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新たなる力と彼女の覚悟

 蓮は、自分だけがここにいるのが場違いなような気がした。

 自分だけが戦いに不慣れで、頼りなくて───。


 だが落ち込んでいる暇はない。今は自分にできることをやる。

 今までリヴを守っているつもりだった。けれど、彼女は自分なんかが思う以上に強いのだ。


(リヴ……この戦い、お前が決めろ!)


「かああっ!」


 敵の剣が、再び俺の剣を弾き飛ばしてしまう。老人は追撃はせず、俺を振り切って自分の王女の救出に向かった。


「しまった!」


 剣が無ければ、敵を抑えつけておけない。老人の動きを許せば、リヴは1対2。絶体絶命の危機だ。


「くそっ、待て!」


 しがみついてでも押さえておかなければ。しかし速い。本当に老人か?


 その時だった。


「!?」


 リヴの杖が、突如として青白い光を放ち、力強く輝いた。


「なっ、なんじゃ!?」


 老人が驚いている。そしてそれは、俺もリヴも同じ。何が起こっているのか、わからない。


(いや、これは、あの時と同じ……?)


 クリミアとの戦いの最中も、リヴの杖は光り輝いた。

 あの時、フィズラスは強力な氷塊を生む強力な魔力を発揮した。


 だが、リヴはこの輝きが以前とは違うことを理解していた。


「これは……新しい呪文?」


 斎藤がリヴのもとに辿り着く。彼女が武術を修めていても、2対1で斎藤の剣は防げない。

 ならば、杖の輝きに賭ける以外に無い。


「第二の呪文、ソルブレイド!」


 リヴが呪文を唱えた。フィズラスじゃない?


 次の瞬間、リヴの杖が青白い光で染まり、先端からそれがまっすぐに伸びた。

 まるでオーラか何かが、剣を形作っているかのようだ。


「剣なら負けん!」


 斎藤勇は、リヴにも容赦なく斬りかかる。彼女はそれを杖から延びる魔力で受け止める。


 その瞬間、斎藤の持つ剣は、握る両手諸共凍り付いた!


「うおおっ!?」


 この戦い、初めて斎藤は臆した。リヴはその隙を見逃さず、二度、三度と斬りかかる。

 その度に、斎藤の体は凍り付いていく。


「……すげえ」


 あれがリヴの新呪文。相手を凍てつかせる魔法剣だ。


 斎藤は、完全に身動きが取れなくなっていた。


「迂闊……アウラよ……すまん」


 ついに敵を攻略した。騎士を失った王女が戦闘を続けるのは困難だ。


「あうう……」


「この勝負、僕達の勝ちです。宝玉を砕かせてもらいますね」


「ああ……おじいちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 アウラはその場で泣き崩れた。大きな瞳からいくつも涙がこぼれ落ちる。

 残酷だがこれは勝負だ。悪く思うなよ。


「あのおじいさん、とても強かったです。どうやって知り合ったんですか?」


「……剣術の強い人を探して……道場というところで会えて、事情を話したら力になってくれたんです」


 やはり剣の達人。王女よりも積極的だったのは戦いを求めていたのか、それとも。


「もしかしたら、孫の前で良い所を見せたいおじいちゃんみたいなもんだったのかもな」


 動けない斎藤を見ると、少し恥ずかしそうにしている。あながち間違っていないのかも知れない。


「では……」


 リヴが杖を振りかぶろうとしたとき、斎藤から待ったがかかる。


「頼む、もう少しだけ話をさせてくれ」


 時間を稼いだところで何ができる状況でもない。リヴは俺と目配せをして、少しだけ時間をやることにした。


「……アウラよ。わしはお主が心配じゃあ。そんなに頼りなくて、国など背負っていけるのかと」


 アウラは申し訳なさそうに俯いている。


「じゃが、最後に見せたあの動き。立派じゃった。やはりお主はやればできる子なんじゃ。あれほど勇敢に戦えるのなら、わしは安心できる」


「……おじいちゃん……」


「……この戦いが終わったら、わしはお主のことを忘れてしまうんじゃよな」


 斎藤も涙をこぼす。それにつられるようにアウラの嗚咽もひときわ大きくなる。


「もう少し、お主と共にいたかった。わしが弱いせいで……すまんかった」


「……違う、おじいちゃんは悪くない。わたしが弱かったから……」


 アウラが言葉に詰まる。それでも無理やりに声を絞り出す。


「わ、たしは……おじいちゃんのこと、忘れないから……おじいちゃんが心配しなくてもいいような、強い女王になる……から……」


 斎藤は、深く頷いた。


「……お別れの言葉はもう良いですか?」


「……うむ、最後にアウラから強い言葉が聞けた。もう満足じゃ」


「………!」


 リヴはアウラが持つ杖の宝玉に、自らの杖を振り抜いて粉々に砕いた。


 アウラの体はひび割れ、最後は砂のようになって風と共に消えていく。

 同時に斎藤が身に着けていた鎧もまた、覆っていた氷と共に消える。


 そして意識を失い倒れそうになるところを受け止め、静かに横たえた。


 戦いには勝った。だが爽快感は無かった。


 仲の良い孫と祖父を引き裂いてしまったかのような後味の悪さ。なんだか悪いことをしてしまったような。


 そこまで考えたところで、俺はそれを決して口にしなかった。


 リヴは迷いなくアウラの宝玉を砕く事を選んだ。彼女は知っているんだ。勝つということは決して綺麗な事ではないってことを。


 俺がそれに水を差してどうする。彼女の覚悟を踏みにじるわけにはいかない。


「……勝てて、良かったな」


「……はい」


 いつか負けるとき、俺達の関係も終わる。

 その時が来るまで、俺もリヴとの関係を大切にしたい。


 そう、改めて思わされるのだった。

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