戦いを求めぬか弱き王女と老練の剣士
「じゃあ行くか」
「はい、じゃあフィア、留守番よろしくね」
「いってらっしゃいですー」
俺とリヴは、ジャージに着替えてランニングに出かけた。
今後も戦い抜くためには体力をつけなければならないと思ったからだ。
最初は俺1人で始めるつもりだったが、リヴも是非一緒にというので二人で走っている。
リヴはフィアも誘ったのだが、面倒なことはしたくないと断ったのだ。あいつらしい。
俺達は住宅街を抜け、以前リジーと戦った河川敷までやってきた。
走り始めて1時間は経っただろうか。リヴはなかなか大変そうだ。
俺は彼女を置いて行かないよう、ペースに合わせて一緒に走る。
「……すみません、僕、蓮さんの邪魔になってますね」
「気にするな。1人で走るのも退屈だからな。一緒にいてくれて嬉しいよ」
リヴが邪魔ではないというのは本心だが、俺のトレーニングにはやはり物足りない。
リヴが疲れたなら休憩させて、その間は俺1人で走っても良いだろう。
「蓮さんって、体力ありますよね」
「スポーツをやっていたからな。でも今は衰えちまってる。また鍛え直さないと……」
「ハンドボールっていうんですよね。今はやめちゃったんですか?」
「……まあ、色々あってな」
言いにくそうにしている俺を見て、リヴは何かを察したのだろう。
それ以上話を広げようとすることはなかった。
「ほい、お疲れ」
「ありがとうございます」
俺は持参していたペットボトルのお茶をリヴに手渡す。
河川敷の丘に腰掛け、落ちていく夕日を2人で見つめていた。
思えば家にフィアが来てから2人きりになるのは久しぶりだ。
休憩がてら、少し2人だけで話をしていこうか。
「リヴは何か運動をやっていたのか?」
「護身術を習っています。その他の運動は、学校でカリキュラムとしていくらか」
「学校に通っていたのか」
当たり前か。でも王族が通うんだからいい学校なんだろうな。
「ええ。学友はみんな優秀な人ばかりです」
そう言いながらも、リヴは少し寂しそうな目をしているように見えた。
「……やっぱり、僕に対してはみんな一歩引いた接し方をしてくるので。それが少し辛かったですね。だから、僕と本当に仲良くしてくれるのは、フィアくらいで」
王族と対等に付き合える人間などそうはいないだろう。
それは仕方のないことかも知れないが、リヴもずっと孤独を感じていたのかも知れない。
「リヴ、俺には遠慮なんていらないからな」
俺にできることなんてたかが知れているだろうが、リヴが少しでも過ごしやすくなるなら、できることはしてやりたい。
「……ありがとうございます。僕は蓮さんに何度も助けられていますよ。この世界で出会えたのが、蓮さんで本当に良かった」
そう言って、彼女は笑ってくれた。
「お主たちが王女と騎士か?」
不意に声を掛けられ、振り向くとそこにはおじいさんがいた。70歳くらいだろうか。
(なんでそのことを……?)
老人の奥には、リヴと同じくらいだろうか、一人の少女がいた。
おそらくこの二人も、王女と騎士。俺達に戦いをしかけようというのか。
「あの……やっぱりやめませんか?無理に戦いなんてしなくても……」
「何を言っとるか!いつまで逃げるつもりじゃ!」
「あう……」
相手の王女、腰まで届く栗色の髪の少女は、おじいさんに叱咤されて身を縮こまらせている。
大きなたれ目が可愛らしいが、今はそれがとても頼りなく見える。
どうやら彼女に敵意は無い様だが、反面、騎士と思われる老人は戦いを求めているようだ。彼はリヴに語りかける。
「お主も、戦うためにこの世界に来たんじゃろう。ならばこの斎藤勇が相手になろう!」
老人の姿が光を帯び、緑色の鎧を身に着けた騎士の姿となる。
剣を構えるが、襲い掛かってはこない。俺達が戦えるようになるのを待っているようだ。
「リヴ」
「……はい」
戦いは避けられない。それを悟った俺達も、それぞれが王女と騎士の姿となる。
俺達はこれでいつでも戦える。だが相手の王女は、ふわりとしたワンピースのままだ。
「……そっちの準備ができていないんじゃないですか?」
「お主は……この期に及んでまだ戦わんつもりかーー!」
「ひうっ!」
老人に叱りつけられ、少女は光を呼んで薄い黄緑色のドレスに身をまとう。
「……アウラ・フェルネリオ。いまから参戦します……」
「……僕は、リヴ・クリュスタ。よろしくお願いします」
騎士は好戦的だが、王女は消極的。この戦い、どのように動くか。
老人は剣をまっすぐに構える。一目見てわかる。熟練の剣士だと。
おそらくは剣道か。迂闊には動けないと直感した。
だが老人は足さばきと剣で間合いを測り、迷いなく踏み込んでくる。
速い!
俺は相手の攻撃を、剣ではなく盾で防ぐ。
左腕に伝わる激しい衝撃。だが相手の剣をしっかりと受け止めることができた。
「盾だと?お主、剣だけで戦わんつもりか?」
「……使えるものは、何でも使わせてもらいますよ」
「剣と剣で戦えると思っておったのに……」
相手は俺が盾を持っていることを想定していなかったようだ。
王女が戦いに消極的であったことも考えると、相手はおそらく今回が初戦。それならば、いくらでもつけ入る隙はあるはず。
そう考えた俺の期待は、甘かった。
「きええーっ!」
相手の動きがあまりにも速い。目をつむる暇も無いほど、一瞬で剣を叩き込もうとしてくる。
盾が無かったら、剣と剣の戦いであれば、おそらくとっくに決着がついてしまうだろう。
幸いなのは、攻撃の瞬間に大声を上げてくること。
その声に俺の動きは自然に反応し、何とか盾で防ぐことができていた。
「こっちからも……!」
俺も剣を使って反撃を試みる。だが――
「かあっ!」
相手の剣が俺の剣を弾く。そして宙を舞い、後方の土の上へと飛ばされた。
「しまった!」
「きええい!」
返す剣で、相手はさらに攻撃を叩き込もうとする。だが。
「フィズラス!」
リヴの杖から氷柱が放たれ、老人のもとへと向かっていく。
直撃する。そう思った次の瞬間。
「かああーっ!」
なんと老人は、剣で3つの氷柱すべてを叩き落してしまった。
「なっ……マジかよ!」
だがその隙をついて、俺は自分の剣を拾い上げることができた。
俺は距離をとって相手に剣を向ける。
老人は鋭い眼光で睨みつけてくる。その佇まいはまさに達人。
間違いない。この人、今まで戦ってきた騎士の中で一番強い!




