな。そんな奴に負けたら悔しいだろ。だからだよ」


「それが蓮さんの戦ってくれる理由なんですね。やっぱりあなたは凄い人だ。普通の人はそれでも戦いに参加なんてできませんよ」


「………」


 そんなものだろうか。いまいちピンとこない。

 だが、強いだけではいけないことは確かなのだろう。悪党など論外だ。体も心も強い、そんな仲間を探さなければ。


(……でもな、リヴ。俺が戦うのは、本当はお前が俺を必要としてくれるからだ。俺にはそれが嬉しいんだ)


 もっと強くならなきゃいけない。リヴの役に立てるように。

 だがもし、リヴがより強い騎士を見つけたなら、その時俺はまた必要とされなくなるのだろうか?


 そんなこと、彼女にはとても聞けやしなかった。

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