素人の少年の孤独 王女たちは戦うためにやってきた
「かああっ!」
老人の攻撃が激しくなる。おそらく俺が戦いのペースを掴みあぐねていることを察したのだろう。
反撃に出たいが、先ほど剣を弾かれた瞬間が脳裏をよぎる。あれこそまさに、俺と相手の実力差を表しているのだ。
迂闊に仕掛ければさっきの二の舞。ならば頼りはリヴの呪文だが、それすらもかわされてしまった。
それなら次の手……俺は右足のつま先を上げ、2度地面を叩いた。
(あれは……)
それを見て、リヴは数日前を思い出す。
あれはリジーと戦った次の日のこと。
「サインを決めておいたほうがいいな」
「サイン……ですか?」
「有名人になったつもりですか?お前のサインなんて誰も欲しがらないですぅ」
「そういうサインじゃねーよ!この前戦った時、俺は口で相手の王女を狙うように言っただろ?でも当然、相手にもバレちまう。だから、こっちの作戦を予め言葉以外で伝わるように準備しておくんだよ」
「なるほど……相手にこっちの作戦がわからないようにするための連絡手段ってことですね」
「そうだ、例えば俺が右足で地面を2回踏む。これがお前たちに相手の王女を直接狙ってほしいというサインだ」
リヴは蓮と決めた作戦を思い出していた。
今自分の呪文は相手の騎士に防がれてしまった。ならば確かに相手の王女を直接狙ったほうが有効かもしれない。
リヴは向こうの王女の様子を伺う。今のところ何もしてくる様子はない。
それどころか、いまだ戦いに戸惑っているようにも見える。
ならばこっちの呪文で簡単に倒せるのかもしれない。
リヴは杖に魔力が溜まるのを待つ。前回の戦いでは何故か途中で呪文が使えなくなってしまったが、今回はどうか。
(……大丈夫だ。魔力の溜まり方に問題はない)
リヴは杖に前回のような異常が無い事を確認し、相手の王女の宝玉に狙いを定める。それを直接打ち砕くために。
「フィズラス!」
再度、リヴの杖から氷柱が放たれた。それはまっすぐに相手の王女へと向かっていく。
(よし、いいぞ!)
蓮とリヴの作戦通り。相手の王女は戦い慣れていない。これで終わりだ。そう思った。
だが──
「ウィ、ウィルドジス!」
相手の王女が呪文を唱えると、氷柱は届かず見えない何かに吹き飛ばされてしまった。
(何が起こった!?今のは、風?)
おそらく防御呪文なのだろう。突風が彼女の周りで起こり、氷柱から身を守ったのだ。
「きえいっ!」
相手の防御呪文に気を取られている瞬間に、老人は襲い掛かってきた。それを何とか盾でいなす。
敵の騎士はこっちの隙を見逃さない。明らかに格上。騎士同士の戦いでは分が悪い。
だから相手の王女を狙ったのに、それも防がれてしまった。
(これは……この爺さんをなんとかしないと、勝てないってことかよ)
盾は相手の有効打をことごとく防いでくれている。相手も攻めあぐねているようだ。
だが、一瞬たりとも気は抜けない。敵の動きは、老人とは思えないほど素早いのだ。
全神経を研ぎ澄まさなければ防御すらままならない。これでは、攻撃に回る余裕なんてない。
守勢に回り続けていると、次第に敵の剣に盾の動きが追い付かなくなってきた。
剣も盾もそれなりの重量がある。これを振り回して長時間戦い続けるのは困難だ。
敵の動きは衰えない。それどころか、速さが増しているようにも思える。
(違う、俺が遅くなっているんだ……)
このままではジリ貧。膠着が続けば不利なのはこっちだ。
しかし現状を打破する策など思いつかない。
(リヴに呪文を放ってもらって、何とか隙を作るしか……)
そのとき、老人の目線が動く。目の前の俺ではない何かを見ている。
釣られて俺も同じ方向を見ると、そこに映っていたのは──
「リヴ!?」
リヴが、回り込んで俺達を避け、そして敵の王女へと向かっていく。
そして懐に入り込むと、杖を振り回して直接攻撃を仕掛け始めた!
「はあっ!」
「ひうっ!」
(リヴ、そんな作戦打ち合わせにはなかったのに……)
だが、悪い戦法ではない。俺がこの爺さんを抑えつけている間に、リヴが接近戦で宝玉を狙う。
ここはリヴに任せるのが最適解かも知れない。
「くっ!」
老人がこの場を離れて救出に向かおうとする。なら俺は──
「させるかっ!」
敵の隙を突いて俺も剣を振るう。ここは、騎士同士、王女同士で戦うのがベストだ。この爺さんをそっちへは行かせない。だから。
(頑張ってくれ、リヴ!)
リヴは杖を振るい連続攻撃を仕掛ける。その動きは闇雲ではない。明らかに型にはまった洗練された動きだった。
──リヴは何か、運動をやってたのか?
──護身術を習っています。
(護身術ってレベルじゃねーな)
それは身を守るためではなく、戦うことを目的とした動きだった。
想定以上にリヴは強い。これなら相手の宝玉を砕くなど容易か。そう思ったが。
「ひっ、ひっ、ひううっ!」
相手の王女も、時に身を翻し、時に杖で受け止め、リヴの攻撃をかわし続ける。
怯えているように見えて、その動きもまた素人のものではなかった。
……考えてみれば、彼女達は戦うためにこっちの世界に来ているのだ。
しかも遊びではなく、国の威信をかけて。
それなのに、何も持たないまま送り出されるわけがない。
そして、目の前の老人もまた剣の達人。
(素人なのは……俺だけだ)




